第十五話;江崎 優
『私、一人っ子なので・・・』
江崎有香の言葉が本当ならば、
僕はひとつの確証を得た。
「一緒に行きたい!」というルナを慰め
一人家に置いてお留守番させておき、
僕は江崎優が住んでいた家を訪れることにした。
たしかこの商店街の奥で
そこの交差点を右に曲がったところだったよな。
『江崎 優』
僕が中学校二年生の時にクラスでいじめにあっていた。
ある時、僕は部活で遅くなって教室に戻っていて帰る準備をしてた時、
傷だらけで血だらけになって教室に入ってきた。
僕は江崎を保健室に連れて行き江崎優がいじめに遭っている事実を告げた。
いじめた本人たちは生徒指導で怒られ、保護者も呼び出されているという
学校の大問題となっていた。
実際に、保健室では江崎の怪我の対応が出来ずに江崎は病院にも行った。
僕も学校から呼び出されいじめの事を聞かれた。
病院にも付き添っていったが怪我の具合など警察が写真を撮っていた。
実際に被害届も出されて刑事事件としていじめが捜査され、
学校の校長やら教頭やらがいじめの事実を知らなかったと言う問題に
マスコミが新聞やニュースにもなり大騒ぎの状態になった。
それでいじめがなくなったと思った。
それから僕と優は仲良くなった。
そして休みの日には僕の親が遊園地に連れて行ってくれたりしていた。
ある日、「由真くん 僕を助けてくれて本当にありがとう。」
と言う言葉を最後に優は居なくなった。引越しをしたと聞いた。
なぜ引越しをしたのか僕は最初はわからなかった。
しかしそれからイジメは無くなっていなかったことを知った。
逆にいじめをちくったこと、被害届を出したことに腹を立てて
イジメがエスカレートしていたという事実を僕は聞いたとき、
僕は自分の本当の無力さに腹を立てていた。
なぜ、僕に相談してくれなかったんだ。
僕は優にとってなんだったんだ!という苛立ちが、
僕の心の中に残ったままになっていた。
そして今日、優が住んでいた家に向かった。
家の表札には『江崎』と書かれていた。
ここに間違いはなさそうだな。
僕は、玄関の呼び鈴を鳴らした。
『ピンポーン』
家に居る様子があるのだが出てくる気配が無い。
もう一度『ピンポーン』と鳴らしてみると、
インターホンから『ハイ』と返事が来た。
「あの僕はここに住んでいた江崎優さんの友人で村山由真といいます。
ぜひお話を聞きたいと思いこちらに伺わせてもらいました。」
ガチャリと扉が開いて女の子が出てきた江崎有香だった。
「やっぱりあなたは江崎優さんと関係があったんですね。」
僕は家の中に案内された。
すごくすっきりしていて引っ越したばかりという感じがした。
「ずっとこの家は残していたんですね?」
「ええ父と母がずっとこの家を残してくれていたんです。」
「江崎優さんに妹さんがいたと言う話は聞いていなかったんですが、
優さんはどうしていますか?」
「優は亡くなりました。」
僕はその言葉が信じれなかった。
「いつ亡くなったんですか?」
「つい先日です。私が編入試験をする一ヶ月前位になります。」
優が亡くなった。僕はこの言葉がすごいショックだった。
とても信じることは出来なかった。
「僕は優に謝らないといけないと思ってた。
いじめがまだ続いていたなんて僕は知らなかった。
なぜ僕に言ってくれなかったのかと思うと、
僕は本当に悔しい気持ちでいっぱいです。」
「優はそんなことは気にしていないと想いますよ。
むしろありがとうとお礼を言いたかったんじゃないかな。」
江崎有香がそういった。
「有香さんにとって優はどういう存在だったんですか?
実は僕にも妹が居るんですけど、
どう付き合っていいのかわからないんです。」
「瑠奈さんでしたっけ、
由真さんに妹さんが居るとは思っても居ませんでした。」
僕は尽かさずその言葉を待っていたように思った。
「僕はわからないところがそこなんですよ。有香さん。」
有香が何のことだろうという顔をした。
「初めて会ったときもそう言いましたよね、
由真さんに妹が居るとは思わなかったって。
僕は本当に有香という人は知らなかった、出会ったことも無かった。
そこでルナがこの写真を見せてくれたんですよ。
この写真はルナも百合姉さんも有香さんと間違えた人物です。
誰かわかりますか?」
有香に写真を渡して見せた。有香はだまっていた。
「僕はこれを見て思ったんです。
有香さん、あなたは本当は優さんではないですか?」
「そうするといじめの原因もわかってきたのです。
優は背も低く細身の体で本当に女の子のようだった。
それがいじめの原因だったとしたら全部繋がるんですよ。
有香さんが優であるということに。」
ふっと有香が笑った。
「何処で気が付いたんだい。僕が優だって事。」
「今までのお前の行動すべてがおかしかったんだよ。優。」
「上手く行っていたと思ったんだけどな。
こんな簡単に由真に見抜かれるとは思ってもみなかったよ。」
「それでも冗談が過ぎるぞ!優が亡くなったっていうのはさ。」
「それ本当にもう優と言う人物はこの世にいなくなったんだから、
本当のことだよ。」
「それどういう意味だよ。」
「戸籍も有香に変更して男性の象徴も取り、私は本当に女性になったから。」
それって今、いろいろと騒がれている、
トランスジェンダーと言うものでは無いだろうか?
