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異世界に於ける護り屋の表稼業と裏稼業  作者: 塵無
二章 護り屋、冒険者へ
33/38

穴だらけの人員募集

最近の話の文章量から、気のせいか今回は文字数が少なく感じます。気のせいですね。


(主に)商人ギルドの話を出している部分を修正しました。

冒険者ギルドと商人ギルドでは階級の数や付け方が異なる為、商人ギルドの最上級は白金級となっています。

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◇◇◇

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 冒険者登録をしたその日に昇級したアンドレイの存在は、冒険者ギルド内にいた冒険者達の話題となっていた。


 身長2メートルのフォーリナーが宮廷魔導士を二人も連れて冒険者になり、初めてのクエストを受けて昇級した。これを話題にしないのは、今の彼らにとっては金の生る木を見ても素通りするに等しかった。


 他の冒険者であれば質の悪い冒険者にからまれてもおかしくはなかったが、その外見からアンドレイに喧嘩を売るような真似をする冒険者はいなかった。無論、ルイーナとアミルダの存在もその一因となっている。


 その代わりと言わんばかりに、彼らはアンドレイを見るその視線に濁った嫉妬と敵意を乗せていた。その中にはルイーナらを利用してクエストをクリアした見せかけだけの奴だと思っている者もおり、行動に表されていないだけで、皮肉なことにベティの懸念が現実となっていた。


 これでメガロブラックボアの亡骸を見られていたり、ましてや青銅級に昇級されていれば、睨みを利かせている彼らは止む無く椅子に張っていた根を無理やり引きちぎってでも食ってかかっていただろう。それを考えると、あのバターブロンドを持つ美しいギルド職員の采配は流石と言えた。


 だが全ての目がそうと言う訳でも無く、滅多に無い勢いを見せる冒険者の存在に純粋な興味を持った者がいるのも確かだった。


 当のアンドレイ本人は当然、その肌につく粘り気を帯びた多くの視線に気付いているが、裏の世界ではこれ以上にどす黒い殺意を持った視線を何度も浴びてきた。それと比較する訳では無いが、いずれにしろ彼にとっては大したことでは無かった。


 解体屋から残り一頭分のブラックボアの牙と革を貰い、念のために誰の目にも触れない所でエルヴィン達に渡すと大いに喜んだ。お礼を言ってクエストの報酬を受け取ると、再びアンドレイ達にお礼を言ってからリンダの下へ向かっていった。


 アンドレイがエクスィゼリアに来てから、既に四時間余りになる。時間の概念は元いた世界と同じなのは、既にルイーナから聞いていた。


 エクスィゼリアに来る時、元の世界では午後を回っていたが、この世界に着いた時はまだ午前中だったらしく、今はまだ日が傾くまで時間がある。


 クエストとはどういうものかを知る為にと、ルイーナの勧めでクエストを受けた。その流れで解体、それに昇級の手続きまで行えたのは嬉しい予想外の出来事であった。


 最低限知っておく必要のあるものは一通り分かった以上、王女から受けていた依頼をこなす必要がある。王女が愚王を引き止めているだろうが、なるべく早い内に国を出た方が良い。


 そう考えたアンドレイはルイーナに打診する。同時に、国の外はどのようになっているかも確認した。




 アンドレイ達が今いるクライムハイン王国はエクスィゼリアの世界地図上では中央からやや南西に位置し、周りを全て他の国で囲まれた場所に位置している。


 クライムハイン王国の北側から西側にかけて領土を治めているのが、エクスィゼリアで二番目に大きな国、ベルトレイン王国。元々山岳地帯だったその地で鉱石や鉄の原料、また金が豊富に取れるのが分かってから、瞬く間に多くの人が様々な思いを胸に訪れ、開拓を繰り返してきた。


 金の発掘量は滞ってしまったものの、今では鍛冶師の量、質共に世界で一番の国として、豊富な武器や最新の防具が揃い、常に技術の研鑽を行っている。武器や防具の輸出量も多く、国を跨ぐ程の高い評価から技術を学びに訪れる職人が後を絶えない。


