第五話;由真
僕たちの出会いは本当に突然やってきた。
8月1日僕は火星大接近を見に行くために
哉太と一緒に、学校の裏山に上った。
火星がとても大きく見えてすごくきれいだった。
哉太が木星と土星が見えると言ってたかな。
僕には小さい光の粒にしか見えなかったんだけど、
哉太が興奮気味に話していたことは覚えている。
その時に目の前が真っ暗になってすごい頭痛がして・・・
そこから僕の記憶が無くなっている。
僕は自分の部屋で目覚めた。
そしてまったく身体が動けなくなって痛くて重たくって、
もうなにがなんだかわからなくなってしまって、
また寝てしまってお昼ごろに起きた。
やっと身体が動くようになり、
のどが乾いたので台所に行こうとしたら
台所には、すごくきれいな赤茶色の髪をした女の子がいた。
それが僕とルナの出会いだった。
ルナと僕が出逢っていろんな話をした。
火星からきただの、蘇生そせいして命をつなげただの、
記憶の改ざんの話もしたっけ。
でも僕がルナと出会ってからずっと、
僕はルナのそばを離れたことは無い。
一緒にご飯を食べたり、一緒に話をしたり、笑ったり、
なんか僕はルナにずっと質問ばかりしてたよな・・・
ルナが火星に戻れないのではないかということで、
ルナは、部屋にこもりっきりになっている。
だからご飯は僕がつくってルナの部屋に持っていく。
今日も朝ごはんを作った。
ルナの部屋の扉をコンコンとノックした。
「ルナ。 朝ごはん作ったよ。」
「うん ありがとう。
そこに置いておいてくれていいかな・・・ごめんね・・・」
ルナが今どういう感情なのか探ろうとしてるのだけど、
まったくルナの感情が入ってこなくなっていた。
(ルナと心がつながっているんじゃないのかよ! 何で判らないんだ!)
僕はとにかくルナの気持ちが知りたくってすごくイライラしていた。
僕は扉の前に朝ごはんを置き、
そして台所に行くために一階に下りていった。
僕は朝ごはんを済ませてお茶が飲みたくなってお湯を沸かした。
緑茶、紅茶はもちろんお茶系は僕はとても大好きな飲み物だった。
(今日は緑茶という気分じゃないかな、やっぱり紅茶にしよう)
紅茶のティーバックを取り出してカップにお湯を注いだ。
紅茶の赤茶色のきれいな色がカップの中に広がり
僕の心がなぜかものすごく騒がしくなった。
「ルナ!」
なぜかルナの心がシンクロしてきたような気がして、
急いでるなの部屋に行き、ルナの部屋の扉を叩いたが返事が無い。
「部屋に入るぞ!」とルナの部屋に入ったら、
びっくりした顔でこちらを見ているルナが居た。
「びっくりした! 一体、何があったの?」
ものすごく目を丸くしてこっちを見ているルナを見て
なぜか笑いたくなってきて、
でもルナが無事でほっとした気持ちで、
いろいろな感情が入り混じって入ってきて
僕はどういう反応をしていいのか、
まったく判らなくなっていた。
「ねぇ。本当にどうしたの?
由真の感情が
すごくわからない状態になってるよ?」
ルナに判るわけが無いよな。
僕自身もよくわからなくなってるんだから。
「あのさルナ、僕にはルナの感情がよくわからないんだよ。
心も同じって言っているのに
僕にはルナの心が読めなくなったんだよ。
ルナの辛さがぜんぜんわからないんだよ。」
「なるほど。
それで由真自身の焦りの感情や苛立ちとか、
自分ではどうしようも無い感情が
私の感情だと勘違いしてしまって
私のところに来てしまったというわけね・・・」
はぁ? これって全部、僕の感情?
ルナの感情じゃなくって?
「私は今、感情遮断しているから
外部に私の感情を出せるようにしてないもん。
だから絶対に私の感情じゃないよ」
(感情遮断???
そんなこと出来るって知らないし聞いたことがない。)
「それで感情の暴走が起きた原因ってなんなの?」
「感情の暴走って言うか紅茶を入れていたら、
すごく心が騒がしくなってルナのところにいったんだよ」
(紅茶・・・)
ルナはちょっと考え込んで急に台所に行き、
僕の作った紅茶を見始めた。
もう、時間が経ち過ぎて
すっかり濃くなってしまった紅茶を眺めていた。
「この紅茶を見て、何で私のこと思ったの?」
「ルナにも紅茶を入れてあげるよ。
そうすればなにかわかるかもしれないから。」
僕は新しいカップを取り、ティーバックを入れて、
熱いお湯を注いでルナに差し出した。
「だんだん紅茶の色が出てきただろ?
