第十七話;夏休みの宿題
長い夏休みももうそろそろ終わりが近づいてくる。
そして学校生活が始まる。
僕としてはこのままずっと休みであってほしいものだが、
この二人は違う。ルナと有香だ。
あれから有香は毎日のように僕の家に来てはルナと遊んでいる。
遊んでいるといっても百合先生から頂いた大量の洋服をみては、
ファッションショーのように着て遊んでいるのだ。
そしてときどき洋服を着合っては楽しんでいる。
(女の子だねぇ・・・。)
厳密に言ってしまえばそうではないのだが、
僕は有香のことはちゃんとした女の子として認めている。
有香の本当のことを知っているのは僕1人だけだからだ。
考えてみたらこのひと夏はいろいろなことで一杯であった。
考えさせられたこともたくさんあった。
一番、僕の生活を変えた出来事といえばルナとの出会いであろう。
そして有香との出会いもうれしい出来事のひとつでもあった。
しかし僕にはひとつ心残りがあった。
『宿題が全く出されていない。』ということであった。
夏休みに入る直前に学校を休み、
それから何も言われていないことに、
僕はさらに不安を募らせていた。
転校生であるルナと有香には、
うちの学校の宿題は出ないとは思うのだが、
僕にも宿題がないというのはおかしいと思うのだ。
僕は百合姉さんに電話をかけてみた。
『由真か。いったいどうした。
朝っぱらから妹と喧嘩したとは言わないだろうな?』
『喧嘩するどころか有香が毎日来て楽しく遊んでるよ。』
『お前らはいつ 3人兄妹になったんだ?』
『有香を勝手に妹にするな!』
『それで何用でかけてきたのかな?』
『俺の夏休みの宿題のことなんだけど。今回は宿題はないの?』
『おまえは何も聞いてないのか?』
聞く聞かないも僕にとって百合先生にしか聞くことができない。
基本、僕には友達というものはいないのだ。
『僕が百合姉さんに聞く以外に、
学校のことは一切わからないということを
百合姉さんは忘れてないか?』
『かわいそうなやつだな、
有香に聞いてみろ。有香に学校の宿題を教えた。』
『ちょっと待ってよ。
ルナに学校の教科書とかもらってないのに、どうして有香が知ってるの?』
『学校の教科書も取りに行ってないだと!? 由真、お前何してるんだよ!』
『だから百合姉さんから聞く以外に、
僕は全く学校のことを知らないんだってばさ!』
『有香に聞いて瑠奈の教科書を取りに行って来い。教科書代は不要だ。
それとルナと由真は宿題の問題集をもらって来い。
すぐにもらって来い。それでさっさと全部やれ。』
そういって電話を切ってしまった。
「有香! お前学校の教科書とか取りに行ったんだって?
後、宿題一式もとりに行ったって?」
「え? もうとっくに取りに行ったよ。宿題も少しずつやっているよ。」
「有香 お願いがある!!!」といって、
僕たちは学校の制服に着替えて図書室に向かった。
「図書室でもらうのか?
前は本屋で教科書とかもらって来た記憶があるんだけど。」
「なんかこれから図書室でもらうことができるようにするみたいだよ。」
図書室の司書官に瑠奈の教科書を取りに来たことと、
瑠奈と僕の夏休みの宿題を取りに来たことを告げた。
「えっと、名前は?」 「村山瑠奈です。」
「村山瑠奈さん 1年D組
皆藤百合先生のクラスの子ね。ここの一式が全部がそうね。」
司書の言ったところに教科書が山済みになっていた。
「僕は村山由真 1年D組 同じく皆藤百合先生のクラスです。」
「村山由真さんね、えっと。。。これだね。」
僕のところにもものすごい教科書類と問題集が山済みに積んであった。
瑠奈の分と僕の分合わせてもさすがに歩いてもっていけない。
有香が手伝ってくれても持てるような量ではなかった。
「有香。 これ一体どうやって家まで持っていったの?」
「4回から5回に分けて少しずつ持っていったかな・・・。」
不思議なことは僕はもう教科書類を持っているのに、
新しい教科書が何種類かあることに気がついた。
どういうことか聞いてやる!
『なんだ?今度は有香にでも告白されて困ってるのか?』
何でそういうことになる!
