ルイーナ先生の冒険者レッスン 02
「鑑定者の憂鬱 02」におきまして、
アビリティを含む話の半分近くを修正、追加いたしました。
「赤銅級冒険者・牧島アンドレイ」も若干修正しました。
ご了承下さい。
途中からでも読めるようにと、あらすじ代わりに簡単な経緯を最初に書きました。
最近のと比べると今回は短めになります。…本来はこれ位にする予定だったのですが…。
護り屋として裏の世界で生きてきた男、牧島アンドレイは、クライムハイン王国の宮廷魔導士と名乗る女、ルイーナ・エヴェリーにより、異世界エクスィゼリア連れて来られた。
ルイーナが仕えるクライムハイン王国国王、アドルフ・クライムハインのあまりにも愚かな政策と人間性、命令に等しい依頼に嘘という不純物が混ざっていたことによりそれを断る。
粛清を受けるも、誰一人としてアンドレイに致命傷を与えられず、かえって彼が放った一撃によりその場にいた誰もが声を失うこととなった。
両親と異なり国や民の身を案じていた王女クラリス・クライムハインは、愚王アドルフに命を取られんとしていたルイーナを国使として、各隣国に自らの国の実情と、万一の時は国民を助けて欲しい旨を書いた書簡を届けさせる命を出した。
同時に、国を後にしようとしたアンドレイに情報と金貨を報酬としてルイーナを護衛する依頼を出した。
互いの利害が一致する形になったことで、アンドレイは王女の依頼を受けることにし、今はまだ明かさない理由の下合流した宮廷魔導士兼呪術師のアミルダ・スウィーブを含めた三人で、クライムハイン王国を囲う各隣国へと向かうことにした。
情報収集や金銭を稼ぐ為、また後々動きやすくなる理由から冒険者ギルドに向かい、アンドレイは冒険者登録を行う。
そこで国内最大規模を誇る王都の冒険者ギルドにいる【鑑定者】リンダ・カールトンから、この世界にいる人間が持つことのある『特性』でもある【アビリティ】の説明を受ける。
他者のアビリティを見られる数少ない存在でもあるリンダがアンドレイを鑑定した結果、彼のアビリティがこれまでに無い程、怒りと哀しみで彩られた物であることを知る。
あらゆる制限がある上でも強いアビリティを持っているという話を受けたアンドレイは、冒険者の証となる認証票を手にし、かくして裏世界の住人だった護り屋は、冒険者としてその一歩を踏み出した――。
胸に感じる赤銅で出来た認証票の冷たさが、アンドレイに冒険者になったことを今一度自覚させる。
「…そういえば、確か金がいるんだったな」
認証票を作成する際の手数料がかかることを今になって思い出したが、問題無いとルイーナが赤い髪を揺らして答える。
「手数料なら、もう払っておいたわよ」
聞けばアンドレイがいなくなったのを知った二人が探しに行く段階で、受付をしてくれたギルド職員、トゥワイスに手数料を渡していたと言う。
本来そのタイミングで手数料を渡すことになっているのだが、アンドレイは当然知る由も無く、アンドレイの顔を見て固まってしまったトゥワイスはそれを伝える余裕が無かった。
「すまんな、金はさっきもらった前金から引いてくれ」
「それ位気にしなくて良いわよ。大した金額でも無かったし」
「……それなら報酬として貰っておく」
「報酬?」
一瞬何のことか分からなかったルイーナが返す。
「この世界に来る前に依頼を受けただろう」
「…ああ、さっきのね。分かったわ。それでお願い」
ルイーナはこの世界に連れてくるべき人間を探すべく、日本の主要都市の一つでもあるS区にいた。
その際に5人の男達に絡まれ、路地裏の奥で別の依頼を終えたばかりのアンドレイと遭遇し、アンドレイはルイーナを護るという依頼を受け、その5人を排除した。
それを原因としてルイーナはアンドレイをこの世界に連れてくる【降り立つ者】とすることに決め、紆余曲折を得て今に至る。
「…二人しか…知らない話…されても…困るわぁ」
黒髪に黒を基調とした服をきているアミルダは、いつものように眠そうで艶を帯びた声で会話に入る。左目にされた黒の眼帯は目の部分に紫と青でシンメトリーの細かな装飾がされ、中央に大きな青い宝石が埋め込まれている。
「ああ、ごめんなさい。こっちに来る前のことだったから」
「…ああ…冗談よぉ…気にしないでね…」
フフッと小さく笑うアミルダに、「もう」とルイーナが笑う。どうやらこうしたやり取りはいつもあるらしい。
「それで、登録したらどうすれば良い。もう目的の国に行ってもいいのか?」
登録も終わり、最低限やることも済んだ。アンドレイは王女の依頼通りルイーナ達を護衛し、ルイーナ達は王女の命令通り書簡を隣国に届ける。
