0-4. prologue2
「Zaks Eaglow」「Jean Corvo」
・聞け!彼の者の雄叫びを!深紅の瞳が朗々と輝き、剣は魔物を一刀両断に切り伏せた!
(とある英雄譚の一節より)
・彼らは捨て駒となる一兵卒でした。だからこそ、多くの者が更なる力を求めたのでしょう。
(当時を知る者の証言書より抜粋)
あまりにも知性にかけた野蛮な戦士だと感じていた。そして、その評価は今も変わらない。
幾ら武勇に長けているとはいえ、後先も考えず無謀な夢を追い求める姿は獣にも等しかった。傍らにいる友人たちの存在なくしては、おそらく早々に歴史の闇に葬られた存在であろう。そして、その一角が崩れたとなれば……
「……俺に何の用だ、ホークニウムさんよぉ?」
武勇に秀でていなければ、この男はとうの昔に無礼者として処断されたであろう。
ザクス・イーグロウ。豪胆さと武勇に優れた戦士であるが……それのみで英雄を志すと叫ぶのは、いかにも手駒として御しやすい男と言える。
・血縁により魔術の才が定められるのであれば、自ずと外見により見定める術も発見される。
調べによると、色素の薄い髪色には才が備わりやすいという俗説は既に証明可能であった。以下に調査方法を記す。
(遺伝学の論文より引用)
「ザクス、あんまり無茶しないでよ?」
ぎろりと睨む視線をものともせず、飄々と笑う若者。色素の濃い髪色の男達の中、亜麻色の癖毛は少しばかり目につく。ジャン・コルヴォは華奢とも呼べる体躯でも常に平然と振る舞った。
彼を凡人だの腰巾着だの揶揄する声は数多いが、私にはそうは思えない。彼ほどの処世術に長けた青年は、使い捨ての兵卒の中には存在しない。
だからこそ、私は得体の知れぬ予感を感じざるを得なかった。
戦闘、知識において、彼が「並」程度の能力であるのにもかかわらず、突出した者たちと肩を並べて話せるのだから。
ページに挟まったメモ用紙:
作者未詳どころか執筆年代も絞り込めず。少なくとも編纂は後年。複数人の手が加わっている?実在の国家がモチーフか?魔術が何の比喩かは不明。フェニメリルに記述された「血」とコルヴォの「髪色」=人種に関する記述か。
先程の「生物教師」のメモを推測してみた。
彼がまとめたレポートのようなものも目にしたことがある。実にわかりやすいものだったよ。……彼も、学者を目指せばよかったのに。
まあ、それは置いておいて。
実は、あの物語が書かれた時代にファンタジー小説という概念はない。つまりは、何かしらの比喩を魔術やら錬金術として表現していることとなる。
……まあ、そうだね。民間伝承の怪物が、実際は異民族の比喩かもしれない……とか、そういう話にも近いかもしれない。
……偏見や、差別といったものは、いつの時代にも暗い影を落とすものだ。