第六話;百合
「前の学校は何処の学校? ここはそんなに甘くないよ?」
「ですからこうして百合先生に直接、頼んでいるんですよ。」
僕には意味のわからない二人の会話。
なぜルナは百合先生に学校に入学することを頼んでいるんだ?
と言うより高校の中途入学ってどうやるんだ?
ルナは地球では存在してはいけないはずだから、
戸籍なんて言うものは無い。
戸籍が無いんだから住民票も無い。
学校に通ったということも、もちろんないわけであって、
学校制度そのものの経験が無いのではないか?
「そのことなら大丈夫だよ。
由真が学校制度で学んできた記憶があるんだから。」
なるほど、そういうことは異体同心と言うわけね・・・。
でも戸籍制度はどうすることも出来ないだろ?
僕の戸籍を使ってもルナとは別人なんだから、ルナの戸籍がないといけない。
「まぁ戸籍については何とかなるでしょ。」
「なぁ由真。この瑠奈について聞きたいことがあるんだが?」
百合先生が得心のいかないような顔で僕に話しかけてきた。
「百合先生、どうかしたんですか?
瑠奈さんについてなにか疑問でもあるんですか?」
「由真、ちょっとここはひとまず、
先生と生徒と言う関係を無くして話しようか。」
「え? 先生とではなく僕とおばさんとの関係として、
話をするとのことですか?」
百合先生の眉がぴくっとあがったような気がした・・・。
「由真、私のこと今なんて呼んだ?」
「百合姉さんです!」
「瑠奈さんも私を由真のお姉さんとして話をしていいかな?」
「はい、判りました。」 ルナはあっさりと承諾した。
「由真、瑠奈、あんたら2人は付き合ってるの?」
百合姉さんの急な一言で僕はむせ返ってしまった。
「急に何を言っているんだよ!」
「だってさ。由真の家に転がり込んで一緒に暮らしだす。
お前らを見てるとなぜか普通の関係に見えないんだよ。」
「それは僕は助けてもらったしさ。
それに瑠奈は家が無いって言うしさ。
家は部屋が余ってるから大丈夫かなっておもってさ。」
百合姉さんはなぜか考え込んで、
「住む家が無いと聞いたときに、
家出娘かもしれないと考えなかったのか?
普通は警察に届けるのが筋ってもんだろ?」
百合姉さんの言うとおりだ。
しかしここで警察を呼ばれるのは絶対にまずいことになる。
「おまえらさ 本当のこと言ってくれないかな?
いえない事情と言うものがあるのは承知の上でだ。」
絶対に言うことの出来ない事情と言うものがある。
そもそもルナについては言えるところが一切無い。
いえるわけが無い。
どうするか考えているとルナが口を開いた。
「事情として言えることは出来ませんが、私は家出娘ではありません。
それと2日間は由真さんの看病をしていたというのは事実です。
そしてその後も由真さんは私のためにいろいろと助けてくれました。
そして由真さんは私に住む場所も与えてくださいました。
これは事実であり間違いはありません。」
百合姉さんはルナをじっと見つめ、ルナの言葉を聞いていた。
「でもね瑠奈さん、私は由真の母親の妹であり、
由真の両親が日本に居ない以上、保護者が由真の近くにいない以上、
私が両親に代わって由真をしっかりと見ていかなくてはいけないの。
私には由真の生活をしっかりと見守っていく義務があるの。わかるかな?
そこで女の子と同棲を許せるか。というのは無理があると思わない?
私は瑠奈さんのことはまったくといっていいほど知らない。
知らない人と由真を一緒に暮らすことに私は賛成は出来ない。」
ルナはすこし考えてこういった。
「それなら百合お姉さんも私のことが判ったら、
由真さんと一緒に暮らしてもいいと言うことですね。」
僕はなぜかいやな予感がした。
僕の知らないルナの能力が使われてしまうように感じたからだ。
「百合姉さんちょっとまって! ルナもちょっと落ち着こう。
百合姉さんもいきなり今日会った人を知ろうと言うのは絶対に無理だからさ。
こういうのはどうかな。
百合姉さんは時々僕の家を訪問する。
これは姉さんとしてだけでなく、
担任の先生として家庭訪問をする。
そうして時が経つことに百合姉さんもルナもお互いにお互いを、
ちゃんとわかる日が来ると思う。」
「しかし女の子との同棲生活というのはどうだ?」
「女子高校生の一人暮らしなら百合姉さんは安心するの?」
百合姉さんは上を向き目をつぶりながら真剣に考え込んでいた。
「わかった。由真の家に瑠奈が泊まることを認めよう。
しかし由真と瑠奈にしっかりと言っておく。
もしも問題を起こしたら、その場で瑠奈には悪いが、
由真の家を出て行ってもらう。」
「ありがとう 百合姉さん。」
ルナも喜んで言葉が出ないようで深々とお辞儀をした。
「住む家の件はひとまずそれでいいとして、学校の中途入学の件だが・・・」
もう一つの大問題があった。
「由真、高等学校への編入学について知ってるか?」
「高校の編入学なんてやったことないし、
今まで中途で来た人は居ないから知らないよ」
・高等学校への編入学について
高等学校への編入学は、異なる種類の学校や外国からの帰国者等が、
第1学年当初の入学時期以外の時期又は第2学年以上に
入学することを指します。
編入学は、校長が、相当年齢に達し、
当該学年に在学する者と同等以上の学力があると認めた場合に
可能となります。
また、単位制高等学校への編入学は、
校長が、相当年齢に達し、相当の学力があると認めた者について、
在学すべき期間を示して許可することとなります。
(文部科学省 初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)
「瑠奈さんは外国人じゃないな?」
(火星人だけどね・・・。)
ルナは僕の心を読んだらしくクスッと笑った。
「ルナの年齢は?」
「由真さんと同じです。16歳です。」
「生年月日は?」
「2003年2月2日です。」
僕は(え?)っておもってしまった。
「誕生日が由真と同じなのか?
何処までおまえらは似てるんだよ。」
そうだ 僕と同じ生年月日なのだ。
これもたぶん僕の記憶から取ったものだろうと予想した。
「いえ、本当に私の生年月日なんです。
私も由真さんと一緒だったので私自身もびっくりしています。」
「住民票は住民登録していないから、
今のところは持って来れないっと・・・。
瑠奈さんは戸籍謄本か抄本を
役所に行って来て貰ってきてくれる?
それとマイナンバーも確認したいから
マイナンバーを持ってきてくれるかな。
あとは私が校長と掛け合って、
入学テストを行ってもらうようにするから。
本当は中学校の卒業証明書なども
本当は欲しいところなんだけど、そこは私がなんとかする、
テストの日取りは私が由真に直接連絡する。
私に出来ることはそこまで。
テストに落ちても私は知らないからね!」
「ありがとう百合姉さん!本当に感謝するよ。」
「本当にありがとうございます!」
「住民票は後でいいから、
戸籍謄本か抄本とマイナンバーは早く持ってきて。
この学校では必須条件になってるから。」
一番の問題が増えてしまったような気がする。