表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
34/93

その33 〜祝宴の途中〜

「ねぇ、あなた、大丈夫ぅ?」

「んー。何がだミューラ」

 右手にフライドチキンを握ったゴンドラゴンドが、後ろの女魔術師を振り返った。


 王の開催する祝宴への参加も、今回で七回目。

 

 人並みに名声欲()あるゴンドラゴンドのこと、当初はその”特別さ”に興奮したものだが──習慣化すると、しょせん、ちょっと豪勢なだけの飲み会に過ぎない。


 周りは”偉い人”ばかり。

 メシも酒もうまい……が、それだけだ。


 ミューラの片手にはワイングラス。

 中身は、あまり減っていない。

「今の時期、あんまり変な動きはしないほうが、いいんじゃなぁい?」


(サーララ姫との会合を、知っているのか)

 とりあえず手のチキンを齧って、間をつなぐ。


「迷惑はかけねぇよ。俺なりに考えがあってね。それに」

 ミューラの顔を、正面から見た。

「正味の話、しょせん俺は、どこまでいっても宮仕えの身。お前さんのように、自由には生きられないっつーのもある」 

「そーいう話じゃないのよクソゴリラ。相談とか、あるでしょぉーってことを言ってんのぉ」

 苛立たしげに、グラスの中身を少し含むミューラ。


(んー、らしくないな。今夜は、妙にいらついている)


 ミューラという人間は、基本的には個人主義だ。

 誰とでも仲良く付き合うが、深入りすることはない。

 相談を持ち込めば乗るが、そうでなければ放置する。

 ウェットなようでドライ。

 そういう性格だ。


「……相談したいことが、あるのか」

「はぁあ? 話ぃ、聴いてた? わたしは今、あんたの──」

「んー、まぁ、なんだ。何やら抱えているような感じだし。頼りねぇかも分からんが、俺で良ければ、それこそ相談に乗ることぐらいはできるぞ」


 ごく穏やかな口調で、ゴンドラゴンドが言った。

 ミューラは、片眉をあげ、少し沈黙する。


「ふん、何か変なもんでも飲んだ? あんたって普段アホなのに、たまに思い出したみたいにピンとくるのよねぇ」

「今夜は、まだワイン二杯しか呑んでねぇよ。つーか、マジであんのか、相談」

「あっちで話しましょ」

 空になったグラスを手近な卓に置いて、ミューラが人気(ひとけ)のない会場の一角を示した。


「ヤマシタさんと、カンタローくんの話よ」


   ***


 第一王女サーララ・メソ・ゾークヴツォールは、一頻(ひとしき)りの挨拶、歓談を済ませた後、色直しのため一旦自室に戻っていた。


 国王主催の大祝宴も、彼女からすれば単なるホームパーティに過ぎない。


 とはいえ、彼女は次期国王レオライド王子の同腹の妹。

 一つの宴席に、同じ服で出続けるなど、恥ずかしい真似は許されない。

 

 贅沢に魔法の光球が一つ浮かんだサーララの衣装部屋。

 これまた高価な全身鏡の前に立つ姫君を、おつきのメイドが手際よく着替えさせていく。

 子供の頃から彼女の世話をしている、中年メイドだ。


(勇者が勝つと仮定して、まぁ、あと数年はかかるわ)


 ゴンドラゴンドについては、ゆっくりで構わない。

 ()いてことを運んでも、嗅ぎ回る鼠にエサをやるだけだ。


 勇者リアン・スーンに対して、サーララは何の感情もない。

 しょせん、王家にとってはただの道具。

 サリオンが執着しているので、そのスジで利用できるかも知れないが……下手につついて父王の勘気に触れるのも詰まらない。

 

 彼女の”このゲーム”の勝利条件は、「兄の失墜」である。

 

