第二部第十五話;施設
この回で田辺美里の家庭事情が明らかになっていきます。
由真の感情がわかってくれたら幸いです。
「百合先生!」 僕が手を上げた。
「由真 発言を許可する。」「ありがとうございます。」
「百合先生に依頼された重要な件のことで、
放課後、面談室にてお話したいと思っているのですがよろしいでしょうか?」
百合先生は僕の顔を見た。そして少しの間考えていた。
「どうしても面談室でなければいけないか?」
「できればそのほうがいいと思います。」
百合先生が目を瞑って考えていた。
「わかった。由真 面談室で話し合うことにしよう。」先生の許可をもらった。
ルナは何の話かわかった様子で、
僕をみて(ありがとう。)と言っているようだった。
「明日の議題はもう時間なので明日に決めることにする。
以上でHRを終了する」
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放課後、僕は面談室に行った。
面談室では百合先生が待っていた。
「由真、私はお前に何も頼みごとはしていないぞ。」
「そう言ってくれないと百合姉さんが気が付いてくれないと思ってね。」
「また、なにかやってるのか?」と言いながら椅子に腰掛けた。
僕も向かい合わせになる感じで椅子に腰掛けた。
「百合姉さん、北区にはいくつの養護施設がある?」
「大小合わせて5つくらいあると思うが、それがどうした?」
「養護施設に小さいときに捨てられた子の施設を探したいんだ。」
百合姉さんは黙って小さくため息をついた。
「田辺美里。」
「さすが百合姉さん。絶対にわかると思っていたよ。」
僕はそう確信していた。
「施設に行っても美里のことは絶対にわからないぞ。」
「それは一体どうして?」
「去年の火事で書類もろとも焼失している。」
「焼失?一体どういう火事だったの?」
「警察は放火事件として調べているようだが、犯人は不明。」
「それなら学校が掴んでいる田辺について教えてくれない?」
「学校の情報は一切答えることはできない。」
百合姉さんは頑なに学校側の情報には答えそうになかった。
「それなら田辺美里を、
本気で助けるという条件の下でなら言うことは可能?」
「そういうことならまず、
お前達が掴んでいる情報とやらを聞かせてもらおうか?」
僕はすべてを言ってしまおうと思った。
もちろんそれを言うことで、
ルナと有香が家宅侵入罪に問われるかもしれない。
しかし、全部を言ってしまわないと
田辺美里を助けることができないからだ。
「まず、彼女にはプライベートというものが全く無く、
自分の部屋が与えられていない。
そして二階の廊下で布団を敷いて寝泊りをしている。
本棚もなく、タンス一個すら与えられてはいなくて、
教科書や参考書、ノートは二階の床に重なって平積みで置かれている。
それだけでなく床には洋服、下着類が畳まれて置かれている。
女の子なのに下着がそのまま畳んで床に置かれているんだよ。
着替えるのにもリビングで着替えていると思う。
洗濯物は家族に洗ってもらうことはなく、
田辺専用の洗濯籠が置かれており、自分で洗濯をしている。
それだけでなく家族旅行にも連れて行ってもらえず、
家の中には家族写真にすら田辺美里の映っている写真が一つもない。」
「それで由真はどう考えている。」
「施設から養父母として小学校三年生の終わりごろ連れられ、
最初は可愛がられ育てられた。
しかしその夫婦に待望の赤ちゃんができ男の子が生まれた。
今まで子供ができなかった両親だったので施設から子供を預かったのに、
子供ができたら、それも男の子が生まれたら。
田辺美里は必要のない子ということになってしまった。
僕は田辺は高校卒業まで育てられると思うけど、
家から追い出されると思う。」
「しかし、そういう証拠がもし本当にあったとしよう。
しかし、里親でも親だ。どうしたい?」
「僕は田辺美里を助けたいと持っている。
今の田辺の待遇は最悪と言っていいものだ。
確かに子供には親が必要だ。それはわかっている。
しかしそういうことがいえるのは子供にしっかりと愛情を注ぎ、
子供をしっかりと守って、助けるということが必要だと思う。
でも、田辺の待遇は一種の犯罪行為だ。
たしかに暴力が振舞われてはいない。性的被害も起きてはいない。
しかし田辺が受けている暴力は、「心理的暴力」とおもう。
兄弟間の極度な差別的扱い、親は一切かまうことなく無視しつづけ、
親がいても居ないのと同じで、1人であの家に生活をしているのと同じだ。
