護り屋・牧島アンドレイ 03
一人称視点で書く場合は以下の記号を入れる予定です。
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【H30.11.10追記】
・「護り屋・牧島アンドレイ 03」加筆修正
・上記に伴い同話を「03」と「04」に二分割化
・一人称視点の時の記号を修正
昨日投稿した後に「こうした方がいいのでは」と考えが出てきて修正しました。
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「いやぁー、ほんっとうに素晴らしい! やっぱり有名な『護り屋』さんに頼んでみるものですねぇー」
ここに転がっている男達に向けて言ったそれと同じようなトーンの声と拍手が、俺の後ろから発せられた。
おかげで葉巻を吸った後の余韻が台無しになった。随分とよく喋る狐だ。
振り返って声と拍手の主、サングラスの男を視界に入れると、振り向く前からしていた拍手を続けながら喜びの表現を口角の吊り上がりで表していた。流石にアタッシュケースに振り回されるのが疲れたのか、片方の手にアタッシュケースの取手を引っ掛け、両手を合掌の状態にして、ケースをかけていない方の手首だけを動かして控えめな拍手をしている。
今までの様子からその拍手さえもおどけているように見えたが、そこまで気にすることでも無いと、俺は再度葉巻を咥えた。
「この地域に来たのは本当に久しぶりでしてねぇ、商品を売ることに気を取られてこの辺を仕切ってる方々のことをすっかり忘れてましたよぉ…」
サングラスの男はアタッシュケースを胸に抱え、手のひらで叩いた。赤子をあやす時のように優しく叩いていたが、生憎それをするには場所と人相が悪すぎる。まあそれは俺にも言えたことだが。
「流石にボクも魚の餌にはなりたくなかったんで急いで護衛をしてくれる人を探しましたが…情報屋さんに感謝ですねぇ、こんなに優秀な『護り屋』さんを教えてくれるなんて、いやぁー僕はツイてたなぁ」
護り屋。
報酬と引き換えに、対象者を外敵から護る、裏世界の仕事の一つ。依頼をされて金さえ貰えれば、聖女だろうが野良犬だろうが何でも護るのが俺の仕事だ。そして今目の前にいるサングラスの男が今回の依頼人。名前は「コウダ レイジ」だったか。口頭でのやり取りだったのでどんな漢字かは知らないが、そんな名前だった。
狐と成り下がり、葉巻の余韻を潰したことなど気にも止めずに、コウダは話を続ける。
「情報屋さんに聞きましたよぉ。「あいつは護衛対象を護る時に、自分より後ろには敵を誰一人通らせたことは無い」って」
…本当によく喋る男だ。口を開く度、体もそれに合わせて大げさに動かしている。
「その護り方からついたあだ名が『門番』らしいですねぇ? 確かに一度もアナタの後ろを取った人なんていませんでしたもんねぇ? まあ三人だけでしたし」
地面に倒れている男達でも見たのだろう、顔を僅かに下に向けてから「おぉー痛そう!」と両手を口元にやっていた。
道化。ふと頭に出てきたこの男のイメージがそれだった。大衆の目を惹きつけるように、自分の仕草一つ一つに大げさな動きを取り入れる。そして注目を集めた所でもう一つ滑稽な動きをして、それを見ていた大衆は揃って爆笑の渦にのまれる…。知らない人間から見れば、今のこいつの動きもそれに近いものに思えるだろう。
だが、この仕事をしていると必然的に物事を斜に構えてくるようになる。俺も例外ではない。見た目で判断するとろくでもないことになるのは、既に経験済みだった。ふと知った顔でもある、首から腰まで余す所無く刺青を入れた大の兎好きなとある組の若頭を思い出した。
連想して頭に出てきた若頭はともかく、要は道化だと思っていた者がその通りだとは限らないということになる。一見道化にみえるこいつも…。
「そういえば、護り屋さんのお名前、『牧島アンドレイ』さん…でしたっけ? ハーフなんですかね? それともクォーター?」
考えている時に不意に自分の名前を呼ばれ、意識をコウダに向け直した。葉巻を手に持ち、煙を吐いてからその質問にだけ簡潔に答える。
「…クォーターだ」
既に死んでいる日本人の父と日米ハーフの母から生まれたクォーター。牧島アンドレイ。それが俺の名前だった。
元々アメリカに住んでいたが色々あって日本に来て、向こうでも似たような仕事をしていたのもあり、こちらでも同じような仕事をしている。幼少時から英語と日本語を両親から学んでいたお蔭で、日本でも問題なく生活出来ている。
「そういえば、さっきのナイフといい鉄パイプといい、どうしてわざと受けるようなことをしたんですか? 避けるなりいなすなりすればよかったと思うんですけど…」
地面に落ちているナイフと鉄パイプに目を配ってからまた質問をしてきた。ナイフに刺された左手は、痛みはするが血もさほど出てきていないので気にしなくなっていた。
この男の質問に答えていると更に質問をしてくるのは目に見えていたので、質問に答える代わりにまた葉巻を味わった。コウダはそれが分かるとまた別のことを話してきた。
結局コウダはずっと一人で喋っている。道化だと思っていたが、役者か噺家にも思えてきた。これ以上相手にしていても無駄だったのと、一定期間の護衛という依頼で、ちょうど今日がその最終日だったのもあり、俺は早々に切り上げようと思った。
「今日が契約の期日になるが、依頼は完了でいいか。アンタもそろそろ行く時間だろう」
コウダはまた大げさに「あぁー、そうでした」と思い出す。依頼をしてきた時点でこの地を離れる日が分かっていた為、今回は期間が決まっていた。
「今回はありがとうございました。おかげで魚の餌にならずに帰れそうです。報酬は後でキチンと口座に振り込んでおきますので」
そう言って俺に体の正面を向け、アタッシュケースを持っていない左手を胸にあて、ゆっくりと一礼した。これだけ見れば紳士の挨拶だが、今までの挙動が挙動だけにそうは見えない。格好もアロハシャツに白のチノパンと、見た目としても紳士のそれとはあまりにもかけ離れていた。
どのタイミングで一人称と三人称を使い分けるかは特に決めていません。今後によっては直す事も視野に入れます。