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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
40/93

その39 〜暴露〜

 王城敷地内──

 第三庭園に一人、静かに腰掛ける男がいた。

 

 男は、王と呼ばれている。

 実際にも、王かも知れない。

 

(王、か)


 祝宴場から離れた静かな、お気に入りの庭園で、ハラニーチ四世は一人自問する。自分は単純に、その生まれから王になった。


 ゾークヴツォール始祖王や、(いにしえ)のシファイシタール帝などは知らず──代々続く歴代の王は、皆が皆、そうなる宿命を負って”そう”なった。

 自分も”そう”だし、先もそうだろう。

 あとは、天の命を受ける器の問題だ。


 真に”器”なら、女王でも構わない。伝統など関係ない。

 しかしサーララでは足りない。人格は関係ない。ただ足りない(・・・・・・)

 レオライドは、平時の王としては必要十分。ただ、現状では足りない。

 消去法で、サリオンが残る。


 ルベルベラや大貴族達の意向など、関係ない。

 権力の本質が何か、彼ら彼女らは忘れている。


(これを機に思い出させるのも、国益に通じるか)


 ふと、王は気配を感じた。

 そのほうを覗くと、人影があった。

 それを見て、王は少し笑った。


「なるほど。そなたが、わたしの死か」


   ***


(これは特ダネですわ)


 新聞記者アイリーンは、思わず舌なめずりしそうになり、慌てて自重する。


 典礼大臣の愛妾──実際には政治的な傷をタネに脅して──という設定で、王の主催する祝宴に潜り込んだ当初の目的は、英雄パルテオンを救ったという平民二人に、王族貴族がどのような関わりを持つか、持とうとするかの取材だった。


 政治の世界というのは、”関係性”の世界。


 その関わりよう如何によっては、貴族より遥かに接触しやすい平民の二人が、極上の報道ソースと化すかも知れない。

 ……もっとも、その本来の意図からすれば、この二人は限りなくハズレ物件だった。ヤマシタという中年の行商人は祝宴中、ほぼ誰からも放置。カンタローという少年も同様で、はては廊下で城中のメイドを口説き出す始末。


 もっとも、この程度の空振りは茶飯事。これぐらいで挫けていては、新聞記者などとても務まらない。


 勇者パーティには近寄りがたい。

 以前執拗につけ回した結果、国王の名で厳重注意勧告が下ったのだ。


「公権力の弾圧には屈しない!」


 とカッコつけたい気分もあったが、どうも本当に新聞社自体を消滅させられる気配があったので、さしものアイリーンも自粛せざるを得なかった。

 

 そこにきて、この国王殺害事件である。


(”禁忌の呪文”のネタも、凄まじい! ──けど、これってたぶん、迂闊にバクロすると、政府はおろか魔術師ギルドまで敵にまわしますわ。このへんは上手いことボカして……とにかく犯人ね。外部犯か、内部犯か。いずれにせよ、警備兵、近衛兵の失策が問われるのは必定ですわ。勇者にのされたらしい、ヤットール将軍の有り様も、面白おかしく書けばウケそうですわね)


「んー? ”銀の法則”と、記憶が読み取れねぇーのには、関係があるのか?」

 ゴンドラゴンドが、納得がいきかねるといった風情で訊ねる。


(お、ナイス質問。わちしも、その辺が疑問だったんですわ)


「えーっとねぇ。どこから説明したらいいのか……」

 面倒そうに頭をカリカリかき、ミューラが解説を始める。

「普段、わたし達みたいな魔術師が呼ぶ”魔力”は、ごく薄くではあるけど、そこらかしこに常在しているの。空気にも、地面にも、そのへんに石ころにも、その意味では魔力はある。もちろん、魔術の素質を持たない、普通の人間にもね」

「「「へぇー」」」

 リアン、クルクル、甘太郎が、ほぼ同時にそう言った。


「……で、魔術師は普通、己の魔力を起点(・・・・・・・)として(・・・)術式を組み上げ、周囲に満ちる薄い魔力をかき集めて、魔術を完成させる。呪文を唱えるのは、術式を組み上げるのに不可欠なプロセスだから。ここまではいい?」


(そして”文無し”の魔術師ミューラは、自前の魔力だけ(・・・・・・)で魔術を使えるとかいう怪物だから、呪文が必要ないんですわね。それは、まぁ有名だからあちしも知っていますわ)


 遠巻きにミューラ達を見守る貴族たちに混じって、典礼大臣の腕にすがりついたアイリーンが、注意深くその先を聴く。


「次に”銀の法則”──誰が設定(・・)したかとか、そーいうのは神話の領域だから端折(はしょ)るけれど……これは基本、”魔”を無効化する。銀製品を身に着けているだけで精神操作系の魔術から身を護れたり、結界障壁を破壊できたりするのは、そのせいね」


「もっとも自分の魔力すら弱体化させるので、基本的に魔術師は持てないし、強さの源が魔力である”魔族”も使えない、だったかな」

 

 胸元を手でおさえ、レオライド王子が確認する。

 女魔術師は頷いた。


「そのとおりです、殿下。そこで、先の”過去視の呪文”の話に移ります。これは、物質や空間の(・・・・・・・)魔力に残留(・・・・・)した、記憶の振動を読み取る術です。映像、音声、そういったものが、万物に内在する魔力に、振動として記憶されている──。古いものほど読み取りにくくなりますが、ぼんやりとしたものなら、十年前でも何とか読み取れます」