そうしたら急にルナのその赤茶色のきれいな髪が頭に浮かんでさ。
心が急に騒がしくなったから
ルナの感情が僕に流れてきたとおもって
急いでルナのところに行った、というわけだよ」
ルナはだまって僕の話を聞いていた。
「なるほどこの髪かぁ!」
ルナは何かを解決したような感じで、
ほっとしたような感じに見えた。
「その髪って地毛?
そのきれいな赤茶色って美容院でも出せないよね
脱色でもヘヤマニキュアでもやったらすぐにわかるから。
でもルナの髪って艶々で燃えるような
きれいな赤茶色だから地毛だよね?」
「うん、もちろん地毛だよ。
私もこの色はすごく気に入ってる。
でも紅茶から私のこの髪を連想すると言うのは、
ちょっと意外でびっくりしたけどね」
「ごめん。でもルナってずっと、部屋に閉じこもりっきりでさ。
すっごく心配だったんだよ。だからかな、
今、このようにルナと話してる僕は嬉しい気持ちになってる。」
ルナの顔がちょっと赤らんだような気がした。
「そういえばさ、今日学校に行って
先生に逢ってこないといけないんだ。」
「学校???」
「そう学校、昨日に哉太と話したときに
先生が心配してたらしくてさ。
学校を欠席した理由を話しておかないといけないんだよ。
あと要らないものを取りに行ってくる。」
成績表と大量に出ているであろう宿題の山だ。
「私も学校に行っていい?
学校というものを見に行ってみたいし
私のことは親戚の子とか言っておいて
風邪を引いたから、私が看病に由真の家に来た。
とでも言っておけばいいじゃん。」
ルナの興味が学校に向けられたような気がした。
(学校に行きたいとか言わないことを願っておこう。面倒なことになるから。)
僕の通っている高校は私立城北第一高校だ。
僕としては地元の公立高校のほうがよかったのだが、
(一度やってみたいと思っていたアーチェリー部が、
地元ではその公立高校しかなかったために公立高校に行きたかった。)
しかし親の勧めで私立高校に強制的に受験させられ、
合格して強制的に入学させられた。
公立高校も受験して合格したのだが、
親からの大反対があり公立高校を断念した。
なぜ僕の親がこの私立高校を
ここまで入らせたかったのは僕にもわからない。
部活動に力を入れているわけでもなく
強い部活はそんなに無いと思う。
校舎は新しく平成10年ころに開校したと言うことを聞いているので
特別な伝統がある高校ではない。
先生は意外と優秀な先生がそろっていて教え方が上手く、
名のある有名大学に入っていく先輩が多くいると聞く。
だから地元ではめずらしい進学校として、この学校に入る人が多い。
ただそれだけの普通の高校というだけのことだ。
僕は学校に連絡して担任と話しをして、
今日学校にいくと言う旨を伝えた。
セミの声がすごくうるさい田舎の道を
僕はルナと一緒に歩いていた。
ルナの赤茶色の髪がっ太陽の強い日差しに照らされて、
本当にまぶしいくらいに綺麗に輝きを放っていた。
ルナとこうやって昼間に歩くのって
僕には初めての経験でなんか照れくさい。
いつも一緒に歩いていたのは
夜で学校の裏山に行ったとき以来だ。
中学生の時には、
可愛い彼女を連れて一緒に歩きたいとか、
デートしたいとか
すごい楽しい甘い夢をもっていたんだけど、
実際に可愛い女の子と一緒に歩いていると、
なぜかとても恥ずかしくって
何を話したらいいのかわからなくなる。
ルナとは家の中ではなんでも話したりしてるのに、
外に出て一緒に歩くと
やっぱり違った感じがして恥ずかしくなってくる。
でも本当にルナと歩いていて、ルナを見ていて
言葉が出なくなってしまうくらい
綺麗で自然とルナを見てしまう。
ついルナを魅入ってしまう。
本当に魅力的な子なんだなって心から思った。
「ねえ、由真、学校の道ってこの道を通っていくんだったっけ?」
「学校の裏山によくいっただろ?
