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『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』   作者: 譚月遊生季
序章 その物語について
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0-13. Eaglow-Ⅱ

「お?なんか話でもあんのか?」


私は、この男が全てにおいて気に食わない。彼は粗暴で乱雑、更には知性の欠片もない。


「あ?……なんで英雄になりたいかって?」


夢を追いかけるような男ではないと思っていたからこその疑問だった。彼が権力やら名声やらに興味があるとは、到底思えない。

それなのに、何故「英雄」を志すのか。


「英雄ってよ。すげぇ戦場にひっぱりだこで女にすげぇもてるじゃん」


……聞いたこちらが馬鹿らしくなる理由だった。

喧嘩と女と酒以外に興味が無いのか。この男は。


「戦えんならどっちについてもいいし」


ジャンの言っていたことを思い出す。彼は寝返りを恐れられるほどの力を持っている。どれほど野蛮な愚者だとしても、……いや、だからこそ、下手に刺激することすら恐れる脅威になるほどの……


私にも、誰にも決して持ち得ぬ彼ならではの力を、若くして手にしている。


「そういやチェロだっけ?親父とかお袋は?」

「死んだらしい。……なんか、俺が生まれる前に革命あったとかなんとかで巻き込まれて、苦労して……って感じ」

「ここそういうの多くねぇ?」

「……50年くらい前からそんなのばっかだって聞いた」

「ふーん」


この男には、配慮というものが欠けている。


「……親父の顔は知らない。母さんは、もう身を持ち崩してたし」

「……そっか。苦労してんだな」


けれど、情がないわけでもない。


「ザクス」

「あ?」

「お前、本って読む?」

「いや、全然」

「……なら、いいや」


私はザクス・イーグロウの物語の語り手であり……若き戦士がまだ少年と呼べる年頃に、恋した女との間に残した芽である。

彼はこの物語を読みはしないだろう。……私は、彼が嫌いだ。それでも、彼の戦いに生きる強さに憧れている。

「魔術」などに頼らない強さを、認めている。


「そんなに戦いたいなら、とっとと戦場にでも行って好き勝手しやがれ」

「……オレな、お前の弟?の歌、嫌いじゃねぇぞ」

「……俺の演奏は?」

「あー……」

「ふっざけんな!!」

「おう、もっと頑張れ!」

「わかったよいつか聞き惚れさせてやる!」


私の父の手のひらは、大きくて温かくて、力強い。

この場面には、物語の成立した時代背景が絞り込める記述がある。


……チェロは、父に複雑な思いを抱きながらも、憧憬の念を抱いていたのだろうね。

師匠はもちろん、苦しい時代を気ままに生き抜く父の存在も、大きな道しるべだったのだろう。……まあ、ボクにはクズに思えるけどね。カミーユ、キミにとっては嫌いなタイプだろう?


「嫌いっていうか……なんか、嫌なやつ思い出すから無理」


脳筋とインテリは相性が合わない。仕方の無いことだ。


「……インテリ……?」


よし、次の話に行こうか。

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