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『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』   作者: 譚月遊生季
序章 その物語について
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0-2. Strivia-Ⅰ

「Levi Strivia」

・喉の渇きに耐えかねた彼の戦士は、ふらつき路傍の岩にもたれかかる。意識は朦朧。死を覚悟した彼の視界に赤と金が目に入る。

「これはこれは英雄殿。再び会い見えるとは……。はてさて、此度も数奇な運命を辿られているご様子」

焼け付く喉を抑え、蜃気楼の中に揺らめく賢者を凝視する。しばしの沈黙。やがて白き指先が、岩の背後に向けられる。

「前を向くのもよろしいが、探し物は常に先にあるとは限りませぬ」

(とある英雄譚の一場面より)




「寒いな」


と、呟くや否や、レヴィは指を鳴らして炎を作り出した。要らぬと判断した書類に燃え移らせ、暖を取っている。

危険ではないかと告げると、火傷ならもう何遍も、などとどうにも噛み合わぬ返事。

赤く燃える長髪に相応しい、炎を作り出す魔術。本人曰く、乾燥した空気であればあるほど使用しやすいらしい

暖炉を使えばいいのでは、と問うと、


「そういやここ暖炉あったな」


と独り言のように。何とも掴みどころのない青年である。仄暗い部屋に、静かに炎が揺らめく。


「で、話ってなんだ」


切り出し方を迷いつつも、彼の真意を問うべく口を開いた。

敵国に意図せず身を置くことになり、何故そこまで平気でいられるのか、と。


「仕方ねぇからだよ」


特に雰囲気も変えず、息をするようにその言葉は紡がれた。どういう意味かと尋ね返すと、彼はこともなげに答える。


「生きるためには場に適応するもんだろ」


やけに淡々と、暖炉に火をつけながら出てくる言葉。やはり私には理解できぬことばかり。故郷に未練はないのかと尋ねると、


「故郷って、どの?」


と、またしても気軽に吐かれた意味ありげな言葉。返答に困り沈黙する私に、今度は向こうから問いが投げられた。


「……あいつは?」


確かに、質の違う声色だった。相手に心当たりはあったが、次の言葉を待つ。


「ザクス……ザクス・イーグロウは、どうしてる」


沈痛な、声色だと思わせた。こちらを見ることのなかった金の瞳が、若者らしき揺らめきともに私をじっと見据えている。

戦場で活躍している、と伝え聞いたため、そのように告げた。


「……そうか」


帰ってきたのは、溜息に近しい相槌。


「じゃあ……長生きできねぇな、あいつ」


計り知れぬ哀愁。窓に広がる夕闇に目を遣り、何事か思案する背。私は無言で部屋を立ち去った。

若き賢人は、英雄を志す相棒の、華々しい勇姿より身の無事を望んでいたようである。その後、スナルダが部屋に行くまで、彼は遠い地を見つめていたらしい。

さて、それでは「Strivia」の解説と行こうか。

どこか掴みどころのない雰囲気の青年が描かれている。魔術……という概念がこの作品の時代にあったかどうかは微妙だが、それを「魔術」としたのは日本語翻訳者の赤松の表現だ。

原典では「Alchimie」……どちらかと言えば「錬金術」という意味になる。


ともかくだ。この「語り手」は赤毛の青年レヴィの生き方に理解はできずとも興味を示しているらしい。

ちなみにだが、この場合の「レヴィ」は、聖書のレビ記から取られた名前だろう。……ああ、理由は、先に進んだ時にまた説明する。


「仕方ない」……その言葉に乱世の気配と、どうにもならない諦観が感じ取れないかい?

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