道はルナもよく知ってるんじゃなかったか?」
「裏山に行ったけどさ あの時は夜で人も居なかったし、
店も全部閉まっていたし、暗かったから。」
「昼間はいつもこのようにちょっとはにぎやかになるんだよ。
そうだ帰りにちょっと店とか寄っていこうか?」
「うん♪ 行きたい!」とルナは笑顔で答えてくれた。
さて、着いたぞ魔の学校・・・
僕は学校と言うものが苦手だ、病院より苦手だ、歯医者より嫌いだ。
でもルナの心がワクワクしているように感じるのは気のせいか?
学校の門を抜けると、校舎まで行く間にグラウンドがある。
夏休みだと言うのに陸上部、野球部、テニス部、サッカー部などの運動部が
一生懸命汗を流してそれぞれのグラウンドで練習をしている。
夏の甲子園大会は?と言う人も居るだろう。うちの高校は予選一回戦敗退だ。
夏のインターハイは? 全部一回戦敗退。
そういう華やかなものをここでは期待しないで欲しい。
学校に入ると夏休みだと言うのに文化部や、
運動部のほとんどは学校に来て練習をやっている。
吹奏楽部、軽音楽部の音が聞こえてきたり、
体育館ではバスケット部、バレー部などが練習をしている。
部活動は力を入れている学校ではないが、
部員が楽しむ部活作りと言うものを推奨している。
そういえばこの学校には他の学校には無い名物がある。図書室だ。
うちの高校は図書室がとても広く、
教室のように勉強する部屋や、
本を読むためだけの部屋。パソコンルームもある。
自分でパソコンを持ってきたり、
タブレットを持ってくるのも可能のため、
充電できる机が並んだ専用ルームも存在する。
普通の本の貸し出しもやっている
一人10冊まで最大15日間貸し出し可能だ。
それだけでなく学校には
独自の電子ブック貸し出しと言うものが存在する。
電子ブックは一人3冊まで最大15日経つと、
勝手に消去され返却されると言うシステムで、
かなり近代的な図書館で有名であり学校の生徒はもちろんのこと、
先生などの学校関係者だけでなく学校区内であれば、
誰でも利用可能な町図書館となっている。
ルナなら大喜びでその図書館で過ごせることが出来るだろうと思い、
ルナに図書館に行って待っているように伝えたが、
頑として「由真と一緒に職員室に行く!!!」と聞かない。
ルナが何で職員室に行きたがってるのかさっぱり判らないが、
しょうがないので一緒に連れて行くことにした。
職員室の前で深呼吸して職員室の扉をノックし扉を開けた。
そして「失礼します!皆藤百合先生との面会に来ました!」
びっくりしている人も居ると思うが、
これがこの学校の職員室に入る時のルールだ。
先生から職員室に呼び出されたら
職員室に行き、扉を3回ノック
そして何先生に何の用事で来たのかを職員室前で言うこと。
面会で来た。相談事があって来た。など、
用事によって言い方はさまざまだがこれがルールだ。
そして皆藤百合というのは僕の担任の先生だ。
面倒見がよく生徒から好かれている優しい先生という評判だが、
僕はこの百合先生の本性を知るただ一人の生徒なのかもしれないが、
ありえないくらい怖い先生なのだ。
だから今は内心ではビクビクしている。
と言うより実際に身体が震えている。
「お! 来たねサボり魔君! こっちにきて。」
ビクビクで僕は百合先生のところに近づいていった。
「8月2日と3日の無断での休み。
本当に申し訳ございませんでした!!!」
僕は先手必勝で百合先生に謝罪を言った。
「おぉ いい心がけだな 由真。先に詫びを入れてくるとはいい根性だ。
しかし気になることが一つあるのだが、後ろの子は誰だ?」
やっぱりルナのことに気が付いたか。
僕の真後ろにぴったりとくっついているんだから、
当たり前といえば当たり前だけど、
どのように説明すればいいんだかさっぱりわからない。
「私は由真さんの親戚でルナといいます。
この前に由真さんが高熱をだして、
両親は海外で来られないので
私が由真さんの看病をしたんです。」
ルナはなんの迷いも無く
百合先生に自己紹介もかねてそう言い放った。
が! しかし!!!
百合先生にそんなことが通じるはずは無い。
百合先生は実は僕の母親の実の妹だからである。
親戚じゃ無いと言うことはすぐにバレバレなのだ。
「由真! 火星を見に行って風邪を引いたと嘘をつき、
実はこの子といちゃついていたんじゃないだろうなぁ?」
「いちゃついていたと言うのは滅相めっそうも無いです・・・。
本当に身体中が痛くてまったく動くことが出来なかったんです。」
「それならなぜこうもバレバレな嘘を
この女の子につかせる必要があるんだよ?
