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0-16.『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』より、「Pause-Corvo ep.2」

ページ上部の付箋:

ここからジョージ・ハーネス版独自の展開

・カラスはその時、救われたい一心でうそをついたのです。

されど、精霊はすべてお見通し。結局、すべてを見破られ、途方にくれることとなりました。

(とある寓話より)




「ああ、いたいた。お久しぶりです、「王の参謀」殿?」


媚びる、というよりは、茶化すような声が聞こえた。

旅芸人の宿は、質素な小屋や、酷い時は寒空の下と相場が決まっている。

だからこそ、私はその「現場」を目撃することができたのかもしれない。


「……何の御用ですか、「兄上」」


二つの声には、聞き覚えがあった。

片方は、独立国家の兵士、ジャン・コルヴォ。

そしてもう片方は……彼を、「兄」と呼んだ声の主は、

隻眼の若き参謀、ルマンダ・アンドレータ。


「最近、頑張ってるみたいだからね。……結構、貧民には好かれてるんだって?仕事の時とはまるで別人みたいに優しくなってるって聞くよ」

「……誰からお聞きになったのですか」

「僕だって、一応まだアンドレータから縁を切られてはないからね。どっちの様子も見れる立ち位置っていうのもある」

「なるほど。実に兄上らしい」

「それ、褒めてないだろ」


ジャンは、独立国家の兵士にしては髪の色が薄く、やけに目立っていたと聞く。……名のある家の落胤であること自体は、不思議ではない。

さらに彼はどうやら、独立国家と王政府、どちらの味方でもあり……言い方を変えれば、どちらの敵でもあったらしい。


「……演技だろ」

「貧民に優しくする私が、と仰りたいのですか」

「まさか。必要以上に厳しく王への背信行為を取り締まる「参謀」としての君が、だよ。つまり、今の君が偽物」

「…………」

「ルイン・クレーゼは孤児院の出だからね。偶然僕とは違って魔術の才があって、偶然僕の父親に好かれた」

「何を言いたいのか、分かりかねますが」

「忠告してるんだよ。……演技っていうのは、危険だよ。このままだと君は、役に殺されてしまう」


その時のジャンの声音には、嘘偽りなく義弟への情愛が滲んでいた。羨望や嫉妬も隠しきれてはいなかったが……私はその時、初めて飄々とした仮面の下の心を知ったのだ。


「「別人」のような演技なんか続けていたら、君はいずれ自分を見失うだろうね」

「…………兄上の言葉と思うと、含蓄がありますね」


切迫した感情を受け、ルマンダの声色にも、わずかに動揺が表れだした。


「……じゃあ、僕はこれで。……貧民はね、いざという時に君を守ってくれたりしないよ」

「その前に、私からもよろしいですか」


そこには確かな、苛立ちが滲んでいた。


「……レヴィ……いや、モーゼだったか……彼を手にかけようとしたのは、貴方か」


憤り、というより、深い悲哀から発せられたと感じた。

それに対し、ジャンは躊躇うことさえなく、平然と答えた。


「そうだ。僕にはね、ザクスみたいな腕力もなければ、モーゼみたいな頭脳もない。……生き残るために、親しい友人すら殺そうとする。それは、君も……その片眼が、覚えてるはずだよ?」

「……貴方が外道に落ちれば、さぞ恐ろしい存在になったことでしょうね」

「はは、今は外道じゃないって?」

「無論、そう思っていますが」

「あはは……。……「ルイン」として話してくれないのは……僕をもう、身内と認めたくないからかい?」

「……身内でなければ……。……」


その時、口をつぐんだルマンダの声色が、私にははっきりと、音を伴ったかのように感じ取れた。


『責任を負わされることも、ない』


……悲劇の義兄弟は、寒空の下、わずかな邂逅を果たし……

その後、二度と会うことはなかった。



ページ下部の書き込み:

コルヴォはイタリア語でカラス

クレーゼは「クレーエ」(ドイツ語でカラス)由来?

魔術絡みの記述が少なく、古典主義、ロマン主義寄りなアルマン・ベルナールド版と立ち位置が異なる。

(以降、書いては上から消しての繰り返し)




「ルマンダ」のモデルは筆者の一人でもあるラルフ・アンドレア子爵だ。……そして、ジャンのモデルはその義兄である放蕩息子、ジョゼフ・アンドレアとされている。

……この辺りは、ボクも判断が付きにくくてね。この義兄弟に実際何があったのか……なんて、いくら推測しても分からないことばかりだ。

ただ一つ、確かなことがある。

この2人は憎み合う仲でも、相容れない存在でもなかった。……時代の巡り合わせさえなければ、仲睦まじくいられたかもしれないね。

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