田辺美里の存在自体を根本から否定されているとおもう。
もう高校生だからと言っても、親の愛情と言うものは絶対に必要だと思う。
自分で食事を作り一人で食べ、洗濯物も1人だけ分けられて、
自分のものを自分で洗濯をして、
そして田辺は1人で食べることが当たり前になってしまっている。
友人との食事さえ躊躇してしまうくらいに1人でいる。
親の愛情と言うものを一切受けずに育てられていて、
それで里親と言えると言うのか。僕はそうは思わない。
一人ぼっちのボッチじゃないんだよ。田辺は。
クラス全員から本当に慕われている、
そしてみんなから愛されていて友人も多い。
しかし、両親の愛情を受けていないんだよ。」
「それなら児童相談所にでも相談すればいい。
そうすれば調査でも入るであろうし、
養育上に問題があればその家から出ることができるであろう。」
「そして田辺を児童養護施設にでも入れる気なのかよ?」
「少なくとも18歳まではそこで暮らすことができるであろう。」
(もう僕には言うことができないのか。
田辺のためにできることは何もないのかな。)
僕はそう考えていた。
児童相談所に言っても親はうまくごまかすに決まっている。
そう考えていたからだ。
「明日、放課後に田辺の家に行く。お前も付いて来い。」
百合姉さんがいきなりそういった。
「田辺の家に行く? どうして行くの?」
「学校で生徒を1人1人調査をしていると言ったであろう。
私にも思うところがあってな。
家庭訪問という名目で行くことになっている。」
「僕も連れて行ってもらっていいの。」
「お前にも聞いて欲しいと思うことがあるのでな。」
次の日、学校が終わり、百合姉さんが車で田辺美里の家に向かった。
学校から本当にとても遠い場所に住んでいた。
ここから田辺美里は通っていたのかと思うと僕も辛くなってきた。
「ここが田辺美里の家だ。」
ごく普通の一軒家だった。
そしてたぶん愛想のいい両親が来て話をすることになるだろう。
僕は車を降りて百合先生と一緒に田辺の家の前に行った。
呼び鈴を鳴らし家の人が出てきた。母親だ。
「こんなに遅くに家庭訪問の時間になってしまって、
本当に申し訳ございません。」
百合先生がすごく愛想よく挨拶をした。
「こっちの子は私の姉の子で姉に急に面倒を頼まれてしまって、
仕方がないので連れてきてしまったんです。」
「いいですよ。どうぞ中に入ってください。」
スリッパを出され居間に案内された。
僕は部屋を見渡すとルナと有香が言っていたハンガー類が全くなかった。
しっかりと片付けられて、仕舞われているらしかった。
この調子なら二階も全部どこかの部屋に仕舞われてしまっているなと思った。
「どうぞ。腰掛けてください。」
居間にいた父親にそういわれて僕は椅子に腰掛けた。
「どうもありがとうございます。」といって百合姉さんも腰掛けた。
「あの、ところで美里さんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「美里は友達とテスト勉強をしたいといって、
お友達の家のお泊りに行っているのですよ。
このように学校から遠いので、朝早くに出て、
帰りには夜遅くになってしまうので。」
「そうですか。お友達とテスト勉強でお泊りに行っているんですか・・・。」
百合姉さんはチラッとこっちを見た。
僕は黙って百合姉さんのほうを向いて軽くうなずいた。
「弟さんはいらっしゃったと思うのですが?」
「もうこの時間なのでもう寝ちゃっていると思います。
遊びつかれてしまったのでしょう。」
「そうですか。それでしたら問題ありませんね。」
百合姉さんが変わったような気がした。
「今日の訪問は田辺美里の家庭内の待遇について
お聞きしたいと思っていたのです。」
両親の顔が少し変わったような気がした。
「田辺美里さんのお部屋は何処にあるのですか?」
「二階にあります。」
「拝見させていただきます。学校の許可もしっかりと取ってあります。
もちろん警察や児童相談所にも許可を頂いております。」
そう言って急に百合姉さんが立ち上がり、二階に向かっていった。
二階に上がってみると廊下に荷物や衣服は何もなかった。
そして百合姉さんは奥の部屋の扉を開けた。
奥の部屋は倉庫になっていると聞いている、
もちろんそのまま倉庫になっていたが、
ただ違っているところは本や衣服や制服などが入っていた。
「この部屋はどういう部屋ですか?」百合姉さんが強く言った。
「そこは美里も部屋です。」と母親が言った。
「これの何処が美里さんの部屋と言い切るのですか?