 順序でいえば、兄レオライドが先だ。

 兄を推す母も、それ(・・)を失えば──自分が腹を痛めて産んだ、もう一人の予備機(・・・)のことを思い出すだろう。


 殺すのは、うまくない。


 それ自体は簡単だが、後に続けるのが難しい。

 疑惑は、やはりサーララにも降りかかる。

 

 名声の失墜。

 次期王として致命的なスキャンダル。


 かなりの術策を要するだろうが、これにさえ成功すれば、あとは楽に運ぶ。

 元より、第二王子サリオンを推す立場の王だ。

 必ず、そのように流れる。


 そして、母ルベルベラが、座して黙するはずもない。

 弟サリオンは、王になりたがらない。


 サリオンは(さか)しい。敵に回すのは愚か。

 味方に抱き込むのが最上。

 

(勇者をあてがってさえやれば、弟は満足。そのための布石がゴンドラゴンド。うまく蝶番(ちょうつがい)になってくれれば、それでよし。ならなければ、ヤットール将軍の生贄にして、母の歓心を買う素材にするのも良し)


「……ちょっと? 先程から、手が停まっているようだけれど」


 サーララの下着のコルセットを締めたあたりで、中年メイドが動きを止めていた。

 鏡越しに見るいつものメイド女は、その顔から、表情の一切が消えている。


「サーララ・メソ・ゾークヴツォール、お初にお目にかかる(・・・・・・・・・)


 声こそ本人だが、その口調はまったくの別人。咄嗟に逃げようとしたが、その細腰は、メイドの両手でガッチリと捕まえられていた。


「ああ、声を上げるのはよしたほうがよろしい。それは、お互いの取引にとって不幸な結末を生むでしょう」


(魔術師? メイドの身体を乗っ取って? ──バカぁ? その”術跡(じゅつせき)”を、宮廷魔術師に後から探られるのも承知のことかしら)


 人間の肉体を乗っ取って、自由に動かす魔術は(かなり高位ではあるが)存在する。それゆえ、ある程度の地位にある者は、何らかの銀製品(・・・)を身につけるのが常だ。


 ”銀の法則”──

 それはたとえ、ゾークヴツォール王国最高の魔術師とされる”文無し”のミューラでさえ、破ることはできない。法則は絶対。

 

 一方、このメイドのように側仕えの者を乗っ取って、『暗殺』といった手段に出る場合はある。しかし、魔術には必ず魔力による痕跡が残る。


 ”術跡”は、初歩的な魔術によって容易に鑑定が可能。


 それは「術が行使された時」「術者固有の波動」「術の種類」を赤裸々とする。

 術者固有の魔力波動は、魔術師ギルドに例外なく登録されるため、ほぼ必ず露見する。かつ、ギルドに所属しないもぐり(・・・)が、巨大な力を持つことはまずない。


 そんなサーララの思考を、その”声”があっさりと覆した。


「魔術で操っているのではありません。わたしは魔族です」


 姫の首筋に、(ゼロ)が滴る。


(こんな王都の奥深くに──あ、ありえない! ハッタリよッ)


 魔族からすれば、ここは敵の本拠地。

 しかも、今夜の宴席には”勇者”達もいる。

 それを承知でここに来るということは、勇者をも怖れぬ実力者。

 いるとすれば、それは、


「──魔王?」

「いえいえ、わたしはただの使い魔。魔王軍とも関係ない、とある一勢力の者です。ゲゾス・ベンベン伯爵……ご存知ですか。ここ十年ほどは、彼と取引をしております」


(ゲゾス──母様の腰巾着の)


 あの裏切り者め。

 うさんくさい男とは思っていたが、まさか魔族側と通じていたとは。

 母に取り入ったのも、この魔族の協力あってのものか。


 しかし、どうして……


「……で、取引って?」

「切り替えが早くて結構。まぁ彼もそれなりに良い取引相手ではあったのですが、いかんせん──ああ、なんと申しましょうか──」


「小物?」

 サーララが、口角をほんの少し上げる。


「ははは、遠慮がございませんな。え、そういう訳でですな。当方としましても、勇者が出てきたこともあり……先々のことを考え、もう少し有望な取引相手を新規開拓しよう、そのような腹づもりでして」

「ならお門違いね。わたしが、いやしくも王族の一員たるこのサーララが、人間の(かたき)である魔族と、手を組むなんて本気で思っているの?」

「焦らずともよろしい。こちらも別段、急いではおりません。サリオン王子を片す(・・・・・・・・・)としても、そう一朝一夕とは参りますまい」

 

 え。

 こいつ、何を言って──。

 サリオンを片付ける?