『百合姉さん、僕のところになぜか新しい教科書とかあるんだけど
これってどういうこと?』
『一年生の選択教科というものが廃止になって、
全教科を勉強することになったんだよ。』
『ちょっとまって、全教科ってどういうこと?』
『全教科は全教科だ。選択科目として選んでいたもの以外の教科も
授業に取り入れることになった。』
『さすがに今までの授業の分はどうするの?』
『4月から8月までの5か月分は自主学習として自分で勉強すること。
それと問題集も全部やること。
これが今回の夏休みの宿題となっている。
夏休み終了後の9月15日から理解度テストがある。』
そんなむちゃくちゃなことってあるんだろうか・・・
『わかったか?それならもう切るぞ!』
『まだまだ!!!あのさ教科書類が多すぎて持てないんだけど、
百合姉さん車出せる?』
百合姉さんに車で教科書や問題集などを家まで持ってきてもらった。
二人分のあまりの量に唖然とした。
僕のはもともとの分の教科書類があるので、
付け足し分の教科書類と問題集だけなのだが。
ルナのほうは完全版とも言うべき全教科の集大成が揃っていた。
(夏休み終了まであと何日だったっけ?)
「今日は8月23日で学校が始まるのは9月3日の月曜日からだから、
残りは11日間って所かな。」
「有香、一緒に勉強手伝ってくれるか。
ルナと僕だけで終わらせる自信が全くない。」
「ルナいいか!のこり11日はずっと教科書とにらめっこだ!
問題集を片付ける、わかったか!」
ルナは「はーい♪」と軽く返事をした。
本当に大変だということに気がついているんだろうか?
今日は教科書をルナの部屋に運んで本棚に整理する日となった。
もちろん僕の教科書類も自分の部屋に運び出す準備をした。
僕の本棚は学校教科書類と小説類、漫画類と一緒に入っていたが、
小説と漫画は別の場所に移動となった。
ルナの本棚も自分がわかりやすいように棚にまとめた。
「由真、瑠奈ちゃんって辞典とかもってないの?
国語辞典とか漢和辞典、英和辞典、和英辞典とかは必要だよ。
他にも参考書とかも持っていないと勉強に不便だと思うよ。」
ということで本屋さんに直行した。
「参考書とかは全部、有香の使っているものでいいと思う。
有香の使っている参考書なら教わるときにもよさそうだから。」
ということで有香が使っている参考書を二冊づつ購入した。
僕は参考書というものは使わずにいたので全く持っていなかったのだ。
ところが今回は選択科目以外の全教科が授業で使われるという。
苦手な教科まで覚える羽目になったのだ。
「有香はもうどこまで宿題が進んでるの?」
「ちょっとずつやっていたから全教科7割くらいって言うところかな。」
「え!もうそんなところまでやってるの?」
「私の場合、途中から入るから8月まで学校で教え終わったというところまで
全部覚えないといけないからなかなか進まないの。」
「それを言ったら瑠奈は今日教科書類を取ってきたばかりだよ?
