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異世界に於ける護り屋の表稼業と裏稼業  作者: 塵無
二章 護り屋、冒険者へ
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ルイーナ先生の冒険者レッスン 03

ブックマークして頂いた方々、ありがとうございます。

 左側のボードは形や大きさは右側のと同じだったが、ボードの枠は木本来の色のまま加工されている。左側のボードの前に立ち止まった赤髪の教師は続けて教鞭を取る。


「左側のボードは、何かのクエストに合流したい人や、クエストを受注した冒険者が人員を募集する際にその内容を貼りだすようになっているの」


 左側のボードも中央に縦線が引かれているが、横線が九本引かれ、こちらは横長の長方形委が左右で十ずつある。右側の長方形には右端に、左側は左端に、階級を示す色の珠が付いている。


 左半分がクエストに合流したい人間が書いた自分の情報を、右半分には人員を募集したいクエスト内容と現時点で受ける冒険者の名前を書いた紙が貼られる。


 書かれている内容は当然ながら異なっているが、両方に共通して色違いのアイコンのような印が押されていた。


「この印は何だ?」


「…それは…【(ロール)】ね…」


 説明しようとしたルイーナより一瞬先にアミルダが答える。「ちょっと」と少し睨みを聞かせたルイーナに「…ひまだったから…」と変わらぬ反応で返している。


 先に言われないよう、その続きを説明しようと喉を整える。


「元々は無かったんだけど、パーティでそれぞれ明確に役割を決めて動くことで、より効率的にクエストを進められることが分かってから取り入れられたのよ。だから合流希望の人は自分の、人員を募集している人は募集している【役】を印としてつけるようになっているのよ」


 ルイーナが広げた手を自分の顔の横に持ってくる。


「【役】は全部で五つあって、【盾役(タンカー)】、【攻撃役(アサルター)】、【回復役(ヒーラー)】、【支援役(バッファー)】、【妨害役(ジャマー)】になっているの」


 ボードに貼られている紙についている印の中から青い盾の印を指さす。


「【盾役】は敵の意識や攻撃を引き付けて、他のパーティメンバーに攻撃が行かないようにする役ね。防御力やHPが高い人、もしくはそういった系統のアビリティを持つ人がなることが多いわね」


 リンダから盾役の条件が揃っていると言われたのを、アンドレイは思い出す。確かにHP補正のアビリティがある時点で、十分その条件に当てはまる。


 ルイーナの指が、今度は赤い剣の印がついた紙に向けられる。


「【攻撃役】はタンカーが引き付けた敵を攻撃して、自分達は極力ダメージが無いように立ち回りつつ敵を殲滅していく役ね。これは近接、遠隔、魔法と色々な種類があって、冒険者の中で一番割合が多いのもこの役よ」


 遠隔は弓、魔法は杖と印が分けられており、それぞれの赤い印を指さしながら説明する。同じ攻撃役でもその方法によって戦い方が異なる為、こうした分け方も必要になる。


「【回復役】、【支援役】、【妨害役】は分けてはいるけど、共通して回復魔法が使えることが前提。違いはそれぞれ扱える魔法の割合によるわ。ヒーラーは純粋な回復魔法に優れているし、バッファーとジャマーは基本的な回復魔法に加えて、パーティメンバーの攻撃力や防御力を上げるといった支援魔法や、逆に敵への妨害魔法が使えるのよ」


 バッファーもジャマーも込みでヒーラーと一括りにしても良いと言う。逆にヒーラーは回復系のみだが、他の二つよりは強力な回復魔法が使えるらしい。


 広く浅くか、狭く深くか。固定パーティによっては各ロールが揃っている場合もあったり、野良での募集の場合は細かく指定されている場合もあるようだ。


 それを示すかのように、緑色の印はハートマーク、人型の左に上矢印、人型の右に下矢印と三種類あるのが確認出来る。


「それで、パーティの動きで気を付けないといけないことがあってね」


 印の話が一通り終えたからか、ルイーナが注意点をあげる。


「パーティは基本、その特性上タンカーが先頭に立って敵に攻撃を仕掛けるのが通例になっているの。だから事前の打ち合わせも無しに、他の役が勝手に先に攻撃をするのは良しとされないわね」


「…先釣りっていってね…あんまりやると…タンカーが敵視を取らなかったり…ヒーラーが回復…しなくなるのよ…」


 それを行うことで各々のやるべき役割が乱れ、体制を立て直すのに余計に時間が掛かってしまう。場合によってはパーティメンバー全員の命にも関わることだと、今一度ルイーナはアンドレイに念を押す。


 長い時間と経験の下、数多くの依頼を受けていく中で自然と出来上がった冒険者間での暗黙のルールに当たる。下手な決まりよりも順守しなければならない物は世の中にあるが、この『先釣り』という行為はまさにそれになる。


