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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--ガブリエラと王都騒乱編--
29/93

その28 〜マッシュマロン〜

 わたしの名前は、ガブリエラ・ジーン・ニューマン。


 二十二歳独身。身長五・二フィート。

 体重は……まぁ、いいじゃないですか。


 職業はウェブデザイナー、時々Uber運転手。

 ウェブデザインといっても内容によって千差万別だけど、わたしの場合は自営ということもあり、かなり便利屋系。


 つまりHTMLからCSS、javaScript、サーバサイド(PHPとかRuby、Scala、DBはMySQLメイン)といったプログラミング寄りの部分から、Adobe製品使いまくりのビジュアル方面まで、器用貧乏に幅広くやってます。

 ──なお、営業は不得意なので、エージェントやってる友達頼り。

 年収は、手取りで三万ドル少々。


 そんなわたしは、日本に旅行へ行った折、たまたま入った喫茶店で撃たれたと思ったらロード・オブ・ザ・リング的な世界に飛ばされ、なりゆきで馬車の旅に同行しています。


 二頭の馬が曳く、シャーロック・ホームズに出てきそうな屋根付きの馬車。

 時速は、七マイルぐらい?

 早歩きぐらいの速度のくせに、わたしの尻に地味なダメージを蓄積していきますよ。

 これでも緩衝装置(アブソーバ)搭載の、気の利いた馬車席らしいんですが。


 イタリアのローマ街道を連想する、わりと綺麗に舗装された街路を進む、二つの馬車。

 一つは、先行する『勇者』一団の馬車。

 もう一つが──

 わたしと、日本人のヤマシタさん、カンタローが乗る、この馬車です。


「彼女で三人目。この調子だと、ほかにも続々来そうですね」


 カンタローは、わたしより五歳年下の、まだ高校生。

 ヤマシタさんや、わたしの体内に巣食う緑のエイリアン(・・・・・・・)から口止めされている為、ここでは”魔族”? であることを隠し、同じ地球から来た”人間”ということにしています。


 あ、なんかわたし、尻尾が生えたみたいで、気がついたら人間やめてました。


 カンタローは人間ですが、ヤマシタさんも”魔族”……

 それも、魔王ということになっているようです。


 正直、ただのおじさんにしか見えませんが、あの緑色のエイリアンは完全に服従しているような気配ですので、もしかしたら隠された力が──的なアレかも分かりません。


 そのヤマシタさんは、カンタローに比べると、話す内容の歯切れが悪い印象がありました。どうも、わたしの中にいる(・・・・・・・・)緑のアレも同時に聴いていることも、関係していそうです。


 この数日の、彼らとの話で分かったことを整理すると──


・ヤマシタさんとわたしの事情(魔族化)をカンタローは知らない・秘密

・ヤマシタさんは、魔王として魔族の幹部に召喚された?

・三人とも、謎のアーミーに撃たれてこの世界に来た

・言語関係は、謎の力によって自動翻訳されている?

・なぜか、ヤマシタさんとわたしだけ魔族に変化している

・カンタローは、異世界に来て肉体能力が大幅増強されている(ヤマシタさんも?)

・この世界では、ヒトと魔族が殺し合っている

・魔王を倒すための勇者が存在し、それが現在、一緒に行動している少女である

・勇者は、少なくとも体長三十フィート強のドラゴンを一蹴するほどに強い


 そのほかは、世界観的な情報──

 魔法とか貨幣制度、文明度、地政、風俗、細かな常識観などなど。


(元の世界に、帰れるのだろうか)


 わたしの不安は、つまるところその一点に尽きました。


 カンタローは──こんなことを言うと失礼ですが──ちょっと不気味なぐらい、この世界に順応しています。元の世界にいる親兄弟、友人知人などへの未練らしきものが、ほぼほぼ感じられません。人間、ここまで割り切れるものなんでしょうか。


 物腰は穏やかで、親切。

 言葉選びには知性を感じさせますが、どこか……噛み合わないといいますか、一種、爬虫類的な冷たさをも見受けられ、心からは気の許せない少年です。


 一方のヤマシタさんは、どちらかといえばわたしと同じ、現状に翻弄されているといった感じです。カンタローと違い、魔族、それも魔王スタートですからね。それは、ちょっと分かる気もします。

 魔王というからには、きっとアヴェンジャーズの一員になれる勢いでスーパーパワーを身に着けていたりするのでしょうが、そうはいっても元は人間。


 ”人類の敵”──


 そんな役割の長になるのは、それは複雑な心境でしょう。

 そんな立場でありながら、その”敵”である人類の勇者と一緒に旅をしているのは、やはり何らかの和解……平和的解決を模索しているから、と見るのが妥当なように思われます。


 少々頼りないような雰囲気もありますが……


 やはりこの人は、あの時、トラックに轢かれかけた子供を果敢に救い出した、高潔な精神の持ち主なんだと実感しました。


 そんなわたし達を乗せた馬車が、王都に向けて今日も石畳の街道を、ガラガラとひた走ります。

 時速七マイルで。


   ***


 大陸西方──


 魔族の領域、青竜カイアンフェルド領から北西の位置に、現存する最古の魔族ビビアンが実効支配する領土はあった。

 城下を囲う町。

 これは魔王城を擁する魔都アーマーメイデンを小規模化したものに過ぎない。

 が、中央の高い壁を持つ城の中。

 こちらは、一味違った。


 具体的にいえば、電線がある。

 バイオ燃料による、小型の発電所がある。

 もっといえば、Wi-Fiが飛んでいる。

 有線(ワイヤード)の電話は使えないが、無線電話は使える。

 自前のサーバルームを備え、内部完結のネット環境まである。

 ちなみに近場にはシリコンウェーハー製造工場がある。


 つまり、これらの設備すべてを自作している。

 