 

 レオライドより前に(・・・・・・・・・)


「ちょっと! それ、どういう──」

「っ、姫様。何を、お声を荒らげられていらっしゃるのです」

 中年メイドが、やや嗜めるように言った。


(チッ)


 メイドが元に戻ったようだ。


 サリオンを片す? 殺すということか。

 まずい、それは順番が違う。

 どうせならレオライドをやれよ。

 その流れだと、自分は完全に蚊帳の外ではないか。


「──うるさいわね。いいから早く、ドレスを着せてしまいなさいよ」


 ふてくされる演技を見せつつ、サーララは下唇を噛み、次善の策を練り始めた。


   ***


(ど、どういう、ことだ?!)

 ヤットール将軍は、混乱していた。


 宴席のさなか、ふと中座し、城内の(かわや)に寄った帰り道。


 渡し廊下をゆく途中で、キラと輝くものが目に入った。

 気になり、近づくと──


「金貨か」


 拾い上げたのは、王国で使用されている金貨。

 ハラニーチ四世の横顔が浮き彫りとなった、一般流通金貨だ。

 周囲を見回すも、人の気配はない。

 ただ、廊下の建物寄りの端に、もう一枚落ちていた。


(何の童話だ、これは)


 将軍は苦笑する。

 いまさら金貨の一枚二枚程度で、一喜一憂するほど(ひん)してはない。

 

 ただ、なぜという疑問はあった。

 王族の住まう城内。

 確かこのあたりは、レオライド王子や、サーララ王女の居住区画。


(──建物、角の窓に灯りがある。あの位置は、王女かな。色直しをしているのか。戻る途中で、落としたのか)


 王族が現金を持ち歩くことはない。

 ただ、そのお付きのものが、何らかの理由で預かることはある。


 これが街中で、彼が平民なら、バカ正直に届けることはない。

 しかしここは城内で、彼は将軍。


 ここは、バカ正直が吉となる場面だ。


 そう判断し、灯りのついた姫の部屋に近づき──

 あろうことか、聴いてしまった。

 一部始終を。


(ゲゾス伯と、魔族が──通じているだと?!)


 ヤットール将軍は柱陰に隠れて息を殺し、王女とメイドが部屋から出ていくまで動かないでいた。


 魔族──

 何者だ。

 メイドに取り憑いていた?

 魔術か。魔族固有の能力か。


 サーララ姫は毅然と突っぱねたが、内心がどうかは不明だ。


 ルベルベラ王妃に報告すべきか。

 難しいところだ。

 王妃も腰巾着経由で、その魔族と繋がっていた場合が最悪だ。

 逆に、自分が消されかねない。


 だいたい、ゲゾスと魔族が本当に繋がっているかどうかも、現段階では不明である。まず、その裏を取らなければならない。下手に動くと、裏目に出るかもだ。


(そう。万事抜かり無く。ここは慎重に──)

「こんなところで酒気払いかね、ヤットール」


 将軍は、比喩でなく本当に跳び上がった。

 王女の衣装部屋、ほど近くの廊下。

 一歩間違えば、誤解されなくもない状況である。


「あ、や、そん……」


 振り返り、ヤットールは今度こそ硬直した。


「さっきサーララとすれ違ったが、何かあったか」


 そこに立っていたのは、ゾークヴツォール王国国王ハラニーチ四世だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