第十一話;江崎
「思い出してみたらどうかな?
古いアルバムとか探してみたら見つかるかもよ?」
ルナに言われて幼稚園、小学校、中学校の卒業アルバムを出してきた。
卒業アルバムはその日その時に生きた証のようなものと僕は思う。
アルバムを見ては(このときこういうことがったよなぁ)などと
思い出に浸れるのだ。
『思い出とは自分を過去に戻ることができる、
唯一の時間』だとおもっている。
思い出に浸るときは、
自分がそのときその場所に戻ることが出来るからだ。
しかし僕はある事件をきっかけに、
一切卒業アルバムや普通のアルバムを開くことが出来なくなった。
家が近所ということも有り、
すごい仲の良い友達が僕にはいた。
同じ幼稚園に通い、
一緒に遅くまで遊んだ大親友の友達が僕にはいた。
同じ小学校に入りクラスわけを見ると、
必ず自分のとその友人の名前を探しては
同じクラスになれたときは本当に大喜びしたものだった。
中学の受験シーズンの時、友人に相談をした。
「公立高校に自分は入りたいが、
親が猛反対でどうしたらいいのかわからない。」
友人は「なぜ公立高校に入りたいの?
私立城北第一高校もすごいところだぞ?」
僕は本音をその友人に言った。
「アーチェリー部がその学校にあるから。」
友人は大爆笑して「その部活に入りたいから公立かよ!」
結局、僕は私立第一城北高校に入った。
友人も同じ高校に入ろうとしたが、
受験に落ちて公立高校に行くこととなった。
私立高校の受験合格発表の日に僕と友人は、
辛い現実を受け入れることとなった。
一緒に帰ったが僕は合格、友人は不合格したという辛い現実。
あまり話をすることは無かった。
最後に友人は「本当に合格おめでとうな。」
そういって走り去っていったという記憶が残っている。
しばらく逢うことがなく入学式の当日に、
友人が交通事故にあったと連絡を受けた。
交差点にそのまま進入した友人に、
車が突っ込んだと言うことだった。
意識不明で病院に運ばれ、
運ばれる途中で息を引き取った。
僕は次の日、その交差点に行き花をお供えした。
そしてお通夜、お葬式と何事もなく執り行われた。
僕は何も不思議と涙は出なかった。
現実を受け入れることが出来なかったからだった。
家に帰り、それが現実と判った時に
涙が止まることはなく僕は大泣きした。
その日以来、アルバムと言うものは僕の部屋から消え、
親が持っているようになった。
だから僕は卒業アルバムと言うものや普通のアルバムを、
見ることをしないのだ。
居間に大量のアルバムや卒業アルバムが置かれた。
うちの親って何冊分の写真撮ってんだよ。
ルナがやってきて「うわ! 何この山!」とすごく驚いていた。
「僕の小さい時の写真だよ、それと学校の卒業アルバム」
「こんなに沢山あるの? ビデオとかもあるって言わないよね?」
そういえば僕の両親はビデオをまわしたことが一回も無い。
そもそも家庭用ビデオ機すらなかったからだ。
昔ながらのフィルムをカメラに入れて撮影するもので、
デジタルカメラも使っていなかった。
(こういうところは僕の親ってレトロ主義なんだよな・・・。)と思っていた。
「ビデオは無いよ あったとしても観る必要は無いだろうよ。」
「なにこれ 由真ちっちゃくて可愛い!!!」
ルナが昔のアルバムの写真を見てそう言った。
「僕が生まれたころからの写真だね。
夜鳴きもほとんどしなくて楽だった。って言われた。」
僕のアルバムを見てすごく楽しそうにしているルナを見て、
(当初の目的を完全に忘れてるな。)と思った。
でもルナが楽しんでいるならそれはそれでまぁいいかと思い、
自分は『江崎有香』なる人物の捜査に取り掛かった。
(本当にまったく覚えが無いんだよなぁ。
あの顔も、名前もぜんぜん知らないんだよなぁ・・・)
でも相手(江崎有香)のほうは確実に僕のことを知っていた。
と言うことは、絶対に出会ったことがあると言うことに間違いはなかった。
「さて、僕は中学校の卒業アルバムから見ていこうかな。」
卒業アルバムはクラス毎になっていて男子女子と分かれていて、
それぞれの顔写真や名前が記載されている。
僕は一組女子から順番に『江崎有香』という名前を探していた。
そして中学の卒業アルバムからは見つけることが出来なかった。
「次は小学校のアルバムだな。」
同じように観ていったが見つけることは出来ず、
同様に幼稚園のアルバムにも、
『江崎有香』という人物は見つけることは出来なかった。
「やっぱりいねえよなぁ・・・。」
もしかして『江崎』と言う苗字が違うのじゃないか?
