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0-22. ある小説家と画家の会話

アルマン・ベルナールド版について語ることはもう少ない。

その後の物語は、落ち延びた王と生き残った側近、故郷に帰った戦士達……彼らを生かすために理由づけをしているに過ぎないからね。それはそれで物語にはなるが、筆の勢いは目に見えて衰えた。


モチベーションの低下だろう。

彼らの魂を描けば描くほど、その死を肯定せざるを得なくなる。それに耐えきれなくなったのかもしれないし、またしても誰かの死を目の当たりにしたのかもしれない。真相はわからないがね。




ここまで言えば、より史実に沿ったジョージ・ハーネス版の展開にも予想がつくだろう?魔術の設定は見事に投げ捨てられたが。


「……史実通りなら王様はギロチン送り?だって、フランス革命の話でしょ?」


カミーユ、フランス革命の時期ではないよ。もっとも、舞台背景として参考にはしただろうがね。

産業革命期であり、近代へと移り変わる時期であり、諸国民の春と謳われた時期だ。


「あー、そうなんだ。歴史詳しくないんだけどあれだよね。フランス系カナダ人的にはそこそこ大事な時期だった気がする。忘れたけど」


まあ、キミの先祖にとっては非常に大事な時期ではあるね。

何はともあれ、ジョージ・ハーネス版は死を描いている。あえて目を逸らさなかった。

キミならその理由がわかるはずだ。


「死は生においていわば必須要素。目を逸らし続けたところで「彼らの真実」にはなり得ないからじゃないの?」


見事だ。さすがは死に快感を得るだけはある。


「違うから。他殺じゃないとダメなんだよね僕。あ、事故とか未必の故意とかでなく明確な殺意ね?できたら壮絶な苦しみを」


君の変態的な趣味は置いておいてモノローグに戻ろう。


「えっ、もうモノローグじゃなくない?」


さて、ジョージ・ハーネス版に描かれるのはとある参謀が処刑されるまでと、いずれ巻き起こる戦乱の気配だ。語るまでもなくバッドエンドだが、単なる悲劇ではない。


ジャン・コルヴォはこちらの版では命を落としている。

これは、友人の死を悼むある男のシーンだ。







『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』より、「Eaglow-Ⅱ」




旅の楽士を殴り飛ばし、ザクスは息を荒げて立っていた。


「……クソが……ッ」


モーゼを殺そうとしたのがジャンだと、裏切りを見抜かれて殺されたのだと、私の師は見たものも交えて告げた。

下手に暴走されては困る。この純粋すぎるがゆえに始末の悪い男をどうにか落ち着かせねばならない。と、尊敬する師は私に諭した。


私たちは犠牲を容認する立場にはない。

音楽家は壁を伝って立ち上がり、静かに語り聞かせる。


「……アナタがすべきは暴力を振るうことではない。それに意味はありません」


ザクスは、それでも拳を振るった。壁を殴り、彼は初めて私たちの前で泣いた。

大粒の涙が頬を伝い落ちる。


「ジャン……なんで、なんで死にやがった!!なんでそんなヤツらぶっ殺せって言わなかった!!」


行き場のない拳が、壁を打ち続ける。

何度も何度も拳を壁に叩きつけ、やがて膝をつき、項垂れた。


「暴力以外で生きることは難しい方だろうと、今まで思っていました」


それは、息子である私にとってもそうだった。

だが、そうではなかった。ザクスは私の師を殴りはしなかった。

殴って黙らせる手段を躊躇さえした。


「チェロ、ソーラ、聞かせて差し上げなさい。このスナルダ・ホークニウム、渾身の一曲をここに」


獣の心すら鎮めるような音楽を、聞かせたいと誓った。







こちらでは、スナルダという名は王の側近でなく旅の楽士のものだ。人物像があまりに異なりすぎるが、両陣営を知れる立場であることに変わりはない。

そう言えば、その点から書き手の立ち位置が絞り込める……と、知人が言っていたかな。


細かいことはさておき、語り手である「私」……チェロに着目すると、この話は彼が巣立つまでの成長物語となる。

おそらく、モデルとなった人物の名はシエル。確か、本名は──

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