第十話;学校の帰り道
試験も無事に終わり一安心した僕とルナ。
ひとつ気になることがある。
(僕は一体何の用があって呼び出されたんだろう?)
付き添いと言うことで来るのは当たり前なんだけど、
呼び出され方が普通に用事があって呼び出された感じがしてならない。
でも何事も無かったからいいとしよう。
「ねえルナ、今日のテストはどんな感じだった?」
「うーん・・・まぁまぁな出来かな♪」
「合格は出来そうなくらい手ごたえはあった?」
「そんなのわかんないよ。
テストの合格点が決められていないようなんだもん。」
テストの合格点が決められていない?
そんな出題形式のテストが実在するのか?
「もう一人の子も言ってた。このテストおかしいねって。」
もう一人の子?
「今日の編入試験ってルナだけじゃなかったの?」
「うん、もう一人一緒に受けた女の子が居たよ。
名前はうーんと・・・なんだったっけ。」
「もう一人の子の付き添いの人を見てないよ?一人で来たのかな?」
「どうなんだろうね?付き添いは居なかったと思うよ。
終わったら一人でさっさと帰っちゃったんだもん。」
今日の編入試験にもう一人の女の子が居た。
どんな子なんだろう?
「あ!由真! 今さっきもう一人の女の子のこと気にしてた。浮気者だ!」
普通に気にするだろ!浮気とは違う。
今日のテストには僕からしてみてもすごい疑問がある。
特進科コースを作るにしてもカリキュラムがおかしいし、
あれでは単位が取れるように思えない。
それにありえない授業時間だ。 普通に認められるとは思えない。
それだけでない、
テストの合格点が決められていないテスト問題って一体なんなんだ?
ルナに聞き出したいところだがテストが終わったばかりだ。
はっきりいって忘れたいと言う気持ちもあるだろう。
テストの話はそこまでにしておいた。
「ルナと一緒に受けたと言う女の子は、ちょっと気になるなぁ!
可愛い子だった?」
「えっとね、長い綺麗な黒髪の女の子だったよ。
美人って言うより可愛らしい感じの子かな。」
(可愛らしい子か。見てみたかったな。)
「由真の知ってる人かもしれないよ?
お昼休みの時に一回、扉を明けて由真をみたら驚いていたから。」
「は? 僕の知ってる人?
黒髪の長い女の子って知り合いに居ないと思うよ。」
「いやいや、髪は伸びていくし、髪の短い時に出会っていて、
伸ばして今はロングになったってこともあるよ。」
(それなら中学校の時の同級生かな?)
「名前とか思い出せる?」
「なんだったっけ・・・えっと・・・江崎有香だったかなぁ。
そう言う名前だったと思う。」
(江崎有香? ぜんぜん知らない。
そんな子 知り合いに居たっけ?)
「由真って人の名前を覚えないからなぁ。
私のこと時々『りな』って呼ぶときあるの知らないでしょ?」
「それは絶対にうそだぁ! ルナってちゃんと呼んでるよ!」
「本当にそう思ってる?
ちゃんと私のこと忘れないで名前を呼んでくれてる?」
なぜだろうルナの表情がちょっと変わったような気がする。
「あのさ、ルナ。もう僕たちさ兄妹だぞ。
ちゃんと妹のこと大事にしたいって思ってるから安心しな。」
「それなら問題なし! 由真お兄ちゃん♪」
ここ最近、本当に僕はルナと仲良くなったような気がする。
本当に大切にしていきたい、
守って生きたいと思うようになっている自分が居る。
ルナは僕のことどう思っているんだろう。
大切に慕ってくれているのか、
本当のお兄さんのように思っていてくれているんだろうか?
すごく不安な気持ちが僕の心の中にはあることは事実だ。
でも今を大切に思うのであるのなら、
僕は何があってもルナを守り続けたい。
そう言う気持ちでいっぱいなことも事実であった。
「おなかすいてない?」
「もうお腹ぺこぺこで何か食べたい・・・」
「何を食べようか?