親の離婚や養子とかの家庭の事情で、
苗字が変わることがあると聞いたことがある。
一番近い幼稚園のアルバムから『有香』という名前を見つけ出して、
写真の顔を見つけると言う方法をとって調査をしてみたが、
幼稚園、小学校、中学校の卒業アルバムに、
『有香』という女性は見つけることは出来ても、
顔がまったく違っていて結局、みつけることはできなかった。
(一体あの女の子は誰なんだ?)と思った瞬間、
「この子、有香ちゃんに似てない?」
普通のアルバムから一枚の写真をルナが見つけた。
「どれ? ちょっとみせて。」
その写真は僕が中学生のころクラスメートと一緒に遊んだ写真だった。
「ルナよく見てみろ、これ男の子だ。」
「でもさ 顔がすごく似てると思わない?」
ルナに言われてみるとたしかに顔がそっくりだ。
「たしかに似てる。
たしか中学二年生のときのクラスメートだけど、
妹が居たのかな?」すぐに卒業アルバムを見たが居ない。
中学二年のとき、何があったんだっけ?
思い出そうとしているが、
少しずつ思い出してきたような感じになっていた。
名前はたしか江崎 優という名前だったように思う。
体力があまりなく細身の身体で背もわりと低かったせいもあって、
学校でいじめの対象になり毎日のようにいじめを受けていた。
僕はそう言うものに興味が無くってほうっておいた。
その行動は今では自分の中ではあまりいい行動だったとは言えないけど、
イジメとかには興味が無かったし、
基本的に僕は人と係わり合いを持つことが嫌いだった。
あるとき江崎がすごい怪我をして教室に戻ってきたことがあり、
僕はびっくりしてそいつを保健室に連れていった。
殴られた。蹴られた。と言うレベルを超えていただけでなく、
足からも腕からも出血していたのだ。
保健室に連れて行って治療を受けている最中、
保健の先生からこれはどうしたのか江崎に聞いていた。
しかし、江崎は答えることをまったくしなかった。
「転んだ。気分が悪くなって倒れた。」などと、
嘘のことばかり江崎が言っていたことに、僕はすごく腹が立ち、
「こいついじめを受けているんだよ。
ずっと毎日のようにいじめを受けていて怪我をしてる。」
と僕は言ってしまった。
生徒指導や担任の先生などが来て、
いじめを受けていたことに江崎は質問攻めにあって、
ついに本当にやられているイジメのことをすべて自白した。
それからいじめをしたやつらが生徒指導に呼ばれ、
家の人たちが呼び出さされイジメがなくなった。
それから俺と江崎は仲良くなっていったように思う。
そしてルナが見せてくれたこの写真は、
江崎と遊園地に遠出に行ったときの写真だった。
僕と江崎を休みの日に遊園地に僕の親が連れて行ってくれて一緒に遊んだ。
ジェットコースターに乗ったり、観覧車に乗ったり、
いろいろな乗り物に乗って本当に楽しかった。
でも休みが終わったら江崎は転校していった。
うわさではまだイジメが続いていたらしく、
先生にちくったということで報復を受けていたと聞いた。
すべて僕のせいだと僕は自分で自分をゆるすことが出来なかった。
しかし、イジメはいけないことであって先生に絶対に言わないといけない。
イジメが当たり前になっては絶対にいけないと思ったからだ。
遊園地に遊びに行ったときの最後の言葉が忘れれなかった。
「由真くん 僕を助けてくれて本当にありがとう。」
ぜんぜん助けてないじゃねえかよ!と、
僕は強い怒りに駆られたことも事実だった。
それからまったく音沙汰も無いまま今日まできてしまったわけである。
「まぁ たしかにこいつの名前も『江崎』だから、
妹か親戚の人なんだろうな。」
「それならなんで由真のこと知っていたの?」
「前にこいつと遊園地にいったことがあって、
それで家族とかに話したんじゃないのかな?」
「でも有香ちゃんは由真と出会ったような感じだったよ?」
そうなんだ、そこが僕にも引っかかるところだった。
あの時は妹は居なくて江崎一人だった。
「なんでだろうね?
僕にもさっぱりそこのところはわかんないよ。」
時計を見たらもう夜の10時を回っていた。
僕とルナは軽めの食事をしてすぐにお風呂に入った。
そして自室に入って寝る事にした。
次の日の朝、
《ピンポーン、ピンポンピンポンピンポーン》
朝の静寂をさえぎるように、
家のチャイムが連続して鳴らされ僕とルナは目覚めた。
「こんな朝早くからなに?」とルナはTシャツ姿で現れた。
僕もTシャツ姿で玄関に向かった。
《ピンポーン、ピンポンピンポンピンポーン》
何度も鳴らされすごく腹が立って玄関のドアを開けた。
「さっさと起きて玄関を早く開けないか!」
百合姉さん! 今日はどうしたの?
というかこんな朝早くから何しに来たの?
