第十二話;有香
「ところでさ。百合姉さんに話があるんだけど。」
「そう来ると思ってた、こっちもちょっと話があるんだ。」
やっぱり本当の本命は僕との話にあったか・・・
ルナの事で何かがばれたか。
戸籍のことだろうな。絶対に無理があるし。
「まず由真、お前の話から聞こうか。」
百合姉さんが僕の話を聞こうとした。
「今回のテストのことだけど、
ルナは『テストの合格点が決められない』と言ったこと」
「特進科コースはもしかしたら学力コースではないのではないか?という疑問」
「もうひとつは『江崎有香』と言う人物が同じように編入試験にいたこと。」
「江崎有香は僕のことを知っているが僕はその人物を知らない。
しかし江崎優という人物とそっくりだと言うこと。
江崎有香と優は兄妹ではないか?」
という疑問をぶつけてみた。
「『テストの合格点は決められない』と瑠奈が言ったのか・・・。」
百合姉さんはボソッとつぶやくようにそういった。
「私もあのテスト問題を見たが由真の言ったとおり、
すべてが入り混じっていて学力を決めるような感じではなかった。
あと採点は教師は採点をさせてもらっていない。校長と教頭で採点をした。」
「それってどういうこと?」
「唯一、テスト問題が見れた教師は私一人ということだよ。」
「普通の入学試験は教師全員で採点するものじゃないの?」
「入学試験は試験を受ける人数が人数だからね。
教師全員でやら無いとさすがに無理だ。」
「今回はたった二人だから教師に採点をゆだねなかった。と言いたいの?」
「それでも担当の教師が居るんだから、
校長と教頭の2人だけで行うと言うのはおかしいだろう。」
たしかにそうだ。教科にはその教科の担当教師と言うのが居る。
その担当教師を無視して相談もせずに
テスト問題も見せずに合格を決めると言うのには無理がある。
「あとあの問題を作ったのはすべて教頭が作ったと言うところかな。」
「教頭がすべての教科の問題を作り、教頭と校長で採点したって事?」
教頭のテストは100点満点で平均点35点と言う
ありえないテスト問題を作ることで有名だ。
やっぱりこのテスト問題にはおかしな点が多すぎる。
ルナが合格点が決められないと言った理由もわかる気がする。
「由真、『特進科コースは学力コースではないんじゃないか』と言ったな。
それならどういうコースになると由真は考えているんだ?」
「点数を考えずに『問題を解くと言う意欲を持たせる』、
解き方を重要視した専門コースと考えるかな。」
「解き方を重要視した専門コースか・・・なるほどな。
それなら点数は考えなくても良い。
しかし解き方を重要視して考える意味は一体何があるのかな?」
「僕らは常に問題と公式と答えと言うものに、
とらわれ過ぎているように思うんだよ。
たとえば『0で割ることは絶対に許されない。』
これは数学をやったことがあるなら当たり前のことで、
誰でも知っていることだよね。
でも『なぜ、ゼロで割ってはいけないか』という理由については、
詳しく知っている人はすごく少ないと思う。
『学校でそう言われたから』『学校でそのように習ったから』と言うと思う。
もしそのような『なぜ?』という疑問を、
すべて理解することが出来ることが出来たら?」
「できたらどうだと言うんだ?」
「数学でいったら公式無しですべての答えを導き出せると思わない?
中間の工程を無視して答えを導きだす今の世の中に、
中間工程こそ大切な部分であると証明できる。」
「なるほどな。『解く』と言う重要性を訴えていると、
そう考えているわけだな。」
「それなら国語や社会についてはどう考えている?」
僕は黙ってしまった。国語を解く、社会を解く。
ということがどういう意味なのか、さっぱりわからないからだ。
「まぁ そういうことになっちゃうわな。普通。」
「百合先生はそこのところどう思っているんですか?
実際にテスト問題を見ているわけですから。」
「さあね。あいつらの考えることなんて私達教師にわかるわけないだろ?」
「教頭先生に曰く付きの伝説がいろいろと言われているんですけど、
校長先生にはそう言うものを聞きませんけどどういう人なんですか?」
「さっぱり判らない。」百合姉さんはきっぱりと答えた。
「どういうことなんですか?」
「だから校長の過去のことは一切判ってないし、伝えられてない。」
「そんなことあるわけないでしょ!