どこで勉強をしてるのですか?何処で寝てるのですか?」
両親はがっくりとうなだれた。
「ここは倉庫です。美里はここの廊下で寝ています。」両親は白状した。
「勉強は何処でしてるんですか?」百合姉さんはさらに詰め寄った。
「ここの廊下が美里の居場所です。ここですべて何もかもやっています。」
「それは美里さんの意思によるものですか?
それともあなた方がそうさせたのですか?」
「これは私たちがそのようにさせました。」
「その理由を聞かせてくれませんか?」
「実はあの子は施設から連れてきた娘です。
そしてここで育てることにしました。」
「その施設は昨年の11月に焼失していますね。」
「はい北区のすごく小さな施設でした。
私たちはなかなか子供に恵まれませんでした。
そして里親になって子供を育てようと考えたのです。」
母親がその当時を思い出して言った。
「しかし、私たちは里親にはなることができませんでした。」父親が言った。
「え?でも田辺は養父母に育てられてるって、
里親に育てられてるって言ってた。」
僕は驚いてつい口をだしてしまった。
「この人たちは里親制度で、里親の条件を満たしていない。
里親になれないんだ。
つまり正式な手続きをしていなくて里親ということにして
田辺美里を育てていたんだ。」
百合姉さんが真実を告げた。
「それってどういうことだよ・・・一体どういうことなんだよ!」
僕は立ち上がり、この両親に本気で聞きだしたかった。
「由真、落ち着け。」百合先生に言われ、僕はおとなしくした。
百合姉さんは昔話のように言い始めた。
「昔、北区で小さい児童養護施設がありました。
本当に小さい施設で予算の削減の影響もあって、
施設もギリギリでやっている状態でした。
しかしなんとか子供のために。と、
一生懸命になってやってる施設でした。
そこに1人の小さい女の子が、
施設の前に捨てられていました。
施設の人はその女の子を育てることに決め、
女の子は元気にすくすく育っていきました。
しかしそこで施設に事件が発生しました。
その女の子がどこにもいなくなってしまったのです。
地元警察も施設職員も北区全体を一生懸命に探しましたが
見つけることができませんでした。」
両親は一気に泣き崩れてしまい、
床に崩れるように座り込んでしまった。
「それって・・・まさか・・・うそだろ・・・?」
僕は信じることができなかった。
百合姉さんはそのまま話を続けた。
「いくら捜索しても見つからず、
女の子は行方不明者として処理されてしまいました。
その女の子は親が亡くなったと聞かされ、
とある両親のところの子供として育てられました。
その女の子が大きくなると、両親に待望の赤ちゃんができました。
男の子の赤ちゃんです。女の子には弟ができたのでした。
そしてその男の子は自分達の本当の子なので、
とてもとっても大切に育てられました。」
「それでその続きは・・・?
お前らは田辺をどうするつもりだったんだよ!言えよ!」
僕は怒りに震えていた。
(子供を誘拐しておいて、
自分達は男の子が生まれたから大切に育ててるだと!
そんなの許されるのかよ!)
