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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--鈴木甘太郎とワフルの街編--
22/93

その21 〜自分以外の全員〜

「よぉ! あんた、ここに泊まってたのかい。さっすが、稼いでるね。ヤッポ(・・・)は?」

「あ、昼間はその、どうも。彼は、仕事でちょっと──」


 正作は、昼にワフルの入り口で会った、門番の二人に頭を下げた。


 なんでも門番の仕事を終え、これから”青竜のいななき亭”一階の酒屋スペースで夕食、兼飲み会らしい。正作は部屋を出て、階段を降りていったところで、バッタリその彼らと鉢合わせ。


「あ、ヤマシタさーん!」


 その時、宿の入り口から、勇者リアンを先頭に、何やらゾロゾロと──



(気がついたら、けっこうな人数で呑むことに……)

 

 勇者パーティがリアン、ミューラ、ゴンドラゴンド、クルクル、パルテオン。

 ゴンドラゴンドの隣が大隊長(そう紹介された)ジョッシュ。

 さっきの門番の人が二人。


 そして鈴木甘太郎と、山下正作。計十名。


「んー、まぁ飲みなよ。正味、おつかれさん」

「あっ! あの(・・)ゴンドラゴンド殿にワイン注いでもらえるとか、感激です!」

「この野郎、前に俺が注いでやったときと、えらく反応違くない?」

「え、大隊長殿。そんなこと、ないですよー」

「クルクルも、たまにはミルクじゃなくて、麦芽酒とか飲もうよ」

「あたし、酒ってニガテなんだもん、にがいし。つかリアン、毎度飲み過ぎじゃねぇ?」

「でぇ、パルテオン。ヤマトのほかにいたのって誰よぉ」

「恐らくはビビアンの配下の者。あの場にいた”肉紐”を放った者が、ヤマトに協力していたフシがある。偶然、妥当、蓋然、該当」


「……どうしたもんだろうね、コレ」

 正作は小声で、横の甘太郎につぶやいた。


「いいじゃないですか。俺も腹減ってましたし、……異世界ってだいたい現代日本に比べてメシマズ設定定期ですけど、ここの宿の、けっこう旨いですね」


 スライスされた豚の塩茹でを素手でとって頬張り、


「うん、いい感じ。素手食も、悪くないですね」

「あの……だ、大丈夫? そんな異世界とか、現代日本とかシレッと言っちゃって」

 さらに小声になる正作。

「大丈夫です。今は(・・)、誰も俺たちに意識飛ばしてないですから。選択的注意──カクテルパーティ効果って方が、メジャーですかね。それより……

 正作さんの、マジ拠点(・・・・)ってどこですか?」


 ふたたび酒──またラガービール──を身体(なか)に入れ、緩くなっていた正作の精神が急速に引き締められた。

 おそらく甘太郎としては、同じ異世界()同士、仲良く協力しましょうムーブの一環なのだろうが、あいにく正作は現在、異世界魔族(・・)なのだ。


(グダル共和国の行商人設定は、少なくとも甘太郎くんには”フリ”とバレてる。でもそうかといって、「ここからずっと西の果てにある、アーマーメイデンって魔族の都にある魔王城だよ」なんて馬鹿正直には絶対いえない──)


 この頃、危機的状況が多くないだろうか。

 脂汗が出る。胃が痛い。


 ITの派遣をやっていた頃のことを思い出す。

 机の左隣には、やたら大きな独り言をブツブツいいながら、必要以上にガツンガツン音をたててキーボード入力をする者。

 右隣には、ものすごい異臭を常時発する者──特に、トイレにいって帰ってきた時がかなりひどい。トイレットペーパーなる文明の利器を、どう活用しているのか、つい問いただしたくなる。


 気が弱く、立場も弱い正作は、ただ耐えた。

 当然、仕事の能率は落ちるが、やらないと食ってゆかれない。

 比喩でなく歯を食いしばって耐えた。


 思い出す。

 あの出口のない、答えの見えない追い詰められ方──


「……あ、すみません。仲間の方もいるのに、ちょっと無神経でしたね」


 その時、正作はたしかに、甘太郎の背後から後光がさすのを見た。


「そ、そのぅ……え、ご、ごめんね」

「いえ、こっちも見知らぬ場所にきて、ちょっとテンパってたっていうか。無意識のうちに頼ろうとしちゃってるみたいで。また、機会があったら教えてください」

 少し困ったような笑顔で、甘太郎は言った。


(いい子すぎる!)


 昔に比べ、最近の子供はこんなに善良なのか、と正作は思った。

 今のも、正作が追い詰められた顔をしたのを察して、引いてくれたのだろう。


「ねぇねぇ、何の話?」

「リアンたちにも教えて!」


 二人の少女が、正作たちの話に入ってきた。

 リアンと──弓師のクルクル、先程紹介された子だ。


「いや、ちょっとウチの新商品を、山下さんの販路で流してもらえないか交渉していたんだよ。こういうやつなんだけど──」

 甘太郎が、懐から小さな棒状のものを出す。


(あ、鉛筆だ)


