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『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』   作者: 譚月遊生季
序章 その物語について
17/57

0-12. 寂れた古書店

さて、ボクが生きた時代の話を少ししようか。

1970年代だったかな。少なくとも、キミが生まれる前だ。

ボクには友人はさほど多くなかったが、知人ならばそこそこいた。……その1人について、話すとしよう。

「お、龍坊!元気にしてたか!」

「見ての通りピンピンしてらぁ」


店主のハキハキとした声に、ゴロツキ風の男は気だるげに答えた。


「どうだい組の方は?」

「あんまそういう話しすぎっと目ぇ付けられちまうぜオッサン」

「今更何言ってんだ。こんなへんぴな所、とっくに変なヤツら御用達だよ」

「おうおう。いい返事なこって」


にやりと小気味よく笑い、タバコ臭いスーツを着た男はぐるりと店内を見渡す。


「つまんねぇもんばっかだな」

「そりゃお前さんみたいなのには分からねぇ良さだよ」

「馬鹿にしてんのか。ま、土産にテキトーなモン……お?」


ふと、平積みにされた一角の古ぼけた本に目が止まったらしい。乱雑に拾い上げる。


「アカマツなんとか?……どっかで聞いたな」

「聞いたことねぇ訳者だよ。それ一冊しか出してないし」

「マジで?何かどっかで……何だっけな」

「ヤクザもんのツテで有名とかじゃ?」

「あー、かもな」


適当に返事をしてパラパラと捲り、すぐにパタンと閉じる。


「無理」

「早すぎだろ」


読むことを諦めたゴロツキに、唐突に背後から声がかかる。


「……失礼、その本は?」

「うおっビックリした!」

「おお、お客さんか。いらっしゃい。外人さん?」

「ええ。クロードと申します」

「こりゃご丁寧に」


クロードと名乗った男は、件の本をじっと見つめ、厳つい節くれだった手から素早く奪うように取り上げた。


「これ、いくらです?」

「その一角は一律50円だよ。あそこの喫茶店なんかよりうんと安い」

「コーヒーに100円とか150円とかボッタクリだよな」

「ま、物価がどんどん上がるからねぇ」


しばらくパラパラと立ち読みしていた銀髪の男は、やがてカウンターにひらりと紙幣を置いた。


「お?100円もいらないよ兄ちゃん」

「受け取ってください。実は私も趣味で翻訳をしているんですが、この本に日本語訳があるとは知らなかった」


嬉しそうに語るクロードだが、やがて視線を感じて振り返る。


「何ですか?」

「……いんや?気にすんな」

「龍吾はこう見えてヤクザの若頭だ。喧嘩売るなよ?」

「おや?そうだったのですか。てっきり宗教団体のメンバーかと」

「……矢嶋の爺さんは金払いが良くてよ」

「まあそんなことだろうとは思いましたがね」


わずかに張り詰めた空気が険悪な色になる前に、クロードの冷たい声が糸を断ち切るように発せられる。


「私はあなたにまったく興味はありませんので」

「あ?俺も喧嘩売られなきゃ特に」

「まあ、でしょうね」


買ったばかりの古本を手に、クロードは足早に立ち去っていく。龍吾も呼び止めはしない。


「……ま、ああいうとこには価値のある本も眠ってるもんだ。見る目のねぇ奴らだな」



「オッサン、たぶん別のモン万引きされたぜ」

「あ!?先言えよ!」

クロード・ブラン。

ボクの知り合いの評論家だよ。……本人は自分を吸血鬼だと語っていたが……はてさて、真相はどうだろうね。今回の件には関係のないことだ。


彼も研究者気質でね。ボクに、この物語の奥深さを教えてくれたのも彼だった。

懐かしい話だが……思い出話は、また別の機会にしようか。


「えっ、思い出話まで聞かされる可能性あるの?嘘でしょ」


それくらい付き合ってくれたっていいじゃないか。暇なんだ。


「君図々しいってよく言われない?」


言われるとも!クロードには100回くらい言われたね!反省も後悔も未練もない!


「そりゃ未練はないだろうけどさ……!?」


さて、続けようか。


「図々しい……!!」

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