第十四話;夏祭り
今日は地元の神社の夏祭りだ。
百合姉さん(教師)とルナと僕との三人で夏祭りに出かけた。
ルナは浴衣を初めて着て大喜びだ。
僕もルナの浴衣姿を見てすごく嬉しくなっている。
「ルナって本当に可愛いよな。」
ルナの浴衣姿に見惚れていると、百合姉さんが目ざとく見ていて、
「妹の浴衣姿を見て興奮してるの? 由真くん。」
などと言ってくるから本当にむかつく・・・。
「今日、私から逃げ出してホテルにでも駆け込もうとしたら、
どうなるか判ってるよな? 由真。」
「百合姉さんから逃げ出そうとはこれっぽっちも思っていません・・・。」
「ほれ どうせお前は持ってないだろ? 瑠奈を楽しませてやって来い。」
なんと百合お姉さんは5000円札を僕に渡してきた。
「え!? マジで? いいの?」
「要らないならいらないでいいんだけど?」
「百合姉さん ありがとうな!!!」
(やれやれ本当にあの二人は・・・)
「おーいルナ! たこ焼き食べようぜ!」
百合は二人仲良く座りながら
たこ焼きや焼きそばを分け合って食べている由真と瑠奈に微笑んだ。
私もお姉ちゃんと一緒にお祭りを楽しんだなぁ・・・。
皆藤百合のお姉さん、皆藤智夏かいどうちなつは由真の母親だ。
智夏と百合は大の仲良しであった。
いつも姉妹で一緒に居てどこに行くにも姉妹一緒に歩いていった。
高校も同じで2人で公立高校に通い仲の良い姉妹と言われていた。
しかし大学進学のときにそれは続かないと言うことに気が付いた。
姉の智夏は東京の工学部のある大学に進み、
百合は教育学部の大学に進んだ。
百合はどうしても学校の先生になりたかったのだ。
一緒に居てもとても仲がよくても性格が違う。
なりたい職業と言うものは違ってくるのだ。
そして姉、智夏は大学で出会った雄一と出会い大学卒業後に結婚した。
そして生まれたのが由真だ。
私は教育学部を卒業後に大学院の理工学研究科に入り、
数学教師として今の私立城北第一高校の数学の教諭として入った。
そして由真が入学して由真の居る学級担任となった。
それが今では由真の妹である瑠奈の学級担任になろうとしているとは、
何の因果関係があるのかねぇ・・・。
自分でも良くわからないが由真とその妹である瑠奈を、
大切にしていこうと思っている。
大切なお姉ちゃんの子供だからな。
百合はそう心に強く思っていた。
「由真、瑠奈! 服はよごすな!」
「百合お姉ちゃんも早くこっちに来て! 写真を撮ろうよ!」
昔ながらのフィルム式のカメラに百合は驚いた。
「良くこんなの見つけてきたな?」
「お父さんが昔から使っているカメラだよ。 懐かしいでしょ?」
「お前のお父さんは絶対にフィルムのほうが味が出るって言って、
ずっとこのカメラを使っていたな。」
そのカメラは百合も覚えていた。
姉さんとの写真を良く撮ってもらった思い出のカメラでもあった。
「由真、そのカメラをお前は使えるのか?」
「小さい時からお父さんに教えてもらっているから大丈夫だよ。」
そっか。いつのまにか由真も大きくなって居たんだな。と百合は思った。
「三人で写真を撮るのは初めてだね。」とルナがいった。
「三人じゃなくてもルナと一緒に写真を撮る事が始めてだ。」
百合はそういった。
「由真お兄ちゃん、この写真も
由真お兄ちゃんの思い出のアルバムの一枚になるんだね。」
「僕や百合姉さんだけでなくルナにも大切な思い出の一枚になるんだよ。」
僕はそういった。
ルナは僕の顔を見て嬉しそうに「うん!」って言ってくれた。
僕にはその一言がとっても嬉しかった。
「さてとたい焼きが食べたいな。」
「たい焼きかいいねえ。」百合お姉さんも欲しそうだった。
村山家ではお祭りでは絶対に買うものがある。それがたい焼きだ。
僕が熱を出してお祭りにいけなかったときも、たい焼きが必ず置かれていた。
たい焼きは僕にとって大好きな食べ物であって、
お祭りの日には絶対に欠かせないものとなっていた。
