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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
37/93

その36 〜クローズド・サークル〜

「だからぁ〜、領主なんて関係なくねぇ? サクッときて、サクッと祝ってくれたらいいんだからさ」

「ベンベン領主のことのみにて(あら)ず。あの辺りは、我の所属する”教会”と宗派が異なる。信心厚い村民の中には、好ましく思わぬ者も出よう。遺憾、別宗、異端、別送」

「大丈夫だってぇ、そこはなんせ田舎モンだから。有名人が来てくれたってだけで有り難がるもんね」

 

 祝宴場をあてどなくうろついていた正作は、ふと窓際で、勇者パーティの二人──弓師の少女クルクルと老司祭パルテオンが、何やら言い合っているのを見つけた。


(おや。なんだか、珍しい組み合わせだね)


「何かあったのですか」

「おっ、ヤマシタさん。あんたも聞いてよ、大事なことなんだよー」

 

 要約すると、こういうことらしい。


 クルクルの故郷の村で、彼女の幼馴染がこのたび婚礼の運びとなった。ついては、仲間であり高名な司祭でもあるパルテオンに祝詞(のりと)の一つもあげて欲しいと。そう彼女は頼んでいるようだ。


 ……が、パルテオンは二つの理由で、それを拒んでいる。


 一つ目は、先も少し聴こえた通り、宗派が違うということ。

 もう一つは、


「ベンベン領主は悪評高き人物。必ず本件に絡み、こちらを利用してくる筈。我は身軽ならず。多少なり、ワフルの街の信徒達に迷惑がかかるとなれば、いかな仲間の頼みとは申せ、軽々とは受けられぬ。承知、経緯、周知、営為」


「そんなん大丈夫だってー。そりゃ確かにあたしは元々、あのクズヒゲから村への経済援助と引き換えに勇者組に入ったわけだけどさ。後で王様から直々に釘を刺されて、あんまりやいのやいの言えなくなってるんだから、あのゲスヒゲは。頼むよー、あんたの名前は適度にハッタリ利いてて、いい感じなんだよー」


(誰だか知らないけど、ひどい言われようだね。その領主)


 というか、そんな理由で勇者パーティ参入とかもあるのか。

 世間に知られたら、外聞が悪いってレベルじゃない気もする。

 この世界の常識観では、けっこうOKなのか?


「……待て。何か、おかしい」

 

 のべつ、まくしたてる少女を左手で制止し、パルテオンが周囲を探る。

 つられて、正作も周りを見た。


 確かに、何か(・・)おかしい。

 つい先程まで呑気に飲み食いしていた貴族達が、不安げに小声で話したり、小走りに去っていったりと、あきらかに浮足立っている。


「ねぇ、何かあったか、あなた達知ってる?」

「あ、ミューラ」


 クルクルが言った。

 向こうから女魔術師とゴンドラゴンドが歩んで来た。


「んー。何か、あったらしいな。ルベルベラ王妃も、さっき取り巻きを連れて外に出ていったぜ」

「つか、リアンどこいったん?」

「外、かしらねぇ。会場内にはいないみたいよぉ」

「山下さん、皆さんも集まって──どうかしました?」

 皿に料理を載せて、甘太郎もやってきた。


(もう宴会? がはじまって二時間ぐらい経つのに。よく食べるなぁ、彼) 


 本筋と関係のないところで、感心する正作。


「とりあえず、あたし達も外に行ってみる?」

 クルクルが提案する。


「下手に動かない方がいいかなぁ、わたし達は。立場的に」

 落ち着いた口調で、ミューラ。


「──そうですね。周りは貴族が大半ですが、俺たちは違う。外部で事件性のある何かが起こっていた場合、うかつに動き回って冤罪、みたいな展開も有り得そうですし」

 甘太郎が、それに同意する。


「んー、確かになぁ。しょせん俺らは平民。こと裁判にでもなった時、証言の重さ一つとっても、お貴族様の足元にも及ばねぇし。リアンの戻りが遅かったら、その時にまた判断しよう」

 ゴンドラゴンドが言い、パルテオンも無言で首肯。


『陛下──緊急事態です』


 その時、正作にエクステリアの”声”が届く。


『周囲に勇者の一味がいるのは承知しておりますので、そのままお聞きください。先程、王城敷地内・第三庭園なる場所で、ゾークヴツォールの国王ハラニーチ四世が、何者かによって殺害された様子です』


「ふえぇッ!?」


 思わず、変な声をあげてしまった。

 皆の視線が、一気に正作へ集まる。


「……なに、いまの」

 代表して、クルクルが訊ねる。


「あ、ご、ごめ──そ、く、クシャミが」

 赤面涙目で、ギリギリの釈明を試みる正作。


(国王が、殺された? 誰に、どうやって)