「”数時間前”なら、鉄板ね」

 サーララ姫が言った。

「それで、”銀の法則”か」

 レオライドが、納得する。


「え、え? なに。わかんない」

 クルクルが、不安げにキョロキョロした。


「んー、いや話聞いとけよ、お前。先にサリオン殿下がおっしゃった通り──要するに、陛下は銀の武器でやられたっつー事。”法則”により、刺した瞬間、陛下の肉体に内在していた薄い魔力は散った。それはすぐさま周囲の魔によって埋められただろうが、同時に”記憶の波動”も押し流され、消えてしまった──そういう事だろ?」

 

 ゴンドラゴンドの注釈に、ミューラは軽く頷いた。


「おい、どうするんだ、これは」

「結局、陛下を殺害した犯人が誰か、分からなんではないか」

「だいたい、凶器はどこだ。武器も見つかっていない」

「外部犯だ! やはり外からの何者かが陛下を刺し、そのまま逃亡しているのだ。わざわざ銀の武器を使ったのは、面を割らないための時間稼ぎ──」

「しかし銀の武器など、けっこう高価な品だぞ。ナイフ程度でも、かなりの額になる。平民の暗殺者ごときが、それだけの理由で用意するというのは、少々不自然な気がする。そも、”文無し”が過去視の呪文を使えると判ったのは、つい先程ではないか」

「いや、貴人であるなら、護身用に携えておくのが礼儀だろう」

「はじめに発見したのは、ゲソス伯だったかな」

「ふむ、第一発見者──凶器の始末──いや、それ以前に……」

「勇者を殺害犯に仕立てようとするなど、不自然な言行も」

「まさか」

「ひゃぁ? ひ、ひがうひがう! おへじゃなひっおふぇじゃなふぃっ」


「ゲゾス・ベンベン伯爵。王の遺体を発見した、時刻は憶えていますか」

 サリオン王子が、静かに問うた。


「は、はひぃっ! えと、その……」

 ゲソスは、鼻水と涙を服の裾でこすりつつ、必死に思い出していた。


(このゲゾス伯爵の醜態だけで、本来は一面トップ記事の値打ちものですわ)

 しかし惜しいことに、今の状況ではせいぜい添え物ぐらいの価値しかない。


「そ、そう。二十時、半でした。確かに。王妃殿下に、陛下の探索を命じられたのが二十時過ぎ。お、わたしはそう、まずため池の方を探しに向かいました。しかしそこにはおられず、色々あたった末、第三庭園に──それぐらいの時間に、ハイ」


「そういえば、十九時半──いえ、もう少し後だったかしら。色直しをして、メイドと一緒に祝宴場へ戻ろうとした時、渡り廊下で陛下とすれ違ったわ」

 まさに”思い出したように”といった様子で、サーララが言った。


「僕が、リアンと一緒に、第三庭園で陛下をお見かけしたのは、十九時を少し過ぎた頃でしたね」

 サリオンが、付言する。

「ゲゾス伯の言葉が正しいとするなら、陛下は十九時半から二十時半までの間に殺された、ということになります」

「ちちち誓って! 誓ってこのゲゾス、真実だけを述べておりまするぅっ、王子ぃ!」

 ゲゾスが、元に戻った。


「その時間帯、衆人環視されていた人は、自動的に犯人から外れるってことで?」


 甘太郎が、やや芝居がかかりに両手をあげ、周囲を見回した。


「と、言われてもな」

「ふむ。用足しに中座するなど、ままあることであるし」

「王妃様は、ずっと祝宴会場におられたな」

「勇者殿と、サリオン王子も、戻られてからはずっとおられた気がする」

「勇者のお連れの方々も──そう、いたように思うな」

「こたびの功労者の平み……お二人も、まぁいたかな。異国人ゆえ、目立つ顔立ちであるし、それは憶えているな」


「わたしは、その時間帯、少し外していたわ」

 サーララがそう自己申告。 

「わたしもだ。二十時過ぎかな、外に出ていたと思う」

 レオライドも、堂々と言った。


 皆が、沈黙する。


「はいはい、そこまで! 探偵ゴッコはお仕舞(しま)いです」

 パンパンと手を鳴らし、言ったのはルベルベラ王妃。


素人(しろうと)が何人集まって知恵を絞ったところで、専業者の足元にも及ばぬことなど、皆も承知でしょう。今宵の祝宴に参じた皆は、明日以降、近衛の者から詳細な聴取を受けてもらいます。畏れ多くも陛下を(しい)した者が何者であれ、綿密な調査によっていずれ判ずることとなるでしょう。これ以上、現場を荒らすことのないよう。では散開!」


(有無をいわさず、有耶無耶にするつもりですわ。相変わらずの烈女)

 アイリーンが、呆れを通り越して感心の域に達していた。


「あ、ちょっとよろしいでしょうか。王妃様」


 手を上げたのは、甘太郎。


「よろしくありません。分を弁え、控えなさい。(わらべ)でもあるまいに、道理ぐらいは分かる年頃でしょうに。空気も読まず暴れ狂うのは、そこの勇者だけで十分です」

「いえいえ、お時間は取らせません。ただ、すぐ見つかった方がいいのかと思いまして。銀の凶器でしたっけ?」

「ちょ、ちょ、ちょっと。甘太郎くん。ヤバいって」


 正作が、あわてて少年の肩を持った。

 それを見て、甘太郎は笑った。


「なに言ってるんですか、正作さん(・・・・)。あなたばかり楽しむのはずるいですよ。そろそろ俺にも、遊ばせてください」


「……どういうつもり?」

 ミューラが、甘太郎を睨む。

 ほかの皆、貴族たちも似たような反応。


「今まで隠してましたけど、実は俺、異世界人なんですよね。その、異世界知識? つーやつで、王様を刺した武器の特定とかやっちゃおうかなって事なんですけど、いいですか?」 

 

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