 またドワーフという普通の人間よりも背の小さい種族が一番多く住んでいる国でもあり、男は筋骨隆々で、女はふくよかな体系をしている。武器や防具を造らせたらドワーフの右に出る者はいないと言われ、女のドワーフも竹を割ったような気持ちの良い性格をしている場合が多く、酒好きのドワーフの為に多めにある酒場が毎日賑やかなのだという。


 東側はディルムゲイン王国という国が治めており、こちらは決して領土は大きくないものの兵士への厳しい訓練と徹底した統率が成され、この国の兵士一人の強さは他の国の兵士十人に相当すると言われている。


 この国では幼い頃より集団で生活する上での重要性と自衛手段を学ばせ、個人の能力と仲間との連携が如何に大事なものかをその身に叩きこむ。兵士になると更にレベルの高い技術が得られると、兵士を志願する若者は多い。またその性質上、この国で生まれ育った者は仲間意識が強く、同時に外の国の者を(うと)んじていることが多い。


 だが結果として必然的に冒険者のレベルも高く、この国から出て来た冒険者は皆何かしらの武功を上げ、その強い仲間意識から生存率も高い為、中立の立場である冒険者ギルドからもその実績に太鼓判を押している。


 南側にはファルテノン商業国という国が存在し、民主主義で成り立つその国のトップには商人ギルドの長でもある会頭がその地位に就いている。そして国民から選ばれた有能な人材が、臣として会頭を補佐している。


 元は一人の商人が旅をしながら(あきな)いをしていたが、南側が海となっていたその土地に居を構えたことが始まりとなっている。海から取れる海産物もそうだが、海路を利用することで交通、貿易としても一気に発展させることが出来ると踏んだのが見事に当たった。


 そこから次第に船での行き来が行われるようになり、他の国から来た商人が増え始め、多くの商人をまとめる為に商人ギルドが生まれた。更に人と品物が増え、行き来するその場所はエクスィゼリア最大の流通量を誇っている。今では全世界の商人の約七割が商人ギルドに所属しており、更にその一割にも満たない商人ギルド最上級を示す白金級は、極めて厳しい審査をクリアした商人のみが得られ、その商人と店の何よりの信頼の証でもあった。




 一通りの説明を受けて、アンドレイはどの国から向かうのが良いかを考える。ルイーナ曰く、ベルトレイン王国の北側から時計回りで向かうか、ファルテノン商業国から反時計回りで向かうかのどちらかになる。この世界の情勢を知らない為、ルイーナの意見を取り入れる。


 熟考の末、アンドレイが口を開く。


「最初にファルテノン商業国に向かう。そこからディルムゲイン王国、ベルトレイン王国の順だ」


 二人を護りながら他の国へ向かうことを念頭に置きながら、アンドレイは自分自身にも利となる物は何か、何処に向かえばその利がより多く得られるかを考えていた。


 その利とは情報である。


 国内最大の流通量を誇る国であるならば、当然人の出入りも激しい。人の出入りが激しいということは、そこで行き交う情報も多く、尚且つ鮮度も良い。


 仮に偽物の情報を掴んでしまいそれを鵜呑みにしてしまう。ましてや他の人間に偽の情報を伝えてしまった場合、今まで積み上げてきた自身の信用を一気に地に墜とすことになる。信用第一となる商人にとって最も避けたい問題でもある為、情報の真偽には商品と同様、或いはそれ以上に神経を使い、慎重に扱うのは想像に難くない。


 何より商人は横の繋がりが強い。それは元いた世界、自分がいた裏の世界でも同じだった。過去に裏世界の商人の護衛を引き受けてから暫く後、それを伝って別の商人が依頼をしてきたということもあった。


