表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
33/93

その32 〜王子〜

 山下 正作が魔王。


 そう告げて、女は、甘太郎の前から立ち去った。


(……)


 彼にしては珍しく、数分ほど、空白の思考が続いた。


 跨線橋(こせんきょう)の下を、二頭だての馬車鉄道がゆっくりと通過していく。

(遅っそ。西表島(いりおもてじま)の水牛車じゃないんだから……)

 どうでもよいことを考える。

 

 あの女は、おそらく”魔族”なのだろう。

 前後の話の流れから、その公算は大。

 こちらの心──というか思考を読んでいた、ような節もある。


 しかし具体的に、どう読むのか。


 人間の思考それ自体(・・・・)は、言語的でも映像的でもない。

 甘太郎のイメージでは、無数の火花が脳内で錯綜する感じ。


 彼自身でさえ、”自分の隅々”が何を考えているのか、リアルタイムで完全に把握していない。疑問があればテーマを設定し、それについていきなり答えだけ(・・・・)出る。”どこかの自分”が出したのだろうが、どう出したのか、(にわか)には判断できない。


 そこで数秒かけて考え、「たぶん、こういう筋道で自分はこの答えを出した」──となるのが、甘太郎の発想パターン……の一つだ。例えば。


 心を読む、思考を読むとして、このプロセスのどこを拾うのか。


 逐一すべて拾っているのだとすれば大した処理能力だが、たぶんそれはないと甘太郎は感じる。特に、戦闘中にそんなことをしていたら、とんでもない隙になるだろう。

 結論部分だけ拾って、『翻訳』していると考えるのが妥当そうだ。


(仮にそういうことなら、裏をかくのはそう難しくないな)


 魔王。勇者。


 実は、山下正作が魔王とすれば、これまで甘太郎が彼にいだいていた、幾つかの謎はサッパリ解けて消える。拠点、仲間。資金源。情報源。


 あの女の目的は、今のところ不明。


 正直、甘太郎に正作の正体を告げることに、それほどの意味があるとは思えない。単に状況を引っ掻き回して遊んでいる、という風に見える。


 そういえば、言動や仕草がいちいち芝居がかりだった。

 現実社会でも、まま目にすることがある。

 永遠の中学二年生か。──もっとも、創作に出てくるような悪役は、むしろ厨ニ(ちゅうに)ムーブをしてなんぼ、そんな気もしなくはない。


(山下正作は、少なくとも戦闘においては無能)


 魔王だろうとなんだろうと、この結論は変わらない。

 甘太郎がその気になれば、すぐにでも魔王討伐完了だ。


(でも、それは恐らく、無意味)


 それは、あの女も、正作の無力を知っているから。

 殺さないのは、惜しいからというより、殺す意味がないから。

 逆にいえば、殺されても構わないから、甘太郎に告げた──真相を。


 前に聞いた、先代魔王の逸話を思い出す。

 魔王アルガスヴェルドは、二人の勇者を殺し、三人目と相討ちになった。

 魔王も勇者も、代替わりする。

 

 かわりのランナーが、いくらでも湧いて出る。だから無意味。

 そういう”法則”なのか、何なのか。

 悪質な冗談のような世界だ。


(そうなると、勇者"一味"に参入ってのも、面倒だな)

 

 いや、そうか。

 そういう結論になることを、あの女は狙ったのか。

 魔王側ではないにせよ、アレはおそらく魔族。

 その通りに動くのも、なんとなく癪に障る。

 

「──あのアメリカ人には、教えておいてやろうか」


 今のところ、ガブリエラは完全に巻き込まれ枠。


 幸い、山下正作自身は基本的に善良なので、彼女が即、差し迫った危機下にあるわけでもないけれど……魔王の部下達については、また別だ。

 今までの経緯を眺めるに、魔族が、人間を友好的に処遇する──という期待は、持たない方が良さそうだ。早晩、ガブリエラは危地に陥るだろう。


(でも俺、ちょっと彼女に避けられてるフシあるしなぁ〜……どうしたもんかな)


   ***


 陽が赤く沈み、厚い雲が、妙に白々しい夜となった。

 王城内で開催される祝宴は、だいたい月に一度ほどのペースで行われている。


 ハラニーチ四世の名で開かれる催しに参加できることは、それだけで絶大なステータス。たとえ貴族であろうと、そこに年に一度でも顔を出せたなら、かなりの上位権力者だ。田舎出の小領主の場合、爵位継承のとき一度呼ばれてそれっきり、ということも珍しくない。