 どれだけ注意しても事故や不可抗力で起きてしまう場合もあるらしいが、通常なら当人がすぐ謝罪し、次は無いように気を付けて動くようになるのでさほど大きな問題にはならないらしい。


「ただ、中には面白半分でわざとやる人もいるらしいのよね。やるとしたら大体がアサルターになるわ…」


 その先釣りするアサルターと言うのが、実は結構厄介だとルイーナが溜息に混ぜて呟く。


 アミルダが言っていたように、タンカーが敵視を取らない、ヒーラーが回復をしないという一種の「報復」をする場合はあるが、結局助けることになるという。正確には()()()()()()()()


 アサルターはその役通り、最も攻撃に適した存在となる。加えて大体が攻撃や攻撃補正のアビリティを持っている為、必然的に敵を一番早く倒せるのが攻撃役になる。


 つまりクエストを順調にこなす為には、アサルターに攻撃に徹してもらうのが一番の方法になる。


 だが、敵視を受けているとアサルターも満足に攻撃出来ず、時間が掛かる。タンカーやヒーラーでは攻撃力が今一つ乏しく、これも時間が掛かる。結局、タンカーが敵視を取り直して進めていくしかなくなってしまう。


 冒険者ギルドから近ければその時点でギルドに戻り報告をすれば良い。しかしある程度離れた所でそれが起きてしまうと、戻るにも時間と金がかかり、やむを得ずそその先釣りに振り回され続けたままクエストを進めるというケースもあるという。


「まあそういう人も多くはないから、そんなに出会うこともないでしょうけど、気を付けてね」


 アンドレイが過去に受けた依頼をこなす中で、同じようなタイプの人間に会ったことがある。


 他人は勿論、自らをも危険に晒し、鬼のような顔に歪んだ笑顔を貼り付け、喜び勇んで死地へと歩んで行く者を。


 ただ強さを求め、死をかいくぐり、敵をねじ伏せ屍を作り、尚歩みを止めない者を。


 大抵が愉快犯の延長だろうが、もしかしたらそういう一線を越えた人間もいるかもしれない。顎に手を置き、警戒をするように自分に言い聞かせる。


「それで、そういう役割もあって、大体のパーティはタンカーが一人、アサルターが二、三人、ヒーラーが一、二人の計四人から六人のパーティが多いわね。だからこっちに貼っている人は、その四人目や六人目になりたい人や欲しい人達、というわけね」


 アンドレイがよくボードを見ていく内に、青色と緑色の印が著しく多いのに気づく。


「ああ、これね…さっき言ったように、冒険者で一番多いのがアサルターになるから、必然的に他のロールが少ないのよ。特にタンカーは自分が敵を引き付けないといけないし、先釣りの件もあるから尚更ね」


「…成程、引く手数多だと言われる訳だ」


「? どういうこと?」


 聞き返すルイーナに、アンドレイはリンダから自分は盾役に向いていると言われた旨を話す。


 その瞬間、アンドレイは自分の周辺の空気が変わったのを肌で感じた。


 原因は二人ではない。今アンドレイ達の周囲、ボードの近くで談笑していた多くの冒険達だった。


 三人共その張り詰めたような空気を感じたが、ルイーナとアミルダはその空気に納得していた。


「あー…確かにそうなるわね」


「…わかるわ…」


「…盾役がそんなに貴重なのか」


 当事者が状況を読み込めていないのに、ルイーナが少し呆れながら答えを伝える。


「貴方…自分が思っている以上に注目を浴びているのよ」


「…こんなに…大きな…体をした…フォーリナーで…盾役なら…みんな…欲しいわよ…」


「例え今は赤銅級でも、昇級した時なんて引っ張りだこでしょうね」


 注目されていること自体はアンドレイにも分かっていたが、役割一つで更に周りの目が変わったことに未だに不思議でならない。寧ろアンドレイからすれば、ルイーナとアミルダが自身も十分注目の対象になることを視野に入れていない方が疑問だった。


「さて、と…。まあある程度は話したから、そろそろクエストを受注しましょうか。初めてクエストを受注する際に、受付に自分が希望するロールを申告するの。それでその冒険者のロールが決定されるわ」


 初めてのクエストを受注する際に申告したロールが、今後の自分のロールになる。ロールの変更は一度だけ可能で、それ以上の変更は「自分の特性を理解していない」と判断され、一旦冒険者登録が抹消の後一か月間再登録が不可能となり、当然階級もリセットされる。


 一回だけ変更が可能というのは、自分が希望するロールを選んだものの上手く立ち回れず、アビリティに見合うロールにしたら上手くいったというケースがあったからだという。


 アビリティ優先でいけば間違いでは無いが、適性であって適正では無い。自分の持つアビリティが希望と合わない冒険者も多い。


 自分のアビリティで判断するのか、それとも単純に希望するもので申告するのか。人によって最初のロールを申告する基準は異なるものの、大体は最初の申告か変更の一回があれば十分らしい。


