表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
38/93

その37 〜警備兵長かく語りき〜

 その時の状況を、のちに、城内警備兵長ジミー・フェイヴォン(31)が語った。


「いや、思ったのは単純なことですよ。ごく単純。当たり前──」


 えっと、王都に来たのは、十九歳の頃ですね。

 それまでは故郷の村……


 王国の東の方にフェイヴォン村ってあるんですけど、知ってます? 特産品は、薬効のあるフェイヴォン人参っていう──ぁ、はい、すみません。そこでヒラの警備兵やってて。で、野盗退治やらでぼちぼち評価されて、一応栄転ということで王都に配属と、ええ。


 いや、嬉しかったですよ普通に。


 なにせそれまで週給銀貨三枚だったのが、一気に五枚になりましたから──ま、そのぶん物価もアレですけど。それは、なんといっても王都ですから。


 四年前、遠征で魔族退治部隊に随伴し、そこそこ功績が残せたので、城内警備兵長に。軍の格付けでいえば、中隊長ですね。古風な表現だと、百人隊長とか、まぁそんなような規模感の。


 お前の自慢話はいいって?

 いや、ここは説明しておかないとですね、伝わらないと思うんですよ。

 あとの話の”感じ”がね。

 

 要するに自分、わりと”やる方”ってことです。


 戦場では魔族を何十体も殺しましたし、棒きれ一本あれば、虎ぐらいなら撲殺できます。ここだけの話、自分クラスの人間十人で囲めば、将軍相手でもいけると思います。


 だから、勇者──強いとはいっても、結局はその延長線上の存在だろうなと。

 正直、思ってました。


 あの夜までは。


   ***


 その日は、城内の祝宴日でした。

 当然、内外の警備は強化されています。

 

 近衛兵長がトップで、その下が近衛兵──全員エリートです。

 その下につくのが我々、城内警備兵長。


 実際に警備につくのは、我々と、その下の連中ですね。

 近衛兵の警備計画をもとに、警備兵長たちが現場で指示を出すと。


 時刻は、二十時半すぎ。


「第三庭園のほうで異音がする」

 ──という報告を受けたのは、たまたまうちの隊でした。

 わたしは、近くにいた別の警備兵長に言付けした後、まず手勢七十名を連れて現場に急行しました。


 薄明かりの中、風光明媚だった第三庭園が、軍勢に荒らされた後みたいになっているのを見て、自分は警戒を強めました。複数の賊が侵入している、咄嗟にそう思いましたね。


 しかし、そこにいるのは二人だけ。

 いや、立っているのが一人。

 腰を落としているのが一人。

 

 あと、地面に横たわっているのが、もう一人。


「陛下?!──ま、まさか」

 

 咄嗟に声が出ました。

 そりゃ、そうでしょう。

 うちの国で一番偉い方が、衣服に血痕を残して斃れているんですから。


 それで、立っている人物──小柄な──が、こちらを向きました。

 眼、です。青い瞳。

 それしか視えませんでした。

 

「勇者が、らら乱心しちゃぁッ! ととと捕らえよ! いや殺しぇァ今すぐゥッ!」


 貴族らしい中年男が、乱心気味に唾を飛ばすのと、

 ”彼女”が

 こちらに

 跳んでくるのは、

 ほぼ

 同時でした。


 自分は咄嗟に腰の剣を抜こうとしたのですが、柄に手が触れるよりも先に、相手は── 十mほどの間合いを一気に詰め──左手で、こちらの胸元を押しました。


 数秒、意識が飛びました。


 乱れる視界と意識の中、かなりの前方で、こちらの兵達が次々に崩れ落ちているのが見えました。戦場が移動したのではなく、自分が(・・・)後ろに飛ばされ、転がっていたのです。


 横たわったまま胸元を見ると、くっきり小さな手形が残っていました。

 鉄板鎧の表面に、です。


 いえ、掌底ではありませんでした。

 軽く押されただけ(・・・・・・・・)でこうなった事を知り、自分は戦意を喪失しました。

 

 手加減されている以前の話です。


 ”彼女”の右手には小剣が握られていましたが、それを使っている様子は一切ありませんでした。叩いたり蹴ったり、そんなこともありません。あったら、あの場に転がっていた自分の兵達は、骨折程度では済んでいなかったでしょう。

 

「おい、大丈夫かジミー!」


 さっき声をかけておいた同僚の警備兵長が、別の手勢を連れて駆けつけました。

「どうなってる」

「まて! 手を出すな! 状況を──」


 次の瞬間、その同僚は宙を飛んでいました。

 やはり、腰の得物に手をかけようとした途端です。

 あとは、この繰り返し。


 その様子を、自分は少し離れた場所で半身を起こし、傍観していました。

 肋が折れていましたが、その時は痛みはありませんでした。

 麻痺していたんですね、いろいろと。


   ***


 第二王子サリオンは、自分の身長ほどもある大岩の陰に隠れ、その(・・)一部始終を見ていた。


 一度、彼はリアンと一緒に祝宴場へ戻り、少し食べてから、また腹ごなしに外へ出た。

 リアンが、

「まだ陛下は、さっきの庭園におられるでしょうか」

 と言い出したので、様子を見に行こうという事になったのだ。

 