瑠奈も全教科学校が教えたと言うところまで勉強しないといけないし、
瑠奈はちゃんと覚えれるのかな?」
「瑠奈ちゃんは大丈夫だと思うよ。問題は由真のほうじゃないかな・・・。」
すべての参考書類も家まで持ってきて本棚に入れた。
本棚が学校の教科書類で一杯になった。
「高校の一年生の教科書と参考書だけで、
本棚ひとつ占領されるものかねぇ・・・。」
そしてルナと一緒にノートも購入しにいった。
「有香、ノートってどのくらい必要になりそう?」
「一教科に少なくとも5冊以上使ったかな。
それが15教科だから75冊が使う分で
他に3教科追加されるから48冊ほしくなるとして、
123冊以上が1人分でほしくなると思うよ。」
「123冊分が二人か?」
「あ!でも由真は今まで勉強していた分があるから、
瑠奈ちゃんの分が123冊以上ほしいって言う意味だよ。」
とりあえず250冊分ノートを買っておこうと思った。
どうせすぐになくなるであろうとそう思ったからだった。
100均のノートはページ数が少なくなっているのでだめだ。
ということで文房具屋さんに行ってノートを250冊分購入した。
「なんかすごいことになってるよね・・・。」とルナが言うと、
「文房具屋さんの店員さんが『業者の方ですか?』と聞いてきたときは、
どのように答えていいのかわからなかった。」
「あ! そのときウケた! 由真って『いえ!学生です!』って、
まじめに答えたんで爆笑しちゃったよ。」
明日から勉強の日々が始まる。
地獄の11日間だ。
「ねえルナ たとえばさ僕が覚えたことってルナは覚えるの?」
「つながってるから覚えると思うよ。」
「それならルナが覚えたことって僕は覚えることができるの?」
「基本的には覚えることになると思うよ。」
「前にさ感情の遮断をしたとかいってたよね。今でも遮断中だよね?」
「うん 今でも遮断中だよ。それがどうかしたの?」
「ルナが遮断しているなら、学力とかも能力も遮断されるのかな?」
「感情の遮断だけで能力の遮断はやっていないからそこは大丈夫だと思う。」
有香が僕たちのひそひそ話に「何々? 兄妹の秘密ごと?」
「まぁそんな感じ 僕とルナしか知らないことだよ。」
有香はちょっとむくれて「いいなぁ。お兄ちゃんがいる人は。」
「もうなんか有香も妹って言う感じになってるじゃん。」
有香は「そういってしまえばそうかもね。
じゃぁもう私はそろそろ帰るよ、じゃね瑠奈、由真!」
そういって帰っていった。
「さてとルナと僕は宿題を片付けるぞ!」
ルナは元気よく「おぉ!」と言った。
夏休みの恒例行事ともなる宿題の片付け。
毎年、長期連休になると最後には宿題の山と格闘するという、
学生にとってはもう行事と言っても過言ではないだろう。
どうしてそうなるのか?
(実際に遊んでばかりいて勉強をしていないからなのだが・・・。)
本当に毎年の恒例行事になる。
勉強を教えてほしいと友人に頼み込んで宿題を写させてもらう者、
一緒に勉強する予定がついつい話し込んでしまって、
結局宿題が進まないこともあるという魔の月末。
しかし僕たちはそういうことを言ってはいられなかった。
通常の科目が増えたのだ。
今までは選択教科があるおかげでその教科だけをやればよかった。
しかし選択教科がなくなり全教科が宿題に出されると言う、
前代未聞の宿題量になっているのであった。
選択教科廃止って言うことは授業数も増えるんだろうなぁ・・・。
今までは午前中4時間で昼休み午後に3時間の合計7時間教科、
それが月曜日から金曜日までということで、
一ヶ月の教科は35教科をやることになっていた。
しかし選択教科が無くなったということは
土曜日も入れて42時間教科になると予想できる。
どれだけ勉強させる気なんだよ。
一日8時間教科になったら部活動のほうが困るので、
やっぱり一日7時間科目と考えるのが普通だよな。
そう考えながら新しい教科を開いてみた。
(ぜんぜんわかんねぇ・・・)当たり前だった。
習ってもいないんだから。
やっぱりここは夏休み問題集からやっていこうか。
(わかるところだけ・・・)
問題を解いていくと意外とわかるところがある。
苦手なところは後回し、
とにかくやれるところからはじめていこうと思った。
かなり虫食い状態になったがある程度は解けていったと思う。
「由真 お茶が入ったよ。休憩する?」
瑠奈の言葉で時計を見たらもう夜10時になっていた。
「うん 休憩するよ 今そっちに行く!」
下に下りてリビングに座ると紅茶があった。
それと甘いお菓子が置かれていた。
「ルナは宿題のほうは進んでるか?」
「わかるところからやっているかな。」
「明日は有香も来るから一緒に勉強しような。」
「今日は何時までやる予定?」
「夜11時で寝よう、明日、有香が来たときに寝てたら怒られそうだ。」
「確かに有香ちゃんって結構、しっかりしてるんだよ。」
瑠奈と僕は二人で笑いあった。
「それなら今日は夜の11時まで勉強だね♪ がんばっていこう♪」
「うん、がんばっていこう!」
なんか僕には心強い味方がいるようですごく安心した気分になった。
後一話で第一部の終了となる予定です。
ルナとの出会い、有香との出会いがどうなっていくのか
第二部で面白くできたらいいなと思ってます。