護り屋・牧島アンドレイ 01
初投稿です。
断片的に考えていた物を色々とつなぎ合わせて書き始めました。
ストックは無い為続きはこれから考え、書いていきます。
また自身の都合や状態によって掲載ペースに大幅に波があると思いますが、
読んでいただければ幸い。
―東京都S区。
東京主要都市の一つであるその場所には、人口約3,000万人が詰め込まれたようにその地に住んでおり、それと同じ位の人がこの地を行き来している。
朝には会社に向かうスーツ姿の社会人、友人と談笑しながら駅に直結している学校に向かう学生がとめどなく改札から溢れるように移動し、未だ取りきれない眠気から来る欠伸をどうにか噛み殺してレジに立つ店員の姿が伺える。
夜になっても人が少なくなる様子は無く、朝には改札から出てきた人々が家路に着く為に改札に入り、風俗店の店員がライトアップされた店の看板を背に必死に客を呼び込み、シャッターの下りた店の前にはホームレスが各々お決まりの場所にダンボールで囲いを作る。
朝と夜とで中身は違えども、人や物が常に溢れている街である。
そしてそんな繁華街にも、少なからず「裏」の部分は存在している。たった一本、路地裏へと歩みを進めた途端その暗い影は瞬く間に己と光差す「表」との立場を逆転させる。
監視カメラの無い路地裏の袋小路では不良同士が素手や光物を手にしての乱闘が繰り広げられ、数人の男達が女の髪を掴んで連れて行った奥から悲鳴があがり、にやけ面をした男が若いグループにドラッグを売る…。世の中には何においても「表」と「裏」がある物だが、この街はそれが色濃く出ている。
その「裏」の領域である路地裏の更に奥で、数人の男が向かい合い、一人の男がもう一人の男に対し、持っていたナイフを衝きたてていた。
刃渡り10センチ足らずの細いジャックナイフが男の手を貫き、刃や柄、持っている男の手が血で濡れていく。何かにうろたえるような声が、その場所から確かに聞こえた。
その状況自体、この界隈ではもはや珍しくも無かったが、ことここにおいてはいつものそれとは多くが異なっていた。
一つは、ナイフを刺している男と刺されている男、それぞれの後ろにいる一人ないし二人の男が全くその場を動こうとせず、二人の様子を凝視していたこと。
二つ目は、二人の内の一人の体躯が、他の男達より遥かに大きいこと。その大柄な男の左手に、今ナイフが刺さっていた。
何より異なる部分は、今うろたえている声を上げているのは、「ナイフで刺されている」大柄の男の方ではなく、「ナイフを刺している」男の方だった。
「な、なんで…」
ナイフを握っている男の手が震え、それが刃に伝わる。
「…なんで刺さってんのに、ヘーキでいられんだよ!」
手にナイフを刺されている大柄な男は、痛みを訴えるでもなく、身を引くでもなく、ただただ、自分を刺している男を鋭い目で凝視していた。
刺している男の手の震えによってナイフも大きく震え、結果として傷口をなおも痛めつけていることになるのだが、それでも大柄な男は眉一つ動かすことは無かった。
ナイフを刺している男の中には、混乱と恐怖が渦巻いていた。手とはいえ、ナイフを刺されれば痛みに顔を歪め体勢を崩すことが多い。しかし、目の前にいる男は顔を歪めもしなければ体勢を崩しもしない。
加えて大柄な男と自分とはおおよそでも20cm以上の身長差があった為、必然的に大柄な男を見上げることになる。
刺されても微動だにしない男が自分を見下ろし睨みつけている。先の二つが彼の中を占める理由としては、それだけで十分だった。
ふと大柄な男の左手が、ゆっくりと動き出した。ナイフが刺さっている手が動けば、当然ナイフを刺している男の手もそれに釣られて動き出す。向かい合わせになっていた為、ナイフを刺している男の右手が釣られて動くことになる。
ゆっくりとした動きだったが、ナイフを刺している男からすれば突然のことに他ならなかった。更なる混乱が頭の中で起きているのに対し、大柄な男は、ナイフごと、ナイフを刺している男の右手をその左手で掴んだ。
「なっ! えェ!?」
ナイフが刺さっている方の手でそのまま掴んでくることなど全く予想していなかった為、ナイフを刺している男は妙な声をあげてしまう。路地裏の奥で起きている流血沙汰の中では些か気の抜けた声だが、出した当人はその声が場にふさわしい物かどうかを考える余裕など無かった。
大柄な男の手は体に負けず大きく、ナイフを刺している男の右手を包むように掴んでおり、右手が動いていても指一本として動くことは無く、しっかりとつかんで離さない。
「ぐっ…、な、なんで動かな…」
ナイフを刺している男は余っている左手も使い大柄な男から離れようともがいているが、それでも右手は解放されない。
そして、ナイフを刺している男は自分の右手を解放させることに意識が向き過ぎてしまい、大柄な男の右手が、左手同様ゆっくりと動いていることに気付いていなかった。
「は、はなせっ…! はなブェッ!!」
放すことを訴えながら必死にもがいている最中、大柄な男の平手打ちが顔面に入り、ナイフを刺している男は思い切り吹き飛ばされ、その先の壁に体を叩きつけられる。
計らずも「はなれる」という願いを叶えた直後に潰れた蛙のような声をあげ、男はそのまま地面に突っ伏し、意識を失った。
ここの使い方も若干手探りの為、今後色々と修正していく可能性があります。
ご了承下さい。