 因みに受注のタイミングでロールを申告する手順の関係と、慣れない人間が不用意に野良で組むのは危険ということから、冒険者になってから最初の数回は右側のボードからクエストを選び受注することになっている。


 どれにするの? と右側のボードにある赤銅級のスペースに貼られたクエストにルイーナが目をやる。


 依頼の内容や場所について教えられながら、アンドレイの目は複数の羊皮紙を行き来する。何度か往復した目の動きが止まり、一枚の紙に手を伸ばした。


「これにしよう」


「どれ? 『ブラックボア五頭分の牙と革の調達』…。ブラックボアねぇ。赤銅級としては結構上位なクエストよ? 大丈夫?」


「問題無い。それに…」


 視線を右手に下す。アンドレイには確認しておきたいことがあった。


「『加減』を知っておきたいんでな」


 その答えに今一つ意味が分かっていないルイーナを後目にして、1番の受付に移動する。


 ちょうど人が切れたばかりだったのか、並ぶことなくすぐに1番の受付に行くことが出来た。


 受付にはトゥワイスとは別の、バターブロンドのロングヘアーにウェーブをかけた女性ギルド職員が立っていた。嫌な意味では無い余裕のある雰囲気を感じさせる女性は、アンドレイを見て微笑んでから頭を下げる。


「先程冒険者になられたフォーリナーの方ですね。おめでとうございます。早速クエストを受けられますか?」


「ああ、これを頼みたい」


 アンドレイから差し出されたクエストの紙を受け取ったギルド職員は、一通りクエストの内容を見て顔を上げる。


「ご一緒にクエストに行かれる方は、ルイーナ様とアミルダ様で宜しいでしょうか?」


 アンドレイの後ろから「ええ」とルイーナが答える。


「畏まりました。本来このクエストの赤銅級の中では上位となります為、推奨人数は四人以上となっておりますが、お二人がいらっしゃるのでしたら問題ございませんね」


「…そういえば二人の階級は何になるんだ」


 そもそも冒険者登録をしているのだろうか。アンドレイの考えを知ってか、ルイーナとアミルダは少しだけ口角を上げる。


「私は黄金級よ」


「…わたしも…」


「そうですね。お二人の階級はこちらでも記録されておりますので、黄金級で間違いございません」


 上級に値する第三階級。宮廷魔導士になったのは冒険者の腕を買われたのもあるのかもしれない。レイジナーでもあるルイーナはいずれにしろその道に進むことになったのだろうが、実力は二人とも確かなようだ。


「それではアンドレイ様。申告されるロールは何になさいますか? 変更は一度だけ可能ですが、それでも変えるのはあまり良い印象を与えませんので、慎重に選ばれますようお願いいたします」


「【盾役】で良い。もう決めてある」


 アンドレイの返答で女性が用紙に記入する。どうやら冒険者の申告したロールを記載しているらしい。


「そういえば伝えてなかったわね。私は魔法の【攻撃役】。アミルダは【妨害役】だから【回復役】も兼任よ」


「…こっちのクエストは…久しぶりだわぁ…」


 計らずとも、ちょうどパーティに必要な最低限のロールが揃ったことになる。


 用紙に記入の終えた女性のギルド職員は、やや前屈みだった体を再度正面に向ける。


「これでアンドレイ様のロールが登録されました。こちらは全国の冒険者ギルドで共有される情報となりますので、他の冒険者ギルドで申告と異なるロールでのクエスト受注をされませんようお気を付け下さいませ」


 一言注意の後、また一礼をする。まろやかな濃さの金髪がゆるやかに頭の後を追い、優雅に揺れる。


「それでは、ブラックボアの調達クエストを受注いたしました。気を付けて行ってらっしゃいませ」


 今一度優雅な、そして今度は深い一礼を見せる。風に撫でられた絹のようにしなやかな一連の動きは目を見張るものがある。人が絶えない1番受付を任されるだけのことはある。


「それじゃあ、行こうか」


 牧島アンドレイ。この世界を知る為の初めてのクエストへ、今その足を踏み出した。

「ロール」の概念や「先釣り」等の文言は、私含めた某光の戦士が集うMMOから拝借しました。「ジャマー」も同シリーズで使われていたものを拝借しました。


一応こちらで使う意味のロールに関しては商標登録もされていなかったようなので大丈夫かとは思います。何かあれば教えて頂ければと思います。


「アサルター」に関しては「アタッカー」でも良かったのですが、馴染みのある言葉なので変えようと思ったのと、物理的、実質的な攻撃は「アサルト」になるそうなので、敢えてこちらにしました。


漸くクエストに入ります。今後「クエスト」という単語を依頼に変えるかもしれません。

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