第二話;ルナ
朝の目覚めが悪く、体が凄く重たかった。
体が悲鳴を上げているように、
関節が凄く痛くて動く事も出来ない。
「熱でもでたのか?」
体温計を持ってくるために一度起き上がった。
しかし体の重さに耐えることが出来ず、
すぐに倒れこんでしまった。
「今日は学校を休まないといけないな。」
そう思いスマホを探した。
しっかりと充電器に差し込まれて充電されていた。
スマホを手にとり時刻を見たら朝の6時半。
いつもなら起きて食事をしている時間だが、
今日は起きることさえできない。
(まだ電話をするには早いな、
学校が始まるころになったら電話するか。)
そう思いスマホをまた充電器に戻そうと思った瞬間、
スマホ画面に表示されている日付が一瞬目に入り、そして固まった。
(何かおかしい、どういうことだ?)
スマホの日付が8月4日(土)となっていたのだ。
「7月31日が火星大接近の日、
8月1日に僕が火星を見に行った日だろ?
それで今日が8月4日? どうしてなんだ?」
2日と3日の記憶がない。
1日に火星を見に行った時から、
まったく記憶が無くなっているのだ。
あの時何があったのかまったく覚えていない。
火星を見たという記憶だけが頭の中にはある。
でもそこからの記憶がまったく消えうせているのだ。
「あのとき誰かと一緒に見に行ったような気がする。」
もうそれすらも覚えていない。
記憶が僕にはすっぽりと無くなっているのだ。
(記憶喪失?もしかしてあのときに何かが起きて、
記憶喪失になったのか?)
自分が記憶喪失になったと言う思いが強くなって、
とても恐怖を感じた。
「僕の名前は村山由真、
血液型A型、私立城北第一高校1年D組。
親は海外に出張中のため、
今、僕は一人暮らしをしている。」
自分の記憶は問題がないようだ。
ただ火星を見に行った時の途中からの記憶と、
昨日までの記憶が無くなっている。
なにがあったんだ?
それにその2日間の記憶だけ、
消えてしまうことって起きるものなのか?
それにこの体の重さは一体なんだろう?
関節が非常に痛い。まったく動けないのだ。
今日は土曜日で学校が休みだ、部活動もない。
今日一日寝ていよう、それからいろいろと考えていこう。
今の体の状態ではどうすることもできないからだ。
とにかく寝よう、寝るんだ!
パニックになりそうな自分を諌めるように、
僕は自分に言い聞かせることにして、
今日は体を休めることに専念するために寝ることにした。
お昼過ぎに目覚め、朝よりだいぶ体調が戻ってきた僕は起き上がり、
まず熱を測った。
「36度5分・・・問題は無いな。朝は一体なんだったんだろう?」
考えても仕方がないがまだ少し重たい体を無理やりに起こした。
凄くのどが乾いているので飲み物を取りに行こうとおもった。
(今のこの体調で階段を下りるのは、さすがにきついな・・・)
部屋のドアをしめ階段を下りようとしたら一階で何か物音がする。
(おかしいな、親が帰ってきたのか?
帰ってくるのは来年って聞いていたんだけど?)
物音のする方向に歩いていくと台所で物音がする・・・。
台所の扉をそっと開けると見知らぬ女性が料理をしている。
(えっと・・・この人はだれだ?)
まったく見知らぬ女性が台所にたっている。
自分と同じ高校生くらいで背は僕よりちょっと低め、
赤茶色のロングの髪が凄くまぶしい。
つい魅入ってしまう可愛い感じの女性だ。
(誰だ?いとこ?こんな子いたっけ?あれ?)
頭の中がパニックに陥りそうになりながら僕は考えた。
まったく知らない子に違いないと判るまで時間を要した。
そして僕はドアを開けて「誰だ!!!」と叫んでいた。
その女の子はびっくりする様子も無くなにもなかったかのように、
「あ! 由真さん 起きたんですね よかった!」
僕は彼女の普通の返事に拍子抜けしてしまい、
「えっと・・・すいません、どちらさまで?」と言ってしまった。
「先日は本当に失礼しました。私の名前はルナといいます。」
(先日ってなにかあったか?というより先日っていつのことだ?)
「いえ、あのえっと実はちょっと何が起きたのか自分でもわかってないんです。
先日ってなにかありましたか?」
ルナと名乗る女の子はちょっと首をかしげこういった。
「私も地球大接近に心を奪われて、
地球を見ていたら急に移動しちゃいまして・・・」
(地球大接近??? 火星大接近じゃなかったっけ??? はぁ???)
この子 なにいってるんだ? 移動した? どういう意味だ?
