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異世界に於ける護り屋の表稼業と裏稼業  作者: 塵無
二章 護り屋、冒険者へ
22/38

【鑑定者】リンダ・カールトン 01

R2.7.14

一部修正


段々と一話一話の文字数が長くなっていました。


今まである程度文字数に差が無いよう書いたつもりですが、今後はキリの良い所まで書くことを主にやっていこうと思います。文字数は一話では明らかに長すぎる場合は分けます。

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◇◇◇

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 葉巻を吸ったままのアンドレイを招待した部屋の主は、自らが招き入れた大男を見ると、彼が部屋に入る前から上がっていた口角を更に少し上げた。


「ようこそフォーリナー君。ウン、やっぱりだ。焚いてる香と混ざっても嫌な匂いにはならないね」


 葉巻から上がる煙が部屋の中で焚かれている香と混ざり合う。お世辞にも主張が控えめとは言えない物同士の香りは、何故かと疑う位自然に馴染み、名残を置いて消えていく。


「私はリンダ・カールトン。気軽に「リンちゃん」とでも呼んでおくれ」


 猫のように悪戯っぽい笑顔のままで自己紹介をすると、机の向かいにある椅子に座るよう促した。しかしそんなリンダに対し、アンドレイはまた思考を巡らせつつあった。


 葉巻の存在を知っていた上に、自分の黒々とした心境をそのまま映した顔が落ち着きを取り戻したこと見抜いた女だ。外にいた自分を見ていたとしてどうやって見たか、それが気がかりだった。


「? どうかしたのかい?」


 中々席につこうとしないアンドレイを疑問に思いリンダが少し首をかしげたが、彼が持っていた葉巻に目を落としていたのを見て「ああ」と理解する。


「そうだよ、『見えて』たんだ。ここから君の姿がね。葉巻を吸っていたことも、とても近寄りがたい顔と気配をしていたのも。モチロン、君の服装もね」


 質問をされる前に答えを告げてウィンクする。動きに釣られるように、胸の辺りまで伸びた髪が揺れる。


 薄暗いといっても多少の明かりはある。ダークブラウンとピンクブラウンのバレイヤージュカラーに染められた髪は、その明かりの中ゆらりと動いて映えている。男ならその仕草に魅せられるだろうが、アンドレイは未だ警戒心を解かない。


 その心境を知ってか知らずか、リンダは軽く困った笑顔をする。


「警戒する気持ちは分かるよ。でも安心して欲しい。さっき言っただろう? 冒険者登録をする人間は必ずここに来るようになっている。君が気にしているだろう、さっき私が言った答えを含めて、色々と教えるようになってるからね。結局私と話すんだから、それが早いか遅いかの違いさ」


 リンダの言っていることは確かに一理ある。


 冒険者ギルドからすぐに行き来が可能となっているギルドとこの建物とのドアの位置や、冒険者ギルドからでないと入れないように道と敷地との境に設けられている柵。仮に問題のある人間だとしたら、ギルド側がそのままにする筈もない。


 アンドレイ自身、今はまず情報を得ることを優先している。何かしら教えてくれるのであれば、それに越したことは無い。


 目の前にいる猫を思わせるような女の意見を、アンドレイは受け入れることにした。


「…このままで良いか」


「お、やっと口を開いてくれたね? なかなか渋い声をしてるじゃないか。ああ、別に構わないよ」


 アンドレイの声を聞いて、またニンマリと笑った。今まで自分と初めて会って驚きを見せなかった人間はそういなかった。ましてや怖がる様子も無く、ましてやここまで笑いながら接してくるリンダの反応を、アンドレイは珍しく思えた。


「さて、まずは何から話そうかな…と、君が気にしている答えから先に教えようか」


 椅子に座ることを拒んだアンドレイを特に気にすることなく話の出だしを決めたリンダに「頼む」と返す。


「時系列的にまず葉巻に関してから話そうかな。葉巻に関しては単純さ、過去にいたんだよ。君と同じように葉巻を吸っていたフォーリナーがね」


 成程、確かに単純な話だった。


ここに来たばかりの時に、ルイーナからフォーリナーは数年から100年前後の感覚でこちらに連れて来られるというのをアンドレイは思い出した。一人位は葉巻を吸った人間がいたとしてもおかしくはない。


 暫く吸わなかったことで火が消えた葉巻をしまったアンドレイを見ながら、リンダは話を続ける。


「服装も今の君と同じでスーツを着ていたよ。尤も、そんな穴は開いていなかったけどね」


 ニヤリとしながらそう言うリンダの目線を見て、その先にあるスーツの穴を見る。「事情があってな」と簡潔に返すアンドレイに「フーン?」とリンダは相変わらず口で弧を描く。