アンドレイとしてはそれで良いと思っていたが、二人の意見は違っていた。
「確かに急いだ方が良いのもあるけど、今後のことも考えて貴方に冒険者の仕組みをもう少し教えた方が良いと思っているわ」
「仕組みだと?」
方眉を上げるアンドレイに、アミルダが答える。
「…まずは…クエストを…受けるの…」
そう言いながら腕まである黒い革のグローブが着いた右手の人差し指を右の壁に向けた。今冒険者ギルドの受付を背にしている彼らから見て、受付の斜め前、壁際に建てられている二枚の大きなボードを指さしていた。
言われるままにアンドレイは二枚のボードの前に足を運んだ。冒険者ギルドに入った時から受けている多くの冒険者からの視線は、相変わらず彼らから離れない。その視線を無視し、目の前のボードがどういうものか見ることにした。
ボードは縦が約2.5メートル、幅が約2メートルの大きさに揃えられ、それが横並びになっている。ボードもそれを囲う枠も木製で出来ており、右側のボードの枠は一旦火であぶったのだろう、焼き色が付いた木で造られていた。
「さて、それじゃあレッスン2に行きましょうか」
「…まだ…やっていたのね…」
受付でも用紙の書き方について教えた時のそれと同じ始め方をしだしたルイーナに、もう慣れてしまったのか「頼む」とアンドレイは端的に答え、アミルダは半ば呆れている。
「まず右のボードからだけど、こっちには今現在冒険者ギルドで発注している依頼…クエストと呼んでいるんだけど、それが各階級毎にまとめて貼られているの」
右側のボードは中央に一本の線が縦に入っており、そこから等間隔で横線が三本書かれている。長方形のスペースが八つ出来ることになるが、右上二つのスペースには更に横線が書かれ、ボードの左側には大きな長方形が四つ、右側には大きな長方形二つと横長の小さな長方形が四つで区切られた形になる。
それぞれのスペースの右端には、冒険者ギルドの看板にもあった十色の珠が、それぞれ一つずつ描かれていた。
各長方形のスペースには文字の書かれた羊皮紙がピンで止められており、アンドレイ達以外の冒険者もその羊皮紙を見ている。
「受注出来るクエストは自分と同じか一つ上の階級の所に貼られている物だけだけど、その階級になって初めて受けるクエストは同じ階級の物と決まっているから、貴方は一番左下のスペースに貼られたクエストだけ受けられるわ」
「その階級というのは、一体何だ」
質問をされ、そこで初めてまだ階級について教えていなかったことを思い出したルイーナがすぐ補足に入る。
教師ルイーナがしてくれた説明をまとめると、階級は上から次の十種類に分けられる。
第一階級…【霊銀級】
第二階級…【白金級】
第三階級…【黄金級】
第四階級…【白銀級】
第五階級…【瑠璃級】
第六階級…【琥珀級】
第七階級…【翡翠級】
第八階級…【青銅級】
第九階級…【鋼鉄級】
第十階級…【赤銅級】
第一、第二階級は最上級。第三、第四階級は上級。第五から第七階級は中級。そして第八から第十階級は下級、初級と区切られている。
それぞれの区切りを境にクエストの難易度や報酬、昇級審査の厳しさが段違いとなる為にこのようになっているらしい。
ボードでは中央の線を境に、左側が翡翠級から赤銅級、右側が霊銀級から琥珀級のクエストが貼られている。最上級、上級の四階級は、その高い難易度や報酬に反して発生頻度が低い為、意図的に張り出されるスペースが小さくされている。
通常では、自分の持っている認証票の素材(色)と同じ色の珠か、一つ上の階級を示す色の珠があるスペースに貼られているクエストを受けられるということだ。アンドレイの場合は今の階級でもある赤銅級と、その一つ上の鋼鉄級になる。
「一つのクエストを受けられるのは一パーティで、パーティは一人から八人までってなっているわね。それ以上だと洞窟とかの限定的な場所では大所帯過ぎて動きづらくなるのもあるし、過去に大人数でクエストに行っていざ報酬を受け取る段階になって揉めに揉めた事例もあって、自然とそうなったらしいわ」
また依頼によっては報酬の都合で人数が決められているが、大体パーティは固定で組まれていることが多く、一人頭の報酬が減ってしまうことを本人達が同意すれば指定人数以上のパーティで行くことが出来るので、殆どのパーティは全員で行くことを優先している。
パーティ内で階級が異なっている場合は、基本一番下の階級に合わせるよう決められており、それを破るとパーティ全員に罰則があることも付け足した。
次はこっちね、とルイーナが数歩左に動く。
次は左側のボードの説明らしい。ルイーナ先生の授業は続く。