由真、ちゃんと説明してもらおうじゃないか?」
(本当のことを言えるわけねぇだろ!
この子は火星人で俺は一度死んでいて、
蘇生されたって誰が信じるんだよ!)
「由真、私に言えねえことがあるって顔してるな。
いい根性してるじゃねえか? なぁ由真!」
百合先生の顔を見て目で回りを見ようジェスチャーをした後で、
「ちゃんと話しますから、ここは一回落ち着きませんか? 百合先生。」
さすがの百合先生も周りの先生方の反応を気が付いたようで、
一度、深呼吸をして落ち着いてくれた。
しかしルナのことを
どのように伝えたらいいのかぜんぜんわからない。
親戚という嘘は絶対に無理。
百合先生は僕の母の実の妹なので
親戚連中は全員知っているのである。
友達、友人?
2日間も女の子友達に僕の看病をさせたと言うほうが問題だ。
いろいろと考えてもルナと僕との関係を伝えることが出来ないのである。
「由真、そしてそこの女の子もこっちに来なさい。」
百合先生は職員室の横にある部屋に案内した。
この部屋は主に生徒が先生に相談を持ちかけるときに使う相談室だ。
進路相談や友人関係のことやさまざまな問題をこの部屋で先生に相談する。
担任だけでなく、時には進路指導の先生、保健の先生、カウンセラー、
事件事故があったときには警察も入ることがあると聞いている。
多目的相談ルームといったかんじの部屋で完全防音、
長時間の相談に対応できるよう完全室温管理。
しかも精神医学に基づくよう角の無い楕円形の机や、
長時間座っても身体の負担が無い様に、
人間工学に基づくエルゴデザインの座りやすい椅子などが備わっている。
百合先生がこの部屋に案内したと言うことは・・・
(やばい!!! マジでやばい!!!)
「おい!リナ マジでやばいぞ!
火星人だと言うことは絶対に言うなよ!」
「うーん・・・あのさ、担任が由真の関係者だって事は先に行ってよ!」
「はいそこ! ふたりでこそこそと話しているんじゃない!!!」
僕たちはすぐにおしゃべりをやめて目の前の椅子に並んで座った。
「まず2日間、由真は何をしていたのか。
それとその女の子は誰なのか。
そこからちゃんと説明してもらおうか?」
僕は2日間は本当に身体が動かなくて休んだことを伝えた、
熱が出たと言う嘘とともに。
ルナのことはどう説明したらいいのか本当にわからなかったが、
僕が帰るときに気分が悪くなって助けてくれた僕の恩人で
ずっとそれから僕の看病してくれていた。と言うことを話した。
(一部、事実との多少のズレがあるんだけど、一応は間違ってない。
うん、許容範囲の中でのズレということで、事実と間違ってない。)
百合先生はそこで考えルナに質問した。
「君の名前 なんだっけ?」
「ルナって言います。」
「苗字は?」
やばい! ルナの苗字ってなんだ?
っていうかルナに苗字ってあるのか?
「私の名前は、村山瑠奈、
浄瑠璃のルに奈良のナです。」
僕はびっくりしてルナの顔を見てしまった。
ルナのやつ、いつ考えたんだ?そういうこと・・・。
「村山? 由真と同じ苗字だが、
由真の家の近くに村山の苗字は他には無いぞ?
どこに住んでいるんだ?」
「私は遠くの地からこちらに引越しして来ているので、
由真さんの近所に私の家は無いです。
今は由真さんの家にお世話になっています。」
「へぇ・・・由真の家にねぇ・・・」
後でいろいろと説明してもらおうか?
という百合先生の無言の圧力を感じながら聞いていた。
「村山瑠奈さんだっけ。あんた学校は何処なの?」
「ぜひ由真さんと同じこの学校で学ばせていただきたいと思っています。」
(はぁ? そんな話まったく聞いてないぞ!?)
「ちょっとまてルナ おまえ何を考えてるんだよ?」
ルナは僕の顔を見て、
(ちょっと黙ってて!)って言われたような気がした。
「前の学校は何処の学校? ここはそんなに甘くないよ?」
「ですからこうして百合先生に直接、頼んでいるんですよ。」
こいつらいったい何を言っているんだよ。
ルナも百合先生もなんか不思議な感じがしていた。
まるで心の中をお互いに覗きあって話をしているかのようだった。