「百合姉さん いくつ欲しい?」
「自分のものは自分で買うから良い」と言ったが、
そこは僕はゆるすことは出来なかった。
「そこは僕達のしきたりだと思って、
僕達からのプレゼントと思ってくれないかな?」
百合姉さんは「判ったよ。」と納得してくれた。
「おっちゃん、たい焼き6個と3個で3個のほうは全部餡子。
6個のほうはクリーム2個で餡子4個でお願い。」
「百合お姉さん ハイ たい焼き。」
「ありがとうな 由真。」百合姉さんが優しくお礼を言った。
ルナは(私の分は?)とじろっと僕のほうを見たけど、
「もうちょっと待っていてね」とおあずけをした。
「さて!早く花火が見れるところにいかなくちゃ!」
ちょっと歩くと絶好の花火ポイントがある。
そこに早く着いて座れる場所を探した。
そこでルナに「はい たい焼き。」って渡した。
ルナはそのたい焼きをまじまじと見て「魚?」と言った。
「鯛という魚の形をした甘い食べ物 食べてごらん。」
ルナは一口食べて「あ! おいしい!」と笑顔で答えた。
ルナの笑顔は本当に可愛かった。そして花火が上がった。
ドーンとすごい音に、
ルナはたい焼きを落としそうになったが、僕がキャッチした。
「何?今のすごい音!!!」
「花火だよ。」と僕は言って空を指差した。
空には沢山の花火が撃ちあげられて綺麗な夜空を照らしていた。
「わぁ。すごい綺麗。」とルナが夜空を見上げていた。
ルナとの初めての花火、後何回見ることが出来るんだろう。
そうおもって僕はルナの横顔を見ていた。
(いつかルナとの別れも来るんだろうか?
火星に帰る日が来るんだろうか?
そう想いながらルナと花火を観ていた。)
花火も最後のほうになり一番大きい花火球を打ち上げる時になった。
最後の花火だ。
高く飛び上がり大きな火花が夜景を彩る。
そして今までに無い大きな音で(ドーン!)と音を鳴らし終わった。
ルナはお腹を押さえて、
「すっごく響いた!体中に響いた!」と興奮やむことなしといった感じだった。
「どうだ由真、瑠奈、お祭りは楽しかったか?」と百合姉さんが言った。
「うん、すごく楽しかったよ ありがとう 百合姉さん。」
「浴衣も着れたし、たくさん食べたし、花火もすごく綺麗だった!
本当にありがとう 百合お姉ちゃん♪」
一番楽しんだのはルナのようだった。
「さて家に帰るとするか?」と百合姉さんが言ったとき
「由真さんも瑠奈さんも来ていたんですか、あれ?百合先生 こんばんは。」
声のするほうを覗いてみるとそこには江崎有香が立っていた。
「有香ちゃんも来てたの? 早く会いたかったなぁ。
一緒にお祭りや花火を見たかった!」
「それはすいませんでした。」
「江崎さんは一人で来てたの?」と僕は言った。
「はい 私は一人っ子なので一人でよくいることが多いんです。」
一人っ子? なら優とは関係が無いのか。
「江崎 帰るんなら一緒に帰るか。もう夜が遅いし一人では危険だろ?」
百合先生が江崎を一緒に帰るように誘った。
「いえ百合先生 私はこの近くなので一人で帰ります。おやすみなさい。」
「わかった 気をつけて帰るんだぞ! おやすみ」
「有香ちゃんお休みなさい バイバイ♪」
「江崎 おやすみ気をつけてな」
そういって江崎有香と別れた。
ルナはもう今日のお祭りで興奮中だった。
残っているたい焼きを食べながら家に着いた。
「本当に今日はありがとう。 百合姉さん。
もうひとつお願い事していいかな。ルナの浴衣脱がしてあげてくれない?」
家の中で脱ぐことに格闘中のルナをみて、
(本当にお前たちは・・・)といいながらルナのところにいった。
『はい瑠奈落ち着いて!』
今日はすごく楽しい一日になったと思う。
ルナにとっても僕にとっても最高の思い出が作れたように思えた。
ただひとつ江崎有香の言葉を除いては。
『私、一人っ子なので・・・』
江崎有香が一人っ子か。
僕の予想が確信に変わった瞬間でもあった。