「おまえらの生活を見に来いと言ったのは由真、お前だぞ?」
ルナも何が起きているのか判らずに呆然と立ち尽くしていた。
「おい 由真!お前は瑠奈に、
こんな姿で家の中をうろつきまわらせているのか?」
なに?とおもってルナを見たら、
僕のTシャツに下着姿で玄関の前に立っていた。
「あ! ルナさっさと着替えて来い!パンツ見えてる!!!」
ルナは急いで部屋に戻っていった。
「さてと説明してくれるよな? 由真。」
そういえばルナにはこっちに来てから洋服などを買っていない。
だから家の中ではぼくの服をよく着ていることが
多かったことに今さらながら気が付いた。
「ルナが来てからいろいろとありまして、
洋服を買っていなかったのです。すいません。」
百合姉さんは(本当にこいつらはしょうがねえな・・・)と言う顔をして、
「由真!車のトランクのもの全部もってこい」といって鍵を放り投げてきた。
トランクのなかにダンボールがいくつもあった。
「それを運んでしまったら、助手席のものと後部座席のものも持って来い。」
すべてのものを家の中に運び入れた。
「百合姉さんこれは一体何?」と聞いてみると、
「由真にはまったく関係の無いものだ。
瑠奈が着替えたら呼んで来い。」
まったく人使いの荒い姉さんだとおもってルナの部屋にいった。
「ルナ! 百合姉さんが呼んでるよ。
さっさと着替えて降りてきなってさ!」
そういったら部屋の中から
「もうすぐ着替え終わるからそこで待ってて!」といわれた。
さすがにルナも下着姿で降りてきたことはやばかったと感じていたらしい。
しかし百合姉さんが朝早く来すぎるんだよ!とやっぱりちょっとむかついた。
ルナの着替えが終わって一緒に降りて百合姉さんの居る居間に入っていった。
「百合姉さんごめん ルナを連れてきたよ。」
百合姉さんはやっと来たかという顔をしてルナを呼んだ。
「瑠奈、そこのダンボールを開けてみな。」
ルナは一体なんだろう。と言う感じでダンボールをあけたら、
洋服がたくさん入っていた。
「由真のことだから瑠奈の洋服まで考えていないとおもってな。
お古だが着れるもの持ってきた。」
ルナがダンボールから次々と洋服を出してはあわせては喜んでいた。
「百合姉さん本当にごめんなさい、そして本当にありがとう。」
僕は百合姉さんにお礼を言った。
「由真、お客人にお茶のひとつも出さんのか?」
百合姉さんめ・・・せっかく感謝してお礼を言ったのに
台無しにしやがって・・・
でもルナがすごく喜んでいる姿を見ると、
怒りも笑顔に変わるのだから本当に不思議だ。
「百合姉さん お茶をどうぞ。」
「ありがとうな。一番茶で濃くしてくれたらなお良い。」
「百合姉さんのお好みの味に仕上げておきました。
ちゃんと濃い目にしてあります。」
「うん それなら問題なしだ。」
「それはそうと、こんな朝早くから、
ルナの洋服を持ってきただけってことはないでしょうね?」
「お! 由真さすがにお前でも、
そう言うところはしっかり頭が働くようになったか!」
「瑠奈! ダンボールの洋服は後回しでいいからこっちへ来い!」
ルナが大喜びでこっちに来た。
「今回、お前達のとこに来た本当の理由はこの中にある。」
といってルナに箱を渡した。
「開けてみろ!」
僕も何が入っているのか興味がわいてルナと一緒に観てみた。
ルナが箱を開けるとそこには真新しい高校の制服が入っていた。
「高校編入学試験、合格おめでとう! 瑠奈。」
僕もルナも大喜びでその場から立ち上がって喜びを分かち合った。
すごく嬉しくてルナも僕も抱きしめあったりして喜び合っていた。
ルナが喜びのあまり泣き出してしまい、
もう抱きしめられずにいられなかった。
「よく頑張ったな ルナ、本当におめでとう!」
ルナは泣きながら声も出せずに、うんうんとうなずいていた。
「こちらにまですごく喜びは伝わるのは良いことだが、
それ以上そのままでいたらどうなるかわかってるよな?」
ルナと僕は強く抱きしめあっている姿を見て、
さすがの百合姉さんもちょっと怒り始めていた。
でもルナは嬉しさいっぱいで興奮がやむことが無く。
「百合お姉ちゃん、本当にありがとう!」と言い出して、
百合姉さんに抱きしめ始めた。
「はいはい。もうわかったから落ち着こうね。」と言って頭をなでていた。
本当にルナは嬉しかったんだな。本当に良く頑張ったな。
僕もルナという妹を誇りに思った。
ルナはずっと百合姉さんを抱きしめ続けていた。
百合姉さんもやれやれと言った感じでずっと頭を撫でていた。
やっとルナが落ち着いたので、
「ルナ、部屋に荷物を持って行ってちゃんと片付けて来なさい。」
と百合姉さんが言った。
ルナは「本当に百合お姉ちゃんありがとう!」
と言い尽くせない感謝の言葉を言って部屋に荷物を持っていった。
「ところでさ。百合姉さんに話があるんだけど。」
「そう来ると思ってた、こっちもちょっと話があるんだ。」
やっぱりそういうことで来たか。
僕は百合姉さんの話を聞くことに決めた。