この時間にあいているところって言うと
コンビニ、ハンバーガーショップ、定食屋・・・」
定食屋さんは8時に店を閉めるからもう無理かな・・・
ファミリーレストランに行くには電車に乗らなくてはいけないけど、
電車を待っている時間がもったいない。
「ハンバーガーショップ行って、
コンビニに帰りに寄って帰るか!」
「うん♪ 賛成!」
「なんか僕ってさ 妹に甘くない?」
「そう? 私は兄弟姉妹っていなくって一人っ子だから。
兄ってどういうものなのか知らないからわかんない。」
「ルナって一人っ子だったんだ、
てっきり兄弟姉妹とか居ると思ってた。」
「え? 私ずっと一人っ子だったよ、
だからお兄ちゃんが居るってすごく不思議な感じ
だからすっごく嬉しい。」
「僕も一人っ子だから妹との接し方って判らなくって本当にごめん、
だけど僕も嬉しいよ。」
「それなら今日は兄妹になった記念のお祝いだね♪」
「ハンバーガーショップでか?」
「何処だっていいんだよ。
そう言うお祝い事って言うのは気持ちの問題!」
たしかにこういうものは気持ちの問題だ。
人をを祝ってあげるということがすごく大切なことであって、
豪華な食事じゃ無いといけないと言うことは決して無い。
心から『おめでとう』と思う気持ちがすごく大切なことのように思う。
一言でもいいから『おめでとう』という、
心から祝ってあげるという気持ちだけでも、
心は暖かくなるものだと僕も思う。
「さてと、ハンバーショップの道ってどう行ったらよかったっけ?」
ルナは僕の顔を見て、
(私が知るわけ無いじゃん・・・)という顔をした。
「ここを曲がれば、あ!看板見っけ!」
(もうシッカリしてよ・・・)という目つきでルナは睨んでいた。
僕の町にはハンバーショップはたった一軒しかない。
僕の町は田舎で学校が終わったらひとまず家に帰る。
いつ決まったのか判らない暗黙のルールというものがあり、
一度帰ってから友達などと集まってこういう店に行く。
だからこういう店にいるのは
グループで入って席を占領していることが多い。
しかも僕の通っている学校は
外出は制服で行くことと校則で決まっているので、
私服姿の生徒はほとんど居ない。
それは夏休みも例外ではなく必ず制服を着ているので、
同じ学校の生徒だと言うことがバレバレである。
もちろん今日は僕も制服姿だ。
学校に行っているので当たり前といえば当たり前なのだ。
僕の学校は男子服はワイシャツにブレザーという、
意外と洒落た制服に仕上がっている。
女子の制服は襟元にリボンもしくはネクタイと、
自由に選べるようになっていて、
女子の制服は着方によって
違う感じに見えるのが特徴になっている。
バーガー店に入ると同じ学校の生徒が店内を埋め尽くしていた。
「席、空いてるかな・・・。」
娯楽施設や行くところがまったく無い田舎の光景というべきか。
行くところは限られているのでこうなることは予想していたが、
ここまでとはおもっても見なかった。
「ルナは何が食べたい?」と横を見ると居ない・・・。
どこに行ったのかと思ったら柱に貼ってあるメニューをみて、
すごく興奮した状態になっていた。
「由真! なにこれ!すごい!