 そこにいたのは、第二王妃ルベルベラの腰巾着、ゲゾス・ベンベン伯爵と──

 物言わぬ(むくろ)となった、ハラニーチ四世の姿。


「おお王子! ち、ちちち違うんです、これは、違う……」

 これ以上ないというほど、無様に取り乱したゲゾス。


 サリオンは、”父王の死”という衝撃を理性で無理やりねじ伏せ、考えた。


(陛下が殺された──ゲゾスに? ただの発見者かも知れないが、第一発見者ほど怪しむべきという話も当然ある。いずれにせよ、詳しく話を聞く必要が)


「ベンベン卿。どういうことか、説明……」

「陛下を殺したのは、あなたですか」


 サリオンの言を遮って、リアン。


「えっ、ちっ、違ッ──そ、だ、おまっ──」


 混乱の極みにあったことを差し引いても、この時のゲゾスの反応は最悪だった。


「で、殿下のお言葉を遮って、ぶぶブッ無礼なことを! おお俺を、誰だと思ってる! ゆゆゆ勇者だとてしょせん平民、あまり無礼なこ──」


 リアンが小剣を振った。


 派手な音をたててゲゾスのすぐ右側の地面が割れ、後方の庭石樹木が先々まで砕け散る。

 伯爵のズボンに、じわっと染みが浮いた。


(あ、こいつは死んだ)


 妙に冷静にそう結論し、サリオンは巻き込まれないよう、リアンから距離を取る。


(今考えるべきは、陛下を殺害したのは誰か。次王を速やかに決すること。庭園の破壊と、ベンベン伯爵の事故死(・・・)についての、それらしい理由付け。今の破壊音を聞きつけてやって来るであろう、警備兵達へのいい含め。これは、死者が何人出るかでも変わるな。怪我人程度で済めば良いけれど。……王妃、兄上、サーララ、勇者の仲間達も駆けつけるか? そこは、来る順番によって臨機応変に対処するしかない、か)


 今、王がいなくなるのは完全に計画外だが──さりとて予測不能の事態というほどではなく、大筋では問題ない。

 ただ、この混乱で『まぎれ』が起こることは避けたい。

 伯爵の”事故死”で、王妃が煩そうだが──


 城内警備兵が到着した。 

 

(しかし陛下が、まさかこんな最期を遂げるとは。一寸先は闇、か)


 リアンがほとんど反射的に兵達を倒していくが、サリオンの思考を妨げるものではない。

 三部隊ほど壊滅したところで、王妃達の一行がやってきた。


(──来たな。ここからが本番だ)


 サリオンはいぜん姿を隠したまま、様子見に徹する。


   ***


「いったい何の有様ですか、これは」


 ルベルベラ王妃と、その取り巻き貴族たちの到着。

 それを見たゲゾス伯爵──涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ──が、パァッと顔を輝かせた。


「おおお、王妃ざばぁっ!」


 対する勇者は、息一つ乱した様子もなく、ゆっくりと振り返り、王妃らを見る。

「陛下が殺害されましたので、犯人とおぼしき男を問いただしております」


 普段のリアンとは似ず、なめらかな口調。


「殺害? ──ッ、こ、これは」

「警備兵たちが!」

「いや、違う。あれ、へ、陛下! 陛下が倒れてッ」

「殺害って、まさか」

「え、ベンベン伯が」

「ひ、ちが。違う違うちがぶふっ、おれ、わた、わたしじゅない! ない!」


「静まりなさい」


 王妃の一喝で、混乱はすぐさま鎮静した。


「勇者よ。この累々と倒れる警備兵達は、何事ですか」

「わたしがこの男を問いただすのを邪魔するので、眠ってもらいました」


 貴族たちが、どよめいた。

 城内警備兵は、ただの兵士ではない。

 近衛兵の直下にあり、王と王族を守護する任についている象徴的な存在だ。

 手を出せば、平民なら、問答無用で(・・・・・)反逆罪となる。


「将軍。近衛兵長」

「「はっ」」

 王妃に随伴してきたヤットール将軍、近衛兵長が軍礼を取る。

「そこの叛徒(はんと)(とら)えなさい」

「「御意」」


 ヤットールが長槍を構えた。

 ”竜殺し”の英雄パルテオンが討ち取った、黒竜バイエルンホーン──その角を削り出して造られた、特別製の長槍だ。鋼鉄よりも軽く、そして鋼鉄をも貫く強度を誇る。


 近衛兵長もまた、将軍に並ぶほどの実力者。

 その二人が、完全武装の近衛兵精鋭三十名を率い、勇者リアンを取り囲んだ。

 

「勇者リアン・スーン。警備兵への暴行容疑で一時その身柄を拘束する」

「……どうぞ」


 少女は言った。


「できるものなら」


   ***

 

 城の中心部にそえつけられた、巨大な時計塔の『九時』のあたりの文字盤に、近衛兵長が刺さっている。穿たれた大穴からはみ出した下半身は、ぐったりして動かない。

 ヤットール将軍は、半狂乱になったゲゾスのすぐ横で、妙な具合に身体をひねり、白目をむき、少しく痙攣し、泡を吹いて転がっていた。鎧は半壊。持っていた自慢の槍は、先程まっ二つに折られていた──素手で。

 ほか近衛兵も、まったく平等に、先の警備兵達と同じ風になっていた。

 

 城内警備兵長、ジミー・フェイヴォン(31)は、語る。


 思ったのは単純なことですよ。ごく単純。当たり前。


 そりゃ、”魔王”を倒しにいくんですよ。

 勇者って。


 人智を超えて強いぐらい、当たり前じゃないですか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