「もうこの世には優という人間は存在しない。有香という女性に変わった。」
「優、一体何があったのか教えて欲しい。
何がお前をそこまで変えて言ったのか。」
「由真、君の言ったとおりだよ。
僕は小さい時から背が低く力も無くて毎日いじめを受けていた。
『お前男だろ』『女じゃないのか』散々言われて時々裸にされたりもした。
毎日が本当に耐えられなかった。
ある日体育の着替えの時に体操服が無くて探してみたら
女子用の体操服が置かれていた時もあった。
水泳のときは女子用の下着が置かれている時もあった。
毎日毎日いじめられてそれで僕はある日体育館に呼び出された。
そこでいじめを受けた。
服を脱がされ裸にされて叩かれたり殴られたりもした。
そこで僕も切れちゃったんだなぁ。
叩き返したり殴り返したり抵抗をしたけど、
人数が人数だったからひどく叩かれて大怪我をした。
いじめが終わった時には僕は血だらけで倒れていた。
逆に血だらけだったから誰かが止めたんだと思う。
そして僕は服を着て教室に戻った。
その時に由真くんと出会ったんだよ。
それからは由真くんの知ってのとおり学校も大問題になり、
被害届も親はだすと言って刑事事件になって、
でもそれから由真くんと仲良くなっていろいろと遊んでくれたよね。
それでもいじめは消えてなかったんだよ。
日に日にいじめはエスカレートして、
僕は精神的にすごく苦しくなっていった。
それで親に相談して学校にも相談した。
それでもいじめはなくならずに僕は転校することにした。」
「どうして僕に相談してくれなかったの?」
「相談できなかったんだよ!僕は由真君が好きだ!
だからこそ相談が出来なかったんだ!」
「何言ってるんだよ?」
「私は性同一性障害(性別違和)の診断を受けて
性別適合手術を行い、戸籍を変更した。」
「親はどうしたんだい。ここには居ないようだけど。」
「性同一性障害(性別違和)の診断書を持って、
性別適合手術を受けると言ったら勘当されたよ。
もう二度と私たちの前には姿を現さないでと言われた。
今はこの家で一人で暮らしてる。
成人になるまでの生活費や学校の費用をだすって言って、
僕のところから逃げていったよ。」
「これが僕のすべてだよ。 由真くんはどうする?」
「僕?僕がどうするって一体どういう意味だよ?」
「私 江崎有香は元男で江崎優です。それを知った上で君はどうする?
親のように逃げてもいいよ、私はまったく気にしない。」
「残念だけどそいつは無理な相談かな。
僕の妹は江崎有香のことが大好きでね。
さすがに妹のことが大好きな僕としては、
江崎有香と付き合うなと言うことはいえない。
それに僕は江崎優とは大の仲良しでね。有香が優とわかった以上、
僕は江崎友香とも仲良くなりたいと言うのが本音かな。」
「由真くん 本当にそれでいいの?」
「由真くんはやめてほしいね 由真でいいよ。
瑠奈のことも瑠奈といって良いと思うよ。それとさ『本当におかえり 優』」
有香は大きく泣き出した。
「由真、由真 本当にありがとう!」
「今度さ、僕の家にも遊びにこいよ。
親は居ないけどさ、ルナが待ってる。
たぶん僕より一番仲良くなりたいって思ってるんじゃないか?」
「ほんとうにありがとう 絶対に行かせてもらうよ。」
「それともうひとつ絶対にもう
僕の前からいなくなったりしないでほしい。」
「わかったごめん、本当にごめん、
もう絶対にいなくなったりしないよ。約束する。」
「それでさ、ぼくはどういったらいいんだ?もう君は優じゃないんだろ?」
「普通に有香って言えばいいんじゃないの?」
「いきなり呼び捨て? まぁいいか。 よろしくな有香!」
「うん こちらこそよろしく 由真!」
なんか前よりも強い絆で結ばれたような気がした。
「そうだ、有香。もう聞いてると思うが、
お前も編入試験合格してたぞ。おめでとう。」
「うん それはこの前に百合先生から直接聞いた。」
「それならこの情報は聞いているか?僕と瑠奈と有香は同じクラスだ。」
「それ本当の話?」
「うん 百合先生から直接聞いた話だ。担任は百合先生だ。」
「凄く嬉しいよ、由真。でもなんで百合先生が由真に言うんだ?
そういえば百合先生と由真と瑠奈ちゃんと一緒にお祭りに来てたね。」
「百合先生は僕の母親の実の妹だよ。」
有香はその事実に驚いていた。
「百合先生が由真のおばさん?」
「あっと! 百合お姉さんといわないと本気で殺されるぞ。」
「そのことは瑠奈ちゃんも知ってるの?」
「もちろん知ってるよ。この前、ちゃんと話をしたからな。」
有香がなにか考え始めた。
「有香、何か考えることでもあるのか?」
「まえにさ由真の家族と遊園地に行ったときがあったよね?
その時に聞いたことがあるんだけど、由真の両親って父親のほうが妹がいて
母親は一人っ子って聞いたような記憶があるんだけど。」
「僕のほうは父親が弟がいて、母親に妹がいるって聞いてたよ。
その妹が百合姉さんだって言ってたよ。」
「それなら私の聞き間違いだね。ごめんね。変なこと言っちゃって。」
一体どういうことなのかよくわからなかった。