第八話;受験勉強
戸籍を無事に取得したのは良かったけど、
入学試験をいきなり明日に設定されたことは、
僕にとってもルナにとっても大変な痛手だ。
なぜならルナには受験と言う経験が無い。
「由真が受験経験があるから、
どういうものかは見当はついてるよ」
などと言ってはいるものの
ルナの成績はまったくわかっていない。
国語、数学、理科、社会、英語などの教科から
出題形式がまったく判らない。
僕の本を渡して勉強させるにしても、
数学と理科と社会は一年生の時から、
すでに選択科目形式になっていて、
他の教科の教科書は持っていない。
そこで僕が考えた方法は、
「本屋に行くぞ!それと学校の図書室に向かう!」
本屋には『私立城北第一高校入学テスト問題集』というのがある。
そして学校の図書室には
ありとあらゆる本があり情報の塊となっている。
一日しかないがテスト勉強一夜漬けには持ってこいの場所なのだ。
「ルナも勉強は大切だからそのほうがいいね。」と納得してくれた。
まず本屋に行き学校の赤本を手に入れた。
そして学校の図書室に行きテスト問題を解いていった。
うちの学校はマークシート形式の問題と
実際に書き込みをする形式の
2種類の回答方法があり、
まずそこから教えることにした。
文房具は僕が使っているシャープ2本とボールペンと消しゴムを渡した。
当日はこれを絶対にもっていくんだぞ!と念を押しておいた。
問題集を採点したところ、結果は散々なものだった。
ルナは科学と化学、微分積分が得意のようで代数幾何は駄目だった。
英語に関しては中の上くらいの点数、国語に関してはすごく弱かった。
地理は苦手のようで世界史はすごく得意分野のようで日本史は弱かった。
「あのさ・・・得意科目や苦手な科目まで、
僕と同じにならなくてもいいんだぞ・・・」
「それは私と由真は完全に繋がっているから、
そうなっちゃうのは仕方が無いって思ってくれない?」
とにかくルナを合格させたい一身で僕も頑張っていた。
英語のヒヤリングテストはどうしよう・・・。
ここは学校の図書室、英語対策の学習用にヒヤリングテストの問題がある。
ルナにヒヤリングテストの問題を解かせて、
とにかく図書室が閉まるまで出来る限りの事をやった。
図書室が閉館となり、
勉強用の資料を13冊僕の学生証で借り入れ、
家に帰ることにした。
さすがのルナもすごく身体が疲れているように思えた。
今日は夜の11時には寝ること、そして朝の7時に起きること。
家に帰ったら一度お風呂に入って休憩しよう。
それから受験勉強をすることにしような。
テスト中に寝てしまったらそれこそ目も当てられない。
ルナを絶対に合格させてあげたい。
僕はその一心でいっぱいだった。
受験を控えている子供を持つ親って
こういう気持ちだったんだろうな。
僕が受験勉強をしているときのことをつい思い出してしまった。
僕が受験勉強してるとき、
のどが渇いてしまうからということで、
いつも水筒2本も用意してくれていたっけ。
一つは緑茶でもう一つは僕の好きな甘い紅茶。
僕の部屋に母が毎日置いてくれていたっけ。
でもトイレに行きたくなって
結局一階に降りてトイレ休憩しちゃっていたな。
勉強方法もわからなくって
教科書を読んだり過去の問題を解いたり、
テスト問題を引っ張り出しては問題を解いていたっけ。
公立高校に入りたかったから
公立の問題を解いていた記憶がある。
そういえばいつも母が僕のところに来ては、
「勉強は大丈夫? ちゃんと勉強は進んでる?」って言ってたっけ。
ルナと一緒に食事を作り一緒に食べて、
ルナを先にお風呂に入らせた。
「勉強、頑張れよ。」と伝えることしか何も出来なかった。
なんか自分には何も出来ないことに
とてつもないほどの悔しさを感じていた。
午後10時になったので飲み物を持っていくことにした。
僕は母から作ってもらったものと同じように、
500mlの容器に緑茶と甘い紅茶を作ってあげた。
ルナの部屋のドアをノックした。
「入ってきてもいいよ。」と声が聞こえたのでルナの部屋に入った。
「緑茶と紅茶の差し入れ。
のどが渇いたんじゃない?ちょっと休憩にしようか。」
ルナの顔を見たら、
すごく疲れているのが目に見えるような感じがした。
「ねえルナ、調子はどう?」