全部美味しそうでどうしていいのか本当にわかんないよぉ!」
一回も連れてきたことが無くて、もちろん食べたことがなく、
メニューの美味しそうな写真を見て興奮状態だった。
「どれでも好きなものを頼んでいいよ。」
「由真は何にするの?」
「僕はダブチーにポテトLにコーラL氷無しで決定かな。」
「え? もう決まっちゃったの? 私はえっと・・・本当にどうしよう!」
ハンバーガーショップでここまで興奮してる人は、
さすがに僕は見たことはない。
「えっとね なら私はこれにする!!!」
「飲み物は?」
「よくわからないから飲み物は同じでいいよ。」
ただの色だけで判断して味はわからないからと見た・・・。
ちょうど席が空いているところが見つかったので、
ルナにそこで待っているようにしてもらった。
いわゆる『席取り』というものだ。
レジで注文をしてお金を払ったら、
「席にお持ちしますのでこの札をお持ちください」といわれ、
札を持って僕もルナのいる席に行った。
ルナはびっくりした様子で「食べ物は?」と聞いてきた。
「この札を持って席で待っていろってさ。店員さんが持ってくるよ。
もうしばらくの辛抱だから待っててね」
ルナは待ちきれない様子のようで、身体を左右に振ったりしていた。
『お待たせしました。ご注文は以上でよろしいですか?』
店員さんが持ってきて問題なかったので「はい 大丈夫です。」といった。
「これがルナの頼んだものだよ。」
四角い箱に入っていて中が見えない状態になっているため、
ものすごくワクワクしながら開けようとしている姿につい笑ってしまった。
「早く開けて食べないと!」
僕の注文したダブチーは袋に入っているので開いて食べ始めた。
「こういう食べ物って初めて食べる! すごく緊張する!」
僕はあまりパンは食べないのでパン食自体も初めてなんだろうな。
ルナは箱を開けてすごく大きなバーガーに感動していた。
「こうやって持ってバクッと食いつくように食べる!」
ルナは教えたように食べようとしたけど口が小さくって
上から下までかぶりつけないようだった。
もうそれが面白くってやっぱり笑ってしまった。
「由真 笑いすぎ!」
中学生の時、こういうデートに憧れていたことを思い出していた。
でも、ルナと居ると本当に楽しかった。
僕はバーガーを食べてからポテトを食べようとしたら、
「それなに?」とルナが聞いてきた。
「ルナの分もちゃんと買ってあるぞ、
目の前にあるやつ、ポテトだよ。」
「ルナは恐る恐る口の中にいれ、
美味しかったのか一気に一本目を食べた。」
「これすっごい美味しい!」
「ナゲットも買ってあるぞ。
このソースをつけて食べるんだよ。」
ルナは次々と美味しいものを食べていて本当に幸せそうだった。」
その姿を見ている僕もすごい幸せな気分になった。
「学校を合格したら、またお祝いしないとな。」
「うん、ありがとう♪ 次のお祝いもここでやろうね♪」
「ハンバーガーショップかよ!」
ルナのお気に入りの場所に決まったようだ。
「うん! だってまだ食べてないものがたっくさんあるんだもん!」
ルナはメニュー完全制覇をめざすことに決めたようだ。
お腹がいっぱいになり
ポテトを食べながら飲み物を飲みながらという一息中。
こういう一息がなんかいいよな。って思っていると、
「瑠奈さんでしたよね。ここでまた逢うとは想いませんでした。」
「あ! 有香ちゃん! 有香ちゃんも何かのお祝いにきたの?」
僕は声のした後ろを振り返ると長い黒髪の女の子が立っていた。
「由真さん・・・いたんですね。 えっとお久しぶりでいいのかな?」
「有香ちゃん 私のお兄ちゃんだよ。 お兄ちゃんと知り合いなの?」
(だれだっけ・・・本当に思い出せない。)
「お兄さん? 由真さんって妹さん居ましたっけ?」
「親戚の子でうちで預かったんだけど、
養子に迎えて妹になったんだよ。
そういえば今日はルナと一緒に試験を受けたと聞いた。
うちの学校に入るの?」
「そうですね。
編入学試験に合格したらですけど、入ろうと決めています。」
「ルナと一緒に合格できたらいいね。
ルナにも友達が出来てよかったと思うよ。」
その言葉を聞いて何も言わずお辞儀をしてすぐに有香は去っていった。
「僕さ、なんかあの子に悪いこと言ったか?」
「たぶん由真が有香ちゃんの事、
気付いていないことに気が付いたんだと思うよ。」
「でもさ、僕は本当に誰かわかんないんだよ。」
(中学の時にあんな子っていたっけ?
顔をはっきりと見たのにぜんぜん思い出せない。)
「思い出してみたらどうかな?
古いアルバムとか探してみたら見つかるかもよ?」
そうしてみようかな。やっぱり気になるから。
家に帰ってアルバムを見ることに決めた。