 軍人なら、将軍以上。

 商人なら、王都でも屈指の豪商。


 たとえ王族であろうとも、本流から外れた”捨て王族”に参加枠はない。捨て王族に期待されるのは、万が一に備えての血統保存機能、それだけだ。

 

 つまり、勇者パーティ、山下正作、鈴木甘太郎が”そこ”に参加できるのは、相当の高待遇ということだった。


   ***


「僕より先に兄上が、その……ヤマシタ? たちのところに行って激賞するようにって、ルベルベラ王妃に言われたんでしょ? そうしたら、いいじゃない」

 

 宴席会場近くの、待合室。


 レオライドは、裾飾りがどうも合わなかったので別のものに替えていたところ、弟──腹違いの──第二王子サリオンが入ってきた。

 数言、挨拶をかわし、それで終わるかと思いきや、唐突に先の発言。


「なぜ、それを」

「なぜって、言いそうじゃない? 王妃。そういうこと」


 あっけらかんとした顔でサリオン。

 一見、年齢相応に少年らしい仕草だ。


「……いつも思うが、どうしてお前は、わたしにいちいち塩を送るような真似をする」


 サリオンに王への野心はない。

 それはレオライドも承知していた。

 しかし一方、サリオンがレオライドに肩入れする理由も特にない。

 要するに、敵ではないが、味方でもない。


「どうしてって。さっさと兄上が王位継承してくれた方が、僕にとってありがたいからに決まってるじゃない。陛下は不満だろうけれど、宮廷雀──(カラス)? 達は満足だろうし、ルベルベラ王妃も、兄上も満足。そして僕も満足。どう考えても、これが最善だよ」


(あえてサーララの名を外したな)


 (サリオン)の、こういうところがいちいち不安になる。

 己の凡庸さへの自覚が、より強くなるためか。単なる嫉妬か。


 レオライドが王を目指すのは、それが責務だからだ。


 生まれながらにして運命づけられた義務であり、責任。

 そこから逃げることはできない。逃げる気もない。


 率直にいって弟サリオンの方が自分より賢明であるし、支配者としての貫禄も備わるが、残念ながら”生まれ”が悪かった。


 レオライドより遅く生まれ、レオライドとは違う母を持った。

 しかし、それが不幸なこととは限らない。


 サリオンは、いずれ来たるレオライド王朝においては、能吏(のうり)能臣(のうしん)として生きればよい。


(恐らくそれが、本人にとっても、民にとっても最善のはず)


   ***


 祝宴。

 王の挨拶、宰相の言葉を経て、いつも通りの開幕。


 城内の第二大食堂を使った、立食式の──サリオンからすれば、飽き飽きとしたルーティンワーク。セレモニーに顔を出すたび、王族も貴族も、楽な商売ではないと思う。


(こういうものに出たがる人間の、気が知れない)


 向こうでは、ヤマシタ、カンタローに対する、レオライド王子の”激賞”が終わったようだ。人混みの先で、ルベルベラ王妃が満足そうに微笑んでいる。王は、見て見ぬふり。サーララは……


(そろそろ、行っていいかな)


 サリオンは、先の兄の言葉を思い返した。

 まだ王にもなっていないのに、猜疑の塊か。

 こと、これについては完全に言葉通り(・・・・・・・)なのに。

 

 兄に王になって貰ったほうが、サリオンにとって都合がいい。

 兄は鈍いが実直。その母や妹のように歪んでいない。

 父王の言う通り、先々の不安は残るだろうが、そこは自分や皆が補佐すれば足りる。

 

(第一、僕のリアンが魔王に負けるわけはない)


 王の身分など、余計だ。

 リアンを娶ることが、更に難しくなるだけ。

 自分に、何の得もない。


 臣籍降下しても良いが、リアンと結ばれた後──子の立場云々を考えると、”王(てい)”の地位を保持したままの方が、いざという時の選択肢が増える。

 王家の中に勇者の血統を交えることは、政略的にもプラス……そんな理屈で、反対する者も叩き伏せ易い。これに反対する者は、ゾークヴツォールの盤石を案じぬ不忠者、というわけだ。


 勇者リアン・スーンが、サリオンの姿に気づいた。

 笑って、手を振っている。

 王子は駆け出し、その胸に飛び込んだ。

 その狭間に顔を埋め、やや強めにぐりぐりする。


「おっ、王子。だめですよ」

「久しぶりだから、いいじゃない」


 顔を上げ、サリオンは無邪気に笑ってみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