僕には気の利いたことはいえなかった。
「うん!大丈夫だよ。もうちょっとだし頑張る!」
明らかに疲れきった顔を見せないように笑顔で僕に答えた。
「あと一時間、頑張ろうな!」
そういって僕はルナの部屋を出て行った。
もっと気の利いた言葉がいえたらいいのに、
いっぱい頑張っている人に、
『頑張れ。』と言う言葉ほどツライ言葉は無い。
でも『無理をするなよ。』なんていう言葉は、
状況が状況なだけにかけることはできない。
「人って本当に無力だよな・・・。」
僕には本当にどうすることも出来なかった。
頑張れと言う言葉しかかけてあげることしか出来なかった。
それが僕にはすごく悔しくって、
そして本当に自分が情けなかった。
(いよいよ明日か。)
明日なんて言うものじゃない。
ほんの数時間後にはルナは
入学を賭けた受験という戦いが始まるのだ。
そうだ洗濯しなくちゃいけないや。
色柄と白色に分けて洗濯をまわした。
家には二台の洗濯機がある。
もともと家族で住んでいたからだ。
洗濯をやって、食器とかの洗い物をやって、
洗濯が終わったら乾燥機に入れてまわしておいた。
そういえばここの洗濯機の置いてある場所って、
僕らの部屋に音が聞こえないんだよな。
親も家を建てるときに
いろいろと考えて設計したんだな。
洗い物をすませて乾燥機も回したら、
もう時計は11時を回っていた。
(ルナのやつもう寝たかな。)
心配になってルナの部屋に行きノックした。返事が無い。
でも部屋の電気がついている。
部屋に入ってみると机の上でばったりと眠っていた。
(よっぽど疲れていたんだな。)
ルナを抱きかかえてベッドに寝かせた。
ベッドの前に目覚まし時計があり、
アラームがしっかりと7時にセットされていた。
しかしアラームONにはなっていなかった。
「ルナ。忘れ物してたぞ。」
そういってアラームをONにして電気を消した。
「ルナ、おやすみ。」
そういって扉を閉めた。
さて僕もお風呂に入ってから、寝る事にするか!
でもルナのことを考えると
なかなか深い眠りにつくことができなかった。
朝7時、なかなか寝付けなかった僕に
無常のアラームが鳴り響く。
(ルナはどうしているかな? ちゃんと起きたんだろうか?)
心配になり、ルナの部屋に行き扉をノックしたが返事が無い。
(昨日は疲れすぎてまだ寝てるのかな?)と思っていると
一階で物音がする。
急いで一階に行くと朝ごはんを作っているルナの姿があった。
「おっはよう由真!もうそろそろ朝ごはんが出来るから顔を洗ってきてね。」
「おはようルナ、朝ごはん作っていたのか。僕がやったのに。」
「大丈夫! 私に任せなさい♪」
僕は顔を洗って眠気を吹き飛ばした。
(今日だ! 今日一日とにかく頑張るんだ。)
そう言って僕は朝食を食べることにした。
「今日は朝8時半スタートだから、
遅刻しないように早めに家を出ような。」
「うん わかった。今日は一生懸命頑張る!」
「どんなことがあっても名前は忘れずに書くこと。
筆記用具は多めに持っていくこと。」
これは試験をする時の僕なりに考えている絶対条件だった。
「もうかばんの中に由真からもらった筆記用具はちゃんと入れておいたよ。
あと買ってくれた問題集も入れておいた。」
「テストの前には絶対にトイレに行っておくように! これは絶対!」
「うん 大丈夫だよ。」
「そして・・・。」
僕は500mlの水筒2本を持ってきた。
中身は緑茶と甘い紅茶だ。
そして僕が昨日の間に作ったお弁当も用意して、
持っていくように置いておいた。
ルナはそれらをかばんの中に詰めた。
もう一つ 筆箱、
僕がいつも使っているもので筆記用具も入っている。
「ご利益は無いかもしれないけど、
念のために持って行って欲しい。」
「うん 判った ありがとうね。」
「あと区役所でもらった
戸籍とマイナンバーも持っていかないといけないぞ。」
「えっと・・・。
その書類もかばんの中にちゃんと入ってる。準備よし!!!」
「さて時間だ!」
百合先生からは僕も一緒に来いといわれている。
だから今日はルナと一緒に登校だ。
「これから毎日、一緒に登校できるといいね♪」
「うん、絶対に登校できるさ。」
そう言いながら僕たちは学校を目指して歩いていた。
「最高の日にしてくるね♪」
ルナは力強く、笑顔でそういった。