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ある星のうた  作者: 福田有希
第一部;出会い
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第四話;哉太

 ルナとの生活に僕はすごく慣れてきたように思う。

 僕はすごく人見知りなのに、

 ルナは他人と言う感じがまったく無いからだ。

 これが異体同心と言うものなのかは置いといて。


 僕はずっと考えていたことがある。

 火星を見に行った日のことである。

 自分以外に他に一緒にいた人がいたように思えてならないのだ。

 僕が一人で裏山なんかに行くわけが無い。

 誰かを誘って、あの場所に連れて行ってもらったに違いない。

 僕はそう思わざる終えないのであった。


 うすうす感じてはいたが、

 その考えが現実を帯びてきたのは、

 自分の持っているバッグを開けたときだ。

 僕はどこに行くにもバッグを背負っている。

 そしてそのバッグは自分にすごくなじんでいて、

 お気に入りのバッグなのだ。

 だから絶対にいつも背負っている。


 あの火星を見に行った日も

 絶対に背負っていったはずだ。

 自分自身がバラバラ状態になっていたのに、

 バッグが無傷だったのがとても腑に落ちないのだが、

 でもそのバッグをあけて中を見た瞬間に気が付いた。


 僕が持っていくはずの無い、

 虫除けスプレーと虫刺されの薬が入っていた。

(これは一体誰のなんだ?)

 何度考えても思い出せないのだ。

 学校のクラスメート?

 基本、僕には友達が少ない。

 だからすぐに見つかりそうなものなのだが、

 まったく記憶に無いのだ。

(星に詳しいやつっていたかな?)

 そこで一人、星や星座に詳しいやつをおもいだした。


 天文学部の岡田 哉太(かなた)

 クラスで星や星座に詳しいだけでなく、

 神話にもとても詳しく、

 図書室の天文学や神話の書籍を

 すべて読破してしまったというツワモノだ。

 しかし、僕とそんなに仲がいいと言うわけではなく、

 同じクラスメートだと言うくらいだ。


 僕は火星から飛んできたルナとぶつかって、

 ルナが生き返らせてくれた。

 その時、近くに居たやつはどうなったのだろうか?

 それがすごく気がかりだった。

 もし、僕の近くに居たのが哉太だったとしたら、

 今、哉太はどうしているのだろうか?すごく心配になっていた。


「哉太のとこに電話しよう。

 違っていたら違っていたでそれでもいいし。」

 スマホに哉太の番号があるのを見つけ、哉太に連絡してみた。


『はい もしもし。』

『あ!哉太、由真だけど今いいか?』

『由真、お前さずっと学校休んでただろ。先生が怒ってたぞ。』

『マジで!!!』

『月曜日にでも学校に顔出せよ。俺らは夏休みでいねえけどさ。』

『わかった。先生のところに行って来るよ。ありがとな。』

 なんか哉太が普通の応対をしている。

 あの日、僕の身になにかあればそれを言うはずだ。

『あのさ。哉太に聞きたいことあるんだけどさ。』

『なんだよ、急にかしこまりやがってさ。いやな話ならパス!』


『僕さ、哉太と火星を見に行ったよな?』


『8月1日だっけ、由真と一緒に裏山に行ったよ。

 あの日はすごかったな!木星も土星も観れた。』


 やっぱり一緒に行ったんだ。間違ってなかった。

『そのとき僕さ、急に頭が痛くなったんだけど覚えてるか?』

 哉太は急に黙り込んでしまった。

 考えてるのか。思い出してるのか?

『はぁ?そんなことあったか?

 普通に見て一時間くらいして一緒に帰ったぞ!』


 どういうことだ? 一緒に居た哉太と僕の記憶が食い違っている!


『それで次の日には学校を2日も休んでさ。

 百合先生が連絡が無いって怒り出しててよ。

 火星を見に行ったから風邪を引いたんだよって、

 俺が先生に言っておいたんだよ。』


 一体どういうことだ?

 僕は確かに目の前が暗くなって

 頭がひどく痛くなって記憶が消えた。

 それは間違いない。

 でも哉太は一時間後に一緒に帰ったことになっている。


『哉太はあの日以来、身体の調子はどうだ?』

『全然問題なかったぞ?