「私たちは美里を娘として育てることを辞めたのです。」
田辺の両親は簡単にそう言い切った。
「子供は・・・子供は・・・お前ら大人のお人形じゃねえんだよ!」
もうだめだ、もうここにいたら本当に気が狂いそうだった。
僕は逃げ出したくなった、
百合はすぐに由真を抱きしめた。
「でもこれが事実なんだよ。由真。」
僕は田辺をおもい浮かべて思いっきり泣いた。
百合姉さんの腕の中で思い切り泣いた。
「すべての家庭が全く問題なく生きていると言う世の中は無いんだ。
金持ちとか貧乏とかそういう問題じゃないんだ。
しかし誘拐は犯罪だ。とても重い罪だ。
でもそこまで追い詰められているこの人たちのような人も、
この世の中にはたくさん居るんだ。
子供欲しさに簡単に犯罪を犯してしまうのか、
犯罪を犯さずに一生懸命に我慢し生活するか。
この人たちも犯罪を犯さずに居れば、
いつかは男の子がしっかりと生まれて幸せな家庭を築けたのにな。」
その後、児童相談所の人が来て男の子を連れて行った。
そして、警察が来て田辺の両親は逮捕されて行った。
僕の前を父親が通り過ぎていくときに僕は言った。
「美里の事はどうするつもりだよ。」
父親ははっきりと答えた。
「美里は私達の子供ではありません。」
そういって連行されていった。
(だめだ。もう本当に気が狂いそうになる・・・。
すっごいむかつく!本当にむかつく!)
僕は泣いた。
怒りを何処にもぶつけることのできないこの状況に、
本当に僕はどうしていいのかわからなかった。
帰りの車の中で僕は百合姉さんに聞いた。
「田辺美里はこれからどうなるんだよ。」
「たぶん施設に送られるようになると思う。」
僕は言いようも無い位の怒りの感情が
心のそこから次々と溢れてきそうだった。
「田辺美里のことは私に任せて欲しい。
大丈夫だ、特別な良い施設を知っている。」
「でも結局は施設じゃねえかよ。」
こんな最悪の結果になって僕は、ルナや有香になんて言えばいいんだよ。
僕は本当に最悪の気分だった。
僕と百合姉さんは家に帰った。
「お帰りなさい 由真。」有香が僕の顔を見て何かを感じた。
「お帰りなさい 百合お姉ちゃん。由真お兄ちゃん。やっと終わったんだね。」
ルナがそういった。
僕はルナの顔を見てうなずいた。
「百合先生!由真君!ちゃんと説明してくれる?どういうこと!」
田辺が怒りをぶつけるように言った。
「田辺 落ち着け! それを今から何が起きたのかを話す。
かなり辛いことだ。本当につらいことだが田辺、
お前はちゃんと聞かなくてはいけない。」
「何があったのかはっきりと言って下さい。大丈夫です。百合先生!」
田辺はと言った。
「由真、お前はもう休んでいいぞ。本当に良く頑張った。」
百合先生は僕にそういった。
僕はもう辛くて聞く気にもならなかったので、
自分の部屋に行った。
「百合お姉ちゃん。私はお兄ちゃんに付いています。
有香ちゃんは聞いていていいから私に任せて。」
「わかった瑠奈、お前は由真に付いていってやれ、
あと食事や飲み物も持っていってやってくれ。」
「はい、百合お姉ちゃんわかりました。」
そう言って由真と瑠奈は二階へ上がって行った。
僕はルナに抱きかかえられるように自分の部屋に入った。
そして僕はベッドに横になった。
「ルナ、本当にこれでよかったと思うか?」
「良いか悪いのかと言う質問だとしたら最悪の結果だと思う。」
「ルナ、僕達のした事って一体なんだったんだろうな・・・。」
「由真、私たちは田辺さんを助けた。偽りの家族から守ってあげた。」
「でも、結果がこれじゃ意味がないじゃねえかよ。」
「大丈夫だよ由真お兄ちゃん、
田辺さんは本当に暖かい家庭の家に行くんだから。」
これからの先を見ているような感じだった。
「本当に田辺はちゃんとした家庭のもとに行って、
幸せに暮らせれるんだろうな・・・?」
そうなって欲しいと思った。心からそう願った。
そうなってくれないと本当に僕は辛かった。
「由真お兄ちゃん、今日は本当にありがとう。」
ルナはそう言ってくれて僕を抱きしめた。
僕はどうしようもなく涙が止まらなかった。
ルナに抱かれて僕はルナの腕の中で泣いていた。