 過去の経験上、商人に恩を売ることで後々自分に有利な情報が聞ける可能性もある。この世界には魔物も存在し、聞けば盗賊もいるという。護衛の依頼は多い筈だ。護衛した商人をガチョウとして、他の商人という金の卵を持ってくるかもしれない。当然それとは別に、金銭的な報酬も存在する。


 自分が利を得られる確率が一番高いのがそのルートだと伝えると、理由を聞いたルイーナは成程、と言うや否や、クエストが貼られた右側のボードに向かった。


 後を追ったアンドレイが急にどうしたと聞くと、ルイーナがボードを見たまま答える。


「貴方が言ったことを踏まえるなら、ここで護衛のクエストを受けるのも手よ。町から町へ移動する商人の護衛をして、移動した先の冒険者ギルドで報酬を貰うの。私達も移動出来るし、護衛した商人の信頼も得られるわ」


 加えてクエストとして受けたことで報酬も得られるという一石三鳥の手段だと言い、そのままボードを見つめていた。


 ルイーナの意見に対し、今度はアンドレイが成程と口にした。しかし有効な手段を考えたものの、ルイーナはボードに貼られているクエストに手を伸ばさない。


「…ちょっとタイミングが悪いかもしれないわね。鋼鉄級で南方面へ行く商人の護衛をするクエストが出ていないのよ」


 アンドレイも鋼鉄級のクエストが貼られているスペースを見る。護衛のクエストは存在するが、いずれも自分達が行きたい方向とは異なっていた。


 護衛のクエストは鋼鉄級からが発注対象となる為、当然赤銅級には無い。青銅級には南方面へ向かう商人の護衛のクエストがあったが、昇級後最初に受けるクエストでは一つ上の階級は受けられない。


 無い物をねだっても手元に落ちてくる訳でも無い。仕方無いと諦め、純粋に移動として南に向かおうかと思っていた時、アンドレイはスーツの背中の辺りをくいと引かれた。


 何だと思って見てみると、アミルダが軽く引っ張りながら、パームカフを小さく鳴らして左側のボードを指さした。


「…あったわよ…ちょうど…いいもの…」


「本当か?」


 アミルダに言われるまま、左側のボードの右側、他のパーティが受注し人員を募集している用紙が貼られる部分の鋼鉄級のスペースに目をやる。用紙の一番上にはクエストの内容が簡単に書かれており、その下に詳細が記載されていた。


【商人護衛】

 内容:クルトナまでの商人及び積荷の護衛

 期間:二日~三日

 報酬:金貨十枚

 受注者:ケリー・ロックウェル(アサルター)

      アレックス・マイヤー(アサルター)

      サム・レンフロ(ヒーラー)

 募集人数/ロール:二人/一人タンカーであれば可


「クルトナはここから徒歩で二日程歩いた所にある町ね。少ないけど確かに魔物も出てくるし、鋼鉄級は五人位の人数で行くのが多いわね。募集人数は二人だけど、報酬面で交渉すれば三人でも良いと思うわ」


「…ただ…それで…タンカーが…いないのは…ちょっと…気になるわね…」


 見つけておいてなんだけど、と言うアミルダの懸念は一理あった。


 盾役もいないのに受注したのは些か気になる所ではあるし、それ以前に募集人数が受注している人数に近い、言うなれば元々受注した時の人数が少ない。


 本来応急処置的な意味合いで使われることの多い人員募集だが、このクエストに関しては募集ありきにすら思える。


 何かあったか、それとも何かあるのか…。どちらにしても良い意味には転ばないだろう。だが引く手数多のロールがここでも活きたのも確かだ。


「これは、話を聞いた上で受けるかどうか決められるのか」


「え? ええ。最初に受付に用紙を持っていくのは通常と変わらないけど、その後に募集しているパーティと合流して話を聞いて、その上で最終的に判断することになるわ」


 そうか、と返して用紙をボードから剥がす。


「…まずは話を聞いてみるか」


 色々と穴のある募集内容が書かれたクエストの用紙を睨むと、アンドレイは再び1番受付へと歩き出した。

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