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『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』   作者: 譚月遊生季
序章 その物語について
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0-3. 生物教師の本棚

少し、ボクが生きた時代の話をしようか。

日本でいう昭和時代……戦後から現代に移り変わっていく時期だ。


1981年、ボクは既にフランスへと旅立っていたが、同時期に妹の知り合いがあの本に興味を示していた。

「なんだこれ、ファンタジー? こんなのも読むの」


仕事の同僚が無理やり家に押し掛けてくるというのは恒例行事だが、本棚を見るのは珍しかった。


「俺は基本なんでも読む。……意外だな、お前はそういうのに興味がないとばかり……」

「いやエロ本探してた」


殴ってもいいだろうか。いつものことだからと受け流し、職場で食べたいと言っていたミートソースを冷蔵庫から出す。


「なんっか読みづらい文章だな……」

「日本語訳の初版は1900年代の始めらしいからな」

「うわ、もはや古文」

「……さすがにそこまでじゃない」


スパゲッティをゆでていると、相手がページの間に挟まったメモに気が付いたらしい。


「……なにこれ」

「いや、少し考察をな」

「え? ファンタジー小説だよね?」

「お前……あの新興宗教組織にも関わっている身でそれを言うか……」


とはいえ、俺もまだ途中までしか読んでいない。図書館から借りているため、書き込みまではできずメモに書いて挟んでいる。


「なんで王様こんなガキなの」

「権力が本人にないんだろう。飾りのために置かれ、立ち居振る舞いだけ求められれば当然嫌にもなる」

「わかる。俺も会議だるい」

「それはおそらく違う問題だ」


文学などに興味を示さない快楽主義の男だが、意外に心惹かれたらしい。

その小説は、ヨーロッパに残された伝承を寄せ集めて一つの物語にしたものか、それとも何かの都合で人物毎にストーリーがわけられたのか……。二つ目のプロローグが突如挿入されたり、章立てが特徴的だったり、定型とは違う点が多少気になる。作者の表記が複数人であることも興味深い。


「生物学的見解から言えば魔術ってどう?」

「ストゥリビア一話のことなら、魔術というより摩擦熱の類で火を起こしたように見える。おそらく手品に近いかもしれん。賢い青年であることと同時に、ユーモア好きだとフェニメリルの一話にも書かれていて」

「あ、ごめんちゃんと読んでなかった。火起こすとかめっちゃ絵面映えそうだな」

「……まあ、舞台装置としては見映えするだろうな……」


タイマーが鳴り、そちらに向かう。勝手に人のベッドに寝ころびながら、奴は独り言のように言った。


「その場に適応して生きるってさ、それまでいた場所のもん全部捨てるってことよな」

1981年 3月29日追記

職員会議の帰りに友人とやらが家に来た。詳細は上記の通り。

次郎、友はよく考えて選べ。

(同じ本棚にあるノートより)




……彼も、文学的な観点から分析や考察を試みている。

物語に描かれた人格から行動の必然性を推察しているようだね。


さて、彼が述べた「2つ目のプロローグ」だが、現物を見た方が早いだろう。

……どんなことでも、片側の視点だけでは偏りが生まれる。ボクがこの作品に魅せられた理由は、そこにある。

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