「それと黒い眼鏡…そっちの世界では『サングラス』って言うんだろう? それに白いストール、あとは連れて来られた時から持ってたんだろうね。手にこれ位の長さのある、真ん中にぶ厚い皿みたいな物が生えたような…確か『銃』だったかな? そんなものを持ってたね」


 自分の両腕を広げリンダは手の位置で大体の長さを伝える。1メートル弱の長さのある取手や厚い皿が生えた銃と聞いて、アンドレイの頭の中で真っ先に『トミーガン』の愛称を持つサブマシンガンが思い浮かぶ。厚い皿はトミーガンの特徴でもあるドラム弾倉だろう。


 服装からも察するにマフィアであることは想像に難くない。欧州に行くことは無かったアンドレイに、有名なマフィア映画に出ていたイタリアの俳優が映画の中でトミーガンを連射しているシーンを思い出させる。


 連れて来られる方は勿論として、連れてくる方も連れてくる方だな…。アンドレイの口から無意識に溜息が出る。


 因みにそのマフィアがしていたストールが王族や貴族の男女問わず注目を集め、今では貴族の外出用にと呉服店でも売られているとリンダが言う。皮肉にもそのマフィアはこの世界の貴族達の装いに一役買っていたらしい。リンダがストールだけ自然と口にした意味も分かる。


「それで、アンタは何で俺が見えたんだ」


 葉巻の謎が分かりすぐに他の謎を聞くアンドレイに、リンダは特に嫌な顔もせず答える。


「答えは私の【アビリティ】さ。名前を【(じゅう)()(がん)】といってね。ちょっとした透視や、少し先の物や人を見ることが出来るんだ。君の葉巻や顔の変化も見えていたって訳さ」


 アビリティ。何度か耳にしたが、更にその能力や名前についてまともに聞いたのは初めてだった。正確には謁見の間で兵士を吹き飛ばした後に国臣達が言っていたのも能力の一旦なのだが、アンドレイには理解出来る筈も無かった。


「何だい、まだアビリティについて聞いていないのかな? この国の【レイジナー】はルイーナだろう? 彼女のことだからもう教えていても良さそうだけどね」


 不意にアーソンが馬車の中で言っていたのと同じ単語が出てきたが、その後に出てきた護衛対象の名前に、アンドレイの眉が少し動く。


「…知っているのか」


「ルイーナとはそれなりに長い付き合いをしているからね。それにクライムハイン王国の『赤髪の華(ルージュ・フルーレ)』は有名だからね。ああ、これは本人の前では言わないであげてね、怒るからさ」


 からかうのも面白いんだけどねと、リンダはコロコロと笑う。


「アンタの言う通り、今は冒険者ギルドに来ている」


 アンドレイが親指で後ろの冒険者ギルドを指して答える。冒険者登録があるから、それもそうかとリンダが返し、レイジナーがフォーリナーに対してこの世界について教えることになっていると続ける。


 今回に関してはイレギュラーな展開が重なったものの、幸いアンドレイが何も知らずにこの世界を彷徨(さまよ)うという展開にはならなかった。


「…レイジナー、というのは?」


「それも知らないのかい? まだ色々話せていないようだね。まあいいか。さっきの様子からするとフォーリナーは知っているようだね。つまりはその逆さ」


「逆?」


 方眉を上げたアンドレイに、リンダが机の上に右手を上げてからゆっくりと下す。


「異なる世界からこの世界に「降り立つ」君達を【降り立つ者(フォーリナー)】と呼ぶ」


 言い切ると同時に机の上に手を置き、すぐに上げていく。


「その逆に、この世界から異なる世界に行ってフォーリナーを連れてくる者のことだよ。君達が「降りる」ならこちらは「昇る」。だから【昇り行く者(レイジナー)】ってことさ」


 顔の所まで上げた右手に目をやって「分かったかい?」とアンドレイに向き直す。肯定の意味で頷くと「よかったよかった」とまた笑って返す。アンドレイはこの部屋を訪れてから、彼女の笑っていない顔を見ていない。それくらい笑顔の絶えない女性だった。


 また昔を思い出しそうになった頭を、新たな質問をして塗りつぶした。


「色々教えると言っていたな。何を教えてくれる場所なんだ」


 ここに着いた時から何かを教えるような場所には思えなかったアンドレイの心境に反応するように、リンダが自分口に指を当ててそれに答える。


「そう、それがここでやる一番大事なことなんだ。最初の一歩はあんまり多くの人に知られる物ではないからね。だからこんなに明かりも乏しいし、外から入ってこられないようになってるんだ。勿論、魔法や他のアビリティに影響されないように建物にも加工を施してね」


 まだ要点を得ない答えに疑問が拭えていないアンドレイに、続けてリンダは告げる。


「ここでは、君のアビリティを調べるんだよ」

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