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異世界に於ける護り屋の表稼業と裏稼業  作者: 塵無
一章 護り屋、異世界へ
9/38

護り屋、異世界へ

異世界に入るまでの流れや伏線を張った為遅くなりましたが、

漸く異世界に入れました。

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 ◆◆◆

 --------------------


 一体何が起きた…? 異世界から来た女…ルイーナの依頼を断って帰ろうと思った直後に、急にルイーナが変な声を上げ、何か重い物が落ちたような音がした。


 振り返ると苦しそうに首を押さえ(うずくま)るルイーナの姿があった。一瞬演技かとも思ったが、様子を見るとそうでないことが分かり、すぐに駆け寄る。


「!! なんだ、これは…」


 首を押さえていた両手をどけると、見るからに怪しげな光を発している細い金のチョーカーが、ルイーナの首に食い込んでいた。しかもそれはまるで生きているかのように、少しずつ少しずつ、首に埋もれていこうとしていた。俺とこの女の背の違いから首元が見えていなかった為、チョーカーの存在に今気付いた。


「こ…これ、は…じゅ…ぐの…いっ、一種…」


 苦しそうにルイーナが口を開く。


「私が…じ、ぶんのことを…話し…た、相手を…連れて…これ、ないと…は、発動、するように…なってる…」


 まともに呼吸も出来ない中で俺に説明をしてくる。成程、『呪具(じゅぐ)』か。おまけに失敗した時は「死を持って償う(デスペナルティ)」、か…。時代錯誤も甚だしい。


 それにしても何て物を着けさせたのか。『宮廷』魔導士というからにはそれなりの立場にいるだろう、その女にこんな物を着けさせられる程の立場の人間は限られてくる。となると…。


 その時点で俺は考えを止めた。憶測で物事を判断すると痛い目に合うのは経験済みだったからだ。それに今は優先させることがある。


 俺はチョーカーに手をかけ、引き千切ろうと引っ張った。しかし完全に固定されているかのように、チョーカーは全く俺の力を受け付けない。


「くそっ、何か方法は無いのか」


 力が通用しないのは癪だったが、頭を切り換えてルイーナに訪ねた。かろうじてだろうが、話が出来る今の内に対処法を聞かないと手詰まりになってしまう。


「……きて…いっ、しょ…に…」


「何?」


「あい、てを…連れてきた、ら…その時点、で……呪いがとけ、る……」


 息も絶え絶えに言葉をどうにか紡いでいく。何となく予想はしていた答えが返ってくると、「やっぱりか…」と、ふいに眉間に(しわ)を作る。


 だが今の状態で行くには不安材料が多い…最悪駆け足で死に歩み寄ることになってしまう。思考が二の足を踏んでしまい、どうするべきか考えてしまう。






【まったく、女の子には優しくしなさいよね…】






 その時ふいに、頭の中で年端のいかない女の声が響いた。


 それは…昔俺が言われた言葉であり、今はもう聞くことの無い声。


「……こんな時に出てきたか…いや、こんな時()()()か…」


 分かった。記憶の奥からしゃしゃり出てきた声に答え、ルイーナを抱きかかえた。早くしないとこいつももたない。


「どうすればいい」


 抱きかかえてそのままルイーナに問う。言葉の代わりに、袋小路にあるビルのドアを指さした。飲食店の内装準備をしている所のドアだ。


「む…こうに…いって…」


 出入り出来ないドアに何があるのかと思いながら、聞く時間も惜しいとドアに近寄った。ドアの前で立ち止まると、ルイーナは自分の右手をドアにかざし、抱きかかえている俺にすら聞こえない位の声で二言三言呟いた。


 すると、ドアの隙間から光が漏れ、数秒の後に光が消える。光が消えたのを確認し、ルイーナがドアノブに手をかけると、ドアノブは何の抵抗もなく簡単に回った。


 開店もしていないのにどういうことだと俺の考えを置き去りにし、ドアを手前に引く。開き始めたドアの隙間から、屋内のそれとは思えない…いや、S区のそれとは思えないような空気が俺達に当たる。


 そのままドアを開いていくと、見たことの無い風景がそこにあった。


「……何だ、これは…」


 ドアの向こうには、緑の草と石畳で彩られた地面に、同じく石畳の橋がかけられた堀が真横を向いた景色が見えた。明らかにS区には無い、寧ろ現代では中々見られないであろう情景が、一面を占めていた。


 新しい飲食店は屋外の自然をコンセプトにしているのだろうか…ふとそんな考えが出てきた。


「…はいって…」


 ルイーナが小さな声で促してきた。先程話していた声よりも小さいことに気付き、言われるがままドアの中に入る。屋内に入った筈なのに屋外にいるのは少し不思議な気分だ。


「…しめて……」


 言葉を出すのも辛くなっているらしく、ルイーナは一言だけ告げる。俺はルイーナを手の平に座らせ、腕によりかからせるように位置を変えると、左手でドアを閉めた。閉めてからドアを振り返ると、物置になるのだろうか、直方体の形に整えらえた石が見え、ドアはそこに貼り付けたかのように備わっていた。


 暫くその石とドアに目を向けていると、肩の辺りから大きく息が吐かれていくのが聞こえてきた。


「もう大丈夫よ、ありがとう」


 首を見ると、つい先程まで自らを首に埋もれさせようとしていたチョーカーが只のアクセサリーに戻っていた。怪しい光も無く、ルイーナの首元を静かに彩っている。聞けば人を連れてきて入口を閉じて、初めて「こちらの世界に招いた」と判断され、呪具の呪いも解けるらしい。


 俺はゆっくりとルイーナを下ろし、改めて周りを見渡した。


 景色も音も匂いも、今までいた所とは違う。少なくとも飲食店では無いことは確かだ。


 見てくれを気にする余裕が出来たからか、着ているコートを払い汚れをある程度落としてから、ルイーナはこちらを向いた。


「まずは改めてお礼を言うわね、来てくれてありがとう。よろしくね、えっと…」


 言葉を詰まらせるルイーナを見て、そういえばこちらの名前をまだ教えてはいなかったことを思い出す。


「…アンドレイ、牧島アンドレイだ」


 簡潔に名前を教えると、ルイーナは少し微笑んだ。


「よろしくね、アンドレイ。そして…ようこそ、クライムハイン王国へ」




 図らずも、俺は今日この日、異世界に足を踏み入れた。

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