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魔王おじさん50  作者: クリントン大西
--山下正作 魔王になる編--
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序章 〜魔王召喚〜

   序


 風が(そぞ)ろいた。


 湿りのある熱気。

 眼下に集い狂う、衆群の合声。

 陽光が、それらの頭上をあぶりつける。


「新たなる王!」

「我らが救世の主!」

「見よ、あれなるは真王の覇気!」


 拳をかかげ、口々に叫ぶ者たちは異形──人からすれば怪異。

 角がある。翼がある。鉤爪がある。

 鱗がある。眼が多い。耳が多い。手足が多い。

 あるいは少ない、もしくは最初からない。


 そこは、人の世でいうところの円形闘技場のような場所だった。


 遺失した技術によって建てられたその石造りの建造物は、円周1kmにも及ぶ。もはや小さな街。その内壁を埋め尽くさんばかりに群がる者達の数は、五万、十万ではきかない。


『静まれ』


 その”声”に、狂騒が一瞬で止んだ。


 熱をそのままに、皆は意識を広間の中央、木製の壇上へと向ける。

 壇上に立つのは五人。


 うち四人が左右に退き、中央の一人に礼意をあらわした。

 ”声”を発したのは、四人のうち一番小柄な女。

 人間(じんかん)にあっては、魔族中、もっとも冷血残忍。

 形ある煉獄(れんごく)(うた)われるもの。

『ここにおわすは、(いにしえ)の儀式に則り、獄界より召喚されし魔の超越主』


 女の隣で、大柄の鬼が、三つの右腕を振り上げた。

「先王、アルガスヴェルド陛下のご逝去より七百年! 果たして我らは歴史の証人となる!」


 一本角の剣士、そして緑色のタコのような姿の何かが薄く笑う。

「早い話、こっから先はヌルゲーってことッス」

「勇者を屠り、その仲間共を(くび)り、ヒト共の王国を呑み込み平らげヒヒヒヒヒ」


『主よ、魔の王者よ。どうぞ御身の気高き名を、我ら一同に賜りますよう──』


 女が深く(こうべ)をたれ、ほかの三人もそれに倣った。


 魔王。


 端的に表現すると、中央に立つモノはそれだ。


(うむぅ……どこでも見たことのない、不思議なお召し物だ。さすがに魔王様。衣装からして、ひと味違うか)

(左手にあるのは、錫杖だろうな。それにしても、えらく短い)

(右手に持つのは、護符(アミュレット)の類か? 円柱形の金属とは、また珍しい)

(この圧倒的な魔の気配! 正直、憎き勇者どもに対してさえ、同情の念を禁じえんわ……)


 心中を様々に、すべての魔物が固唾をのんで、王の言葉を待つ。


「あ。あー……」

 右手に発泡酒の缶、左手にチーカマを持ったジャージの中年男は言った。


「山下、正作です。よろしくおねがいします」

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