 風邪もひいてないし絶好調だ。』

『そうか、僕さ、あれから関節が痛くて

 身体が重くて動けなかったんだ。』

『やっぱり風邪をひいてたのかよ!!!』

『もう治ったから今は大丈夫。

 ありがとうな、先生に言ってくれてさ。』


 哉太にお礼を言って通話を切った。

 なぜ哉太の記憶がおかしくなってるんだ?

 僕はルナのいる部屋に向かった。

「おーい ルナ、いるか?」ルナの部屋の扉を叩いた。


「由真?居るよ」 「入ってもいいか?」

 中からルナが扉を開けた。

「由真どうしたの?なんか心がすごく乱れてるんだけど大丈夫?」

「あのさルナ、僕がルナとぶつかった時に近くに人が居なかったか?」

 ルナは普通に「いたよ。」と返事をしてくれた。

「そいつ同じクラスメートなんだけど、

 電話したら一時間後に一緒に帰ったって言うんだよ」

 ルナはちょっと考えてこういった。

「記憶の改ざんといったら判りやすい?」

「つまり哉太の記憶を事実と違った記憶に摩り替えたと・・・。」


「それはそうでしょ?

 由真の身体は跡形も無い状態だったんだよ?

 その惨劇をあの人に記憶させ続けさせるの?」


 たしかにそうだった。

 僕の身体はバラバラ状態になっていた。

 そんな状態を記憶していたら、

 僕だったら気がおかしくなってしまう。

 記憶が消せれるなら、

 まず一番最初に消したい記憶になるに違いない。


「記憶は完全に消えるものなのかな?

 何かの拍子に思いだすと言うことは?」


「人は楽しい記憶ならずっと覚えているものだよ。

 消したい記憶は覚えたくないと拒否反応をおこすものだよ。」


 でも人には消したい記憶と言うものは沢山ある。

 辛い記憶はいつまででも残る。

 特に大切な人を亡くした記憶はその人を美化してしまい,

 記憶からは絶対に消えない。


 僕にも大切な人をなくした経験がある。

 高校に入学してすぐに交通事故にあって亡くなった友人が居る。

 幼稚園の時からの友人でとても大切な友人だった。

 今でもその友人のことを思いだすことがある。

 人には絶対に消せない記憶と言うものが存在するのだ。


「でもそう言う記憶っていうのは

 自分で消したくないと言う拒否反応があるからだよ。

 大切な友人とか、恋人とか、

 自分がその人のことを思い出さなくなったら、

 その人は完全にいなくなっちゃうよ。


 それって辛い出来事でも由真にとっては大切な人だったんでしょ?

 そう言う人の記憶は消えることが無く、

 その人の心の中でずっと生き続けるの。

 だから、由真の友人は由真の心の中で生きているんだから、

 その記憶は大切にしていくべきものなんだよ。」


「それならさ哉太のなかで僕の惨劇を見てしまったら、

 強烈過ぎて記憶の奥に入っていかないの?」


「状況が状況だからだよ。

 あの人はあの場所で放心状態になっていた。

 もう現実がわからなくなっているくらいになっていたんだよ。

 あのままではあの人は人として生きることが

 できていなかったように思う。

 だから完全に記憶を消去して、

 由真と無事に楽しい時間の記憶を与えた。

 由真と一時間も星のこと楽しく語りあった記憶に変えた。」


 それってどうなんだ? 

 たしかにひどい惨劇をみて精神が壊れてしまったとしよう。


 そこに新しく嘘の記憶を与えるというのは倫理的に問題が無いのか?

 でも記憶を消して楽しい思い出を植えつけてあげれば、

 精神崩壊することなく今を生き続けることが出来る。 

 そう考えたら問題が無いどころかいいことだと思う。


 今回の哉太の件は人助けとしてはいいと思う。

 ルナの機転に感謝すべきだ。

 僕のクラスメートを助けてくれたと言っても過言ではない。

 でも人には辛い過去の記憶がいっぱいある。

 これから生きていくためにはもっともっと辛いことが沢山起きるはずだ。

 その辛いことを消して楽しいことに、

 記憶を改ざんしていっていいものだろうか?


 記憶の改ざんのボーダーラインと言うものはどこにあるのだろうか?

 僕はそれがすごくわからなくなってきた。


 記憶のボーダーラインというものは、そもそも存在するのだろうか? 

 存在していいのだろうか?


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