頭の中がわけが判らなくなっていた。
「もっと詳しく話してくれないかな? 本当に意味がわからないんだけど?」
ルナはさらに首をかしげて言った。
「えっと地球が火星に大接近した日、
地球を見たくて外にでて地球観察していたんです。」
「はい! そこでストップ!!! 地球観察ってなに?」
「地球を見ることですけど?」
「火星大接近で火星を見ることでいいよね?」
「地球からみたらそうなりますね♪」 ルナは笑いながらそういった。
(地球からみたらってなに?)
「えっと・・・ここは地球の僕の家の台所で話していると言うことでOK?」
「はい! ここは地球であなたの家の台所ですね。」
「えっと・・・私は火星に住んでいて、地球大接近を楽しく見ていたら、
そのままなぜか地球に飛んできてしまって、
あなたとぶつかってしまったんです」
火星に住んでいた? 飛んできた? 僕とぶつかった?
あの時、確かにすごく頭が痛くなってそこから記憶が無くなっていた。
その原因がこの子が飛んできて僕とぶつかったって事?
「あの時は本当にびっくりしましたよ。私も何が起きたのかわからなくて、
急に地球が凄い速さで大きくなってきて、私はびっくりしてしまって、
気が付いたら地球にいるんですもの。」
なんか凄いことを言い始めていることに、
僕はなんていっていいのかわからなくなっていた。
「由真さん、お体のほうはどうですか?
起きたら体がばらばらになっているんですもん。凄くびっくりして。
修復作業に時間がかかってしまってごめんなさい・・・。」
修復作業?! ばらばらになっていた? 僕の体が?
「ちょっと待って!!! 君の言ってる事をまとめてみると、
君は火星人で地球に来たときに僕とぶつかり、
僕はその衝撃でバラバラになってしまったので、
君が僕の体を元に戻したってこと?」
「はい。そう言いましたけど・・・修復に2日もかかってしまいました。
本当にごめんなさい!!!」
この体の重さも、2日の空白の理由がわかったような気がした。
この子の言うことがすべて正しいとするならば。という条件付で。
「ルナちゃんだっけ? 体の修復って火星人の特技なの?」
「特技と言うわけではないですよ。体をつなぎ合わせただけですから。」
「その話が本当だとするのであるなら、
僕は一回死んだことになるんだけど、
生き返らせれることって出来るって事なの?」
「あ! そういうことですか!
それは生のつなぎあわせをやったんですよ。」
また意味の判らないことを言い始めた。
「生のつなぎ合わせってなに?」
「普通は生きている人の生命を移し変えるんですけど、
そうすると移し変えられたほうの一つの生命が消えてしまうので、
生きている人と由真さんをつなぎ合わせて、
お互いの生命をつないだんです。」
「生きている人と僕をつなぎ合わせた? 僕と誰をつないだのかな?」
「今回の問題は私に全責任があるので、
私と由真さんをつなぎ合わせたのです。」
「つまりルナちゃんが生きている限り、
僕は生きていると言うことなのかな?」
「その逆もあります。
由真さんが生きている限り私も生きつづけます。」
それってまさか完全に一心同体って言うやつでは?
「一心同体って言う言い方はどうでしょう・・・。
異体同心のほうが正しいのかもしれません。」
「僕とルナちゃんは命でつながっているということ?」
「厳密に言ったら命だけでなく、
心もつながっていると言うことになりますね。」
「僕の感情がルナちゃんにも感じるって言うこと?」
「感情だけではないですよ?
文字通り心もつながっていると言うことです。
体を修復した時にちょっと私の細胞も使いましたし。」
ちょっとまて!!! またさらっと新しい情報を言ったな!
「体を修復の時、ルナちゃんの細胞を使ったってどういうことなのかな?」
「えっとですね、、、ばらばらだったといいましたけど、
実はもうほとんど修復不可能なくらいになっていて、
何処にどの細胞があったのかわからない状態だったんです。
そこで私の細胞をつかって元に戻したんです。」
僕の肉体にまでルナちゃんが入っていると・・・。
「それで僕は本当に大丈夫なの?
たとえばさ、違う生物の細胞が僕の肉体に入ってるわけでしょ?」
「私もそれが凄く気になっていたんですけど、
私と由真さんって細胞レベルでの問題は無いみたいです。」
いったいなんなんだ・・・
本当にこの子の言ってることを信じていいのか?
もう判らなくなっている僕がいる。
でも、この体の痛み重さは尋常ではなかったし、
2日の記憶の空白の意味もわかった気がする。
「えっとさ・・・体を治してくれてありがとう。
そして、生き返らせてくれて。お礼を言うよ。』
ルナが笑顔で返してくれた。
「ところで疑問に思ってることがあるんだけど、
ルナちゃんはどうやって火星に帰るの?」
ルナが急に悲しい顔をして重い空気に変わってしまった。
「私、どうやったら帰ることが出来るんでしょう・・・。」