 ビビアンの部下達は、これらの製造、維持管理に従事してはいたが、あくまで己の職能部分しか関知していない。全体像を知悉(ちしつ)し、管理し得るのはビビアンただ一人。彼女が死ねば、これら超文明のすべてが意味を失い、自然消滅するだろう。


 その城下町から城門までをフリーパスで通過し、パスコード入力からの指紋認証をクリアして城内に入る、一人の女性がいた。


 金色の長髪はざんばらに四方へ散り、その中で、四本の角が曲がり生えている。

 眼は、額のものを入れて三つ。

 美形だが、犬歯だけやけに長い。

 身長、百九十センチ。縦に長いが、横にも太い筋肉質。

 赤銅の肌。

 はじける胸部と股下に、申し分程度の布地。

 使い古された、厚底の戦闘用サンダル。


「やあ、マッシュマロン。久しぶりだなってハナシ」


 ビビアン。この城の主。

 緑色のジャージ姿──は、玉座にもたれかかり、ゲームボーイアドバンスを片手に、その大女を出迎えた。


「相変わらず、だらけてるねぇ、ビビアン」


 無造作に、ドカッと床に座り込むマッシュマロン。

 すぐさま、ビビアンの執事風の配下──アイゼンバーグ──がやってきて、マッシュマロンに大きなワイン瓶とグラスを持ってくる。

「おぅ」

 ごく自然に受け取り、グラスを置き……

 瓶のコルク栓を瓶口ごとデコピンで弾き飛ばした。

 中の赤い液体を、そのまま口に流し込む。


「でぇ? あたぃに何の用だい。また暇つぶしに、カイアンフェルドでもイジメるのかぃ。カカカカカカカカカ」

 笑った後、大きくゲップをするマッシュマロン。

「いやいや。それより、もう少しだけ重要なハナシだよマッシュマロン。状況が動きつつあることは、君も察しているだろうってハナシ」

「ん、ああ……ナンギシュリシュマの野郎が、魔王を呼び出してってアレかぁ。勇者だかってのも噂だけ聞いてるが、実際どれほどのモンだい、ありゃあ」


 訊ねられ、ビビアンは一呼吸おいた。


前の(・・)”まがいもの”共よりは、多少面白いってだけのハナシだね。ただまぁ、その”多少”というのが曲者だ。転ばぬ先の杖、というほどでもないけれど、やはり準備はしておくべきだろうってハナシでね」


「前のって──アルガスヴェルドのことかい? あいつは虫の好かない野郎だったけど、”魔族の王”を自称するだけあって、強さは本物だったよ。実際、勇者も何人か殺してたみてーだし……今回も同じような奴だとすりゃあ、ちょっかいを出すのはどうも、うまくないねぇ」


 話題の先を彼女なりに読み、難色を示すマッシュマロン。

 そんな相手の反応を見て、ビビアンは薄く笑った。


「ああ、その辺については(・・・・・・・・)君は関係ない」


 玉座を中心に、気配が一転した。

 明快な、殺気。


 マッシュマロンは瞬時に悟り、立ち上がり、三倍に拡大した(・・・・・・・)

 赤銅色の肌は今や真っ赤に染まり、全体に血管が浮いている。


「あたぃを喰おうってのかい? これは驚いた。あたぃより弱いお前がぁ?」


「誠に申し訳ない。心より謝罪する、我が友マッシュマロン。長い付き合いだが、今後の展開を考えると、不確定要素の排除と栄養摂取による戦力増強はマストってハナシなのでね。こ」


 言いかけたビビアンが、玉座ごとマシュマロンの拳の直撃を受け、消し飛んだ。

 あまりに一瞬のことで、逃げ出す途中だったアイゼンバーグは、声を出す余裕もない。


「どぅせ分身なんだろ? ミミズ臭ぇお前の体臭がプンプンにおうぜぇ」

 

『ミミズとは、言い得て妙。なら、そのミミズ一匹でお相手しようってハナシ』


 石床が割れ、中から長い肉紐が一本だけニョロっと現れた。


「はン」

 ため息混じりに、マシュマロンの手刀。


 肉紐があっさり分断──されない。

 そのままマシュマロンの右腕に絡みつき、縛り上げ、またたく間に食いつぶしていく。


「がぎぃいいいいいっ?!」


 即座に左手で、食われつつある右腕を切断したのは流石の判断力。

 巨躯に似合わぬ俊敏さで、出口めがけて跳ぼうとした。

 

 が寸前、左足首にもう一本の肉紐が絡まった。

 まずいとマッシュマロンが思った時には、もう左脚は膝下まで喰われていた。


「ぎぃいいああああぐぃぎッ、なん、だっ、この──強さ──」


『君が言ったのではないか? 「どうせ分身」と。そう。普段、君が接していたのは、常にオレの分身だったってハナシ。本体が分身より(・・・・・・・)強いのは(・・・・)当たり前だろうに(・・・・・・・・)


 公平にいって、この状況下でマッシュマロンは善戦したといえる。

 やはり、魔王軍四天王にも匹敵する実力者。


 何しろ、ビビアンが彼女を喰らい尽くすのに、ここから三分もかかったのだから。

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