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第九話 魔法のアーティファクト

白服の集団と、異形どもによって坑道に閉じ込められ、そしてお志乃ちゃんと共に脱出した翌朝。


「おい、起きろ!」


お志乃ちゃんと全裸で毛布の中で抱き合い、夢心地で眠っていた僕を起こしたのは影狼かげろうだった。


「どうしたんですか?」


「大量の蜘蛛の化け物がこの天幕を襲撃しようと集められているらしい。ここは一旦退却し、本拠地である天草まで戻りたい。お前達も死にたくなければ防具をつけて俺達と来るんだ。いいな?」


「はい」


「お前達の防具は今調整員が用意している。あそこにいる男に聞いてくれ。俺は周囲を護らねばならん。神のご加護を」


影狼は俊敏に立ち上がり、天幕を出ていった。お志乃ちゃんが眠そうに目をこすりながら言った。


「化け物? また私たち捕まるの?」


「大丈夫、僕が絶対に守る」


僕たちは調整員に話しかけた。安機羅あきらと名乗った、その少年っぽい顔をした兵士は、僕とお志乃ちゃんに、小ぶりの鎧を差し出して言った。


「ごめん、ちょっと時間がなくて出来は今ひとつだけど、化け物の攻撃を1回くらいは受け止められる強度はあると思う。一緒に生きてここを脱出しよう。いいね?」


「はい」、と僕たちは答え、皮で出来たその鎧を身に着けた。僕たちがもたついていると、安機羅は手慣れた手つきで手伝ってくれた。


「よし、強度は今ひとつだけど、見た目も寸法もぴったり。さあ、ここを出よう。僕が案内する」


僕とお志乃ちゃんの手を引き、立ち上がろうとした安機羅に、何者かが声をかけた。


「安機羅。その二人にも武器を渡しておいてくれ。自分の身は自分で守ってもらわないといけなくなりそうだから」


「はい、隊長」


見ると左目に遮眼帯しゃがんたいをした、唇の上に小さなひげを生やした生真面目そうな男が、僕とお志乃ちゃんを見ていた。その男が手にしている武器を見て、僕は思わず叫んだ。


「それは、弓ですね! 僕は弓に自信があります。その武器を使わせてください!」


「ほう……。安機羅、弓と矢に余裕はあるか?」


「いえ……、残っているのは槍と刀と脇差だけです」


「そうか……、わかった。坊主、この弓をお前に貸そう。絶対に生き残って、その弓を俺に返せ。それは俺の宝だ。わかったな?」


「え……」


僕が答えに困っていると、構わず隊長と呼ばれた男は僕に弓を押し付けて、自分は槍を持ち、安機羅に二言三言告げると僕たちには目もくれず、天幕を出ていった。僕は受け取った弓を見てみた。硬そうな木でつくられたその頑丈な茶色の弓には、金色の装飾が施され、緑色の宝石が埋め込まれていた。


「それは魔法の弓だよ。それを持つ者は弓のスキルが上がり、おまけに回復の効果も得られるという、優れもののアーティファクトだ。これはお守り役の僕も、責任重大だな」


安機羅が優しい表情で笑った。


「スキル? アーティ……、ファクト?」


「詳しい話はあとだ。君はお志乃ちゃんだっけ? 女の子にはこれがいいよ。周囲にシールドを張ることが出来る、防御の呪文がかけられた脇差だ。持っているだけで効果は発動するから、決して手から離さないようにね」


「は、はい」


巨大な青い宝石の埋め込まれた金属製の脇差を、お志乃ちゃんは手に取り、うっとりとした表情で眺めた。その瞬間、僕たちの周囲の空気が振動し始めたように感じた。


「じゃあ僕はこの攻撃力増加の刀を。攻撃力アップと弓と回復とシールド。これでなんとかなるはずだ。二人とも僕から離れないで」


「はい」


安機羅に導かれて天幕を出ると、すでに外では戦闘の準備万端だった。隊長が僕たちに気づいて言った。


「坊主、絶対に生きてここを抜けろ。天草城でまた会おう!」


「は、はい!」


「さあ、こっちへ!」


 安機羅がうながし、僕とお志乃ちゃんは天幕を後にして、下山のための小道に早歩きで向かった。その道中、僕はずっと隊長の最後の言葉の意味を考えていた。天草城……、時の将軍・天草四朗時貞の居城と僕たちに、何の関係があるのだろうと。


(続く)

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