 元の世界から持ってきたものだろう。

 甘太郎は、その箸を指でつまみ、ウニウニと振ってしならせた。

「「はぅわっ」」

 リアン達は、二人とも面白い顔をして唸った。


 これ幸いと、正作は甘太郎たちの席からスッと移動する。

 手酌で置いてある瓶から陶器コップにワインをついでいると、女魔術師ミューラから声をかけられた。


 紫色のローブをまとった、長い金髪の女性。

 少しタレ目だが、正作的にはテレビでしかお目にかかれないような美人だ。

 リアンのような子供ならまだしも、大人の美女というのは、とかく緊張する。エクステリアにしても、慣れるまでけっこうかかったのを正作は思い出す。


「ヤマシタさん、あの子──カンタローくん? とは、どういうお知り合い?」

「ど、そ、えー……」

(同郷の知り合い、だけじゃ不十分かぁ。えっと、えっと──あ、さっきの鉛筆の下りも”フリ”だったのか。甘太郎くんも、行商人でひとまず通すようだから、つまり……)

「同業者、みたいなところですね。故郷が一緒なので、それなりに付き合いが」

 

 正作は、心の中で鼻息をふいた。

 我ながら、これはナチュラルな言い分だ。


「ふーん」

 ミューラが手のコップをゆわゆわと揺らす。

「あのぉ、なにか?」

「いえねぇ、うちのパルテオン──片腕落とした直後なのに、あそこで平然と飲み食いしてる妖怪のことだけれど、彼ね、カンタローくんを仲間(・・)に引き込むつもりなのよぉ」

「え」


(仲間って、つまり、勇者パーティの?)


 パルテオンは、甘太郎の戦闘能力を目の当たりにしている。

 正作も見た。

 恐ろしい形相の赤鬼が繰り出すマンガみたいなラッシュを、少年が軽々と回避し、一方的に叩きのめしているさまを。

 あれぞ、正統なる異世界転生(転移?)チート。

 飛べない羽。あるだけの角。

 ほか”湯気”しか出ない正作とは雲泥だ。


「もしヤマシタさんが、カンタローくんの保護者(・・・)? 的な立場なんだとしたら、そこはやっぱりねぇ、断っておかないとって話だし。ほら、たとえば彼の亡くなった父親の友人で面倒を見てるーとか、あるでしょう」


 なるほど。

 確かに、正作と甘太郎は親子ほどの年齢差がある。

 

「あー……そういうアレでは、ないですね。本当に、ただの知り合いです」

「あらぁ、そう。だったら、気をつけたほうがいいかも」

 ミューラはちろ、と舌をだし、コップのワインを舐めた。


「あの子、人当たりはいいけれどぉ、内心、自分以外の全員を見下してるでしょぉ? ヤマシタさんも、踏み台にされたくなかったら、あの坊やとは距離を置いたほうがいいかもねぇ」

 

   ***


 異世界。

 現代日本。


(ほんと、何者なの? この二人は(・・・・・)


 ミューラはいつもどおり酔ったふりをし、目の前の誰かと談笑しながらも、全意識を”ヤマシタ”と”カンタロー”に集中していた。


 二人がワフルの街に来たのは、いずれも今日。

 そしてその今日、ビビアンやヤマトの襲撃があった。

 街の幾人かが犠牲となり、パルテオンもまた片腕を失う。


 一人なら、まだ偶然かも知れない。

 二人続くと、それは信じがたい。


 異世界とは、文字通りの意味か。

 人間界とは別の世界──魔族のテリトリー(・・・・・・・・)──そんな風にも解釈できる。

 

(しかし、二人からは何の魔力も感じない。幻術を使っている形跡もない。変身ならありえるけれど──それなら、パルテオンを助けた意味が分からない。もし魔族なら、話に聞く”赤鬼”とやらが暴れているのに乗じて、彼を殺していたはず)


 そして現代日本。

 ニホンとは、国か、それに準ずる集合の名称と推量される。現代……”今のココ”より過去のことか、あるいは未来か。

 手持ちの情報だけでは、足りない。

 とにかく、この二人は目の届く範囲に置かなければならない、とミューラは思った。


(味方なら、よし。もし敵なら──)


   ***


(さっきはちょっと、危なかったな)


 眼の前の少女たち、リアンとクルクルの話し相手をてきとうに務めながら、甘太郎は思考する。


(正作さーん、顔に出すぎ。今の拠点の話がモロにアキレス腱(・・・・・・・・)これが分かったのは大収穫だけど、追い詰めすぎて壊れたら元も子もないんだよねー。ここはじっくり信頼関係を育て、ウィンウィン目指していきましょ。さっきので多少なり、「悪いな」「申し訳ないな」と思ってもらえたみたいだし。こーゆー心の枷を少しずーつ積んでいって、やがては──とかお約束すぎて屁も出ないけど、でも有効だしなぁ。あと彼女(・・)

 

 果汁を口に含みつつ、甘太郎は正作と会話するミューラを見た。


(あんたが聞いてくれてなかったらどうしようかと思ったけど、ちゃーんと聞いてくれてたみたいでサンクス! ミューラさん。パルテオンにはてきとうにアピったから、勇者パーティとの繋がりって意味じゃ安泰なんだけど、個人的にはもうちょっと商品価値高めときたいんだよね〜、自分の)

 

 異世界。

 現代日本。


(賢いあんたなら、きっとそこから、俺たちの有用性を見出し、魔王退治に利用しようと思うだろう。や、思ってもらわないと困るんだけどね。利用できそうだが、予測困難な情報──とりあえず仲間には伏せて、自分なりに調べてみるつもりだろう。分かるよ、あんたも自分以外の全員がバカと思ってるタイプだろ。同類は(・・・)よく分かる(・・・・・)


「──うん。けっこう楽しいな」

「え、なんか言った?」


 リアンが問う。

 甘太郎は、それを受けて無邪気にわらった。


「いや、楽しいなって」

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