経歴不明の人が学校の校長先生になれるわけが・・・」
「それが実際になってるんだよね。これが・・・。」
私立城北第一高校。
いったいどういう経緯で作られたのかも
わかっていないと言うこともある。
本当に何も無い田舎に高校を作るということになって、
いきなり巨大な高校が作られた。
その時に力をいれたのが、
今の校長『川上権蔵かわかみごんぞう』だと言われている。
当時もどういう人なのかも
さっぱりわかっていなかったと言われている。
先生も各方面から有名な先生方が集められてきたので、
当時のニュースにもなった。
いまでは地元だけでなく各県からも来る進学校とされている。
しかし校長の素性がまったくわからないという高校は聞いたことは無かった。
「他に聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「あ! えっと、ルナと一緒に編入試験を受けた人が、
もう一人いたって聞いたんだけど・・・」
「江崎有香のことか?それがどうしたんだ?」
「その人について聞きたいことがあるんだけど、どういう人?」
「どういう人って言われても、試験の時に初めて会ったからなあ。
成績はすごく優秀だな。」
「その江崎有香は僕のことを知っているようなんだけど、
僕にはぜんぜん覚えが無いんだ。」
「それは由真の物覚えが悪いと言う自白と受け止めればいいのかな?」
本当に百合姉さんの口の悪さにはカチンと来るものがある。
「百合姉さん この写真を見てくれる?」
ルナが見つけてくれた写真を百合姉さんに見せた。
「これは由真が中学2年の時の写真じゃないか? 懐かしいな。」
「隣に居る子をみてみてくれるかな?」
「この子は江崎有香じゃないか!
なんだやっぱり江崎有香と友達だったんじゃないか!」
「よくみてみてよ。その子は男の子だよ。
それで名前は『江崎優』だよ。」
「江崎有香に兄がいたと言うことか?」
「僕と同級生の兄がいるっていうの?妹も同じ同級生って考えられる?」
「兄のほうが4月生まれで妹が3月生まれと言うことなら、
出来ないことは無いのじゃないか?」
たしかにそういうことなら考えられないことは無い。
しかし僕は違った考えにとりついていた。
「百合姉さん 江崎有香の住所を教えてくれない?」
僕は絶対に会っておかなくてはいけないような気がしたからだ。
「おいおい、仮にも私は教師だ。教師が本人の確認も取らずに、
住所などの個人情報を教えることは出来ないと言うことくらい、
お前にもわかることだろう。」
「でも絶対に会って話さないといけないような気がするんだ。」
「そういうことなら学校が始まったら、
由真の気が済むまで話せばいいだろう。」
「江崎有香も編入試験合格者だ。」
しかもかなりの好成績で校長や教頭が驚いていたという逸材だそうだ。
江崎有香も合格・・・僕がびっくりして驚いていると、
「着てきちゃった♪ どう?由真、似合う?」とルナが制服姿で現れてきた。
「お! 似合うじゃないか 丈とかどうだ?小さく感じるところはないか?」
百合姉さんがルナのところに行って制服の大きさを確認していた。
「よし、制服の大きさには問題が無いな。」と確認が終わったようだった。
「由真! どう?」
「うんルナ、すごく似合ってるよ」
ルナが嬉しそうに喜んだ。
「さっきまで何の話をしてたの?」
「ルナの合格のお話だよ。
それともう一人の江崎有香さんも合格したとのことだ。」
「有香ちゃんも合格!やったね。
これでみんなといっしょに学校に行けるね。」
「うん 一緒に学校に登校できるな。」
「由真と一緒に勉強もできるね。」
「それはどうかな? 教室が一緒とは限らないし・・・。」と僕がいうと。
「瑠奈も江崎有香も私のクラスだ。」
「もうクラスが決まっていたの?」僕は百合姉さんに尋ねた。
「校長と教頭の考えでね。
親しい人が居るほうが早く学校に慣れるだろうと言うことらしい。」
僕とルナと江崎有香が同じクラスか。
ルナと同じクラスになれたことはすごく嬉しい。
そして江崎有香とも話をしないといけない。
都合が良かったといえばすごく都合が良かった。
「百合姉さん ありがとう。」
ルナも大喜びで「百合お姉ちゃん、ありがとうね♪」と感謝を伝えた。
「さてルナも来た事だし、私の話を聞いてもらおうかな」