 国家元首の暗殺。

 内部の陰謀か。外部の刺客か。


 真っ先に思いつくのは”魔族”──特に魔王軍。

 平たくいえば現在、王城内潜入中のナンギシュリシュマとエクステリアが最高に怪しいが……その殺害の一報を知らせてきたのが、ほかならぬエクステリア。


 自分たちが殺したなら、主である魔王・正作に、わざわざ伏せる理由はない。


 ほかの魔族──たとえば例のビビアンなどはどうだろう。

 ありえる、かも知れない。


 ただ、”今”あえてやる理由は何だろう。


 現在、王城内には勇者リアン・スーンとその仲間たちが揃っている。それは魔族にとっては明快なリスクだ。王を殺す理由があったとしても、正作なら、勇者がいる時にはやらない。


 東方連合?

 これは、本当に良くわからない。

 まったく情報がないので、もしかしたらあるのかも知れない。


 ただ、普通に考えて、大国の首都の只中にある王城のセキュリティを突破して国王暗殺というのは、相当にハードルが高いのではないだろうか。

 

 事実、正作達も入城するにあたっては入念なボディチェックを受けた。武器、刃物類は──リアンの持つ小剣を除き──すべて一時預かりとなっている。


 ほかは──


(内部犯、かぁ)


 祝宴という体裁上、会場外の警備は厳しい反面、内部は割合に緩やかだ。


 ただ、内部にいる人間は──使用人も含め、全員の身元が割れている。

 大罪を犯せば、一族郎党皆殺しもアリアリの世界。

 リスクというなら、ある意味一番のリスクがある。


推理小説(ミステリ)的には、だんぜん内部犯だろうけど……)


「なんか、ミステリっぽいですね」

 正作の心を読んだかのほうなタイミング。

 甘太郎が小声で言った。  


「え、あ、うん」

「でも、クローズド・サークル──雪山の山荘やら、絶海の孤島みたいな状況でわざわざ殺人を行うなんて、よっぽどそうしなきゃいけない事情とか、突発的な事故でもない限り、ただのアホですもんね。死体が出なきゃ、殺人が発生したこと自体不定なんですから。アリバイ工作なんてやってる暇があったら、死体の始末に全力尽くしたほうがまだマシですよ。ポーの『黒猫』が十九世紀の作品であることを鑑みると、それさえ古臭いっちゃ古臭いですけど、まだしも現実的っていうか──」


「ちょっとあなた。今、殺人って……」

 すかさず、ミューラが問いただした。


「え? あぁ、今、近くの貴族達がヒソヒソやってるの聞こえちゃったんです。俺、耳いいんで。誰かは分かりませんけど、とにかく誰かが殺されたって」

「マジで?」

「マジで」

 クルクルの言葉を、同じ言葉で返事にかえる甘太郎。 

「んー……どうなってンだぁ、こりゃあ」


「おい、お前たち。勇者の仲間だな」

 その声で、会話が中断される。


 相手は、恐らく貴族。

 正作の見知らぬ顔だ。

 

「──あらぁ、これはこれは。典礼大臣閣下。わたし達ごときに、一体いかなるご用でしょう?」

 慇懃に一礼し、ミューラ。


 やけに棘がある。

 過去に何かあったのか。


「言い合っている暇はない。すぐにわたしについてきてくれ」

「んー、と申されましてもな。事情が分からぬことには、何とも……」


 ゴンドラゴンドは、ミューラほどに含むところはないようだが、やや困惑していた。


「時間がないんだ。早く、早く勇者を止めてくれ(・・・・・・・・)!」


   ***


 どうして、こんな事になっているのか。

 ここは王城で、自分は伯爵だ。


(由緒あるベンベン伯爵家当主、ゲゾス・ベンベンとは俺のことだ)


 そんな栄光に包まれた自分が、どうしてこんな半壊した庭園で腰を抜かし、あまつさえ失禁しているのか。どうして駆けつけた衛兵たちが揃ってのびて(・・・)いるのか。


 わからない。

 わからない。


 第一、目の前にいるこいつ(・・・)が一番分からない。

 

 人類の守護者ではなかったのか。

 魔王を倒すのが仕事ではないのか。

 

 それが、どうしてこの俺に剣の切っ先を向けているのだ。

 間違っている。

 間違っているだろう?

 

(誰か、そうだと云ってくれよォッ!)


「では、あらためてもう一度、訊きますよ」


 リアン・スーンが青白い顔でそう告げた。


「陛下を殺したのは、あなたですか」

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