第七話 出口
ぬるぬるとした穴の中を、僕とお志乃ちゃんは、時折休憩をしながら昇っていった。途中のオレンジ色の灯りが漏れている部分では、僕はわざと進むスピードを上げた。そうしないとお志乃ちゃんが、またおかしくなってしまうかもしれなかったからだ。
いや、僕自身もおかしくなりそうだった。殺された父、男達に連れていかれた母、そんな色々なものが頭の中浮かんできて、僕は絶叫しそうになった。僕は両手を握りしめ、そんな感情に耐えた。お志乃ちゃんが僕の足首を優しくなでてくれて、僕の心はなんとか落ち着いて、再び上を目指して昇っていった。
穴の出口に近づくと、上から冷たく強い風が吹き降ろしてきて、身体が急速に冷え、がたがたと震えた。お志乃ちゃんが無事か確認したかったが、穴の外に誰かいるかもしれず、迂闊に声は出せない。僕は歯を食いしばり、必死で周囲の泥をかいた。そして僕は、ようやくのことで、穴の出口までたどり着いた。
ガシャッ。ゆっくりと穴から顔を出そうとした時、顔に何かが当った。穴の出口が、太い針金で作られた金網で閉じられていたのだ。両足をしっかりと泥に埋めて、両手で頭上の金網をゆすってみる。それはどのような仕組みで固定されているかわからないが、びくともしなかった。何度も何度も、僕は金網をゆすってみた。でも状況は変わらなかった。僕はパニックになって、声を上げそうになったが、またお志乃ちゃんが僕の足首に触れたために、正気に戻った。
そうだ……、壁の泥に穴をあけて……。
僕は壁の泥に爪を立てた。柔らかい土はぼろぼろと崩れて下に落ちていく。お志乃ちゃんの頭に降り注いでいるかもしれないが、今はそんなこと、気にしていられない。僕は一心不乱に壁を掘った。だが……、ガリッ、という音がして指に激痛が走り、僕は悲鳴を上げた。
「痛ッ!!」
指先をそっとなでてみる。暗闇のために、怪我をしたかどうかなどは全く分からないが、ぴりっとした痛みが走った。その時……、頭上の金網が外され、誰かが穴を覗きこみ、小声で言った。
「誰だ。村の者か? 大丈夫か?」
男の声だった。彼は僕に手を差し伸べ、その手首をつかんだ僕を軽々と引きあげた。
「もう一人、女の子がいます」
「わかった」
僕は地面に横になった。小石が肌に当って痛かったが、それよりも筋肉の疲れを癒したかった。やがてお志乃ちゃんも引っ張り上げた彼は、僕とお志乃ちゃんに小声で言った。
「二人ともよく頑張ったな。俺は幕府の者だ。少し遠いが山の中に見張り小屋を建ててある。そこまで行けば温まれる。さあ、俺に掴まれ」
男は星明りの下、両手を僕とお志乃ちゃんに差し伸べた。右手でお志乃ちゃんを、左手で僕を抱きかかえた男は、山へ向かって力強く歩き出した。お志乃ちゃんの手が僕の左手を握った。その手は小さく激しく震えていた。