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『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』   作者: 譚月遊生季
序章 その物語について
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0-10. Strivia-Ⅱ

・賢者はどんな嘘でも見抜きました。そして、一通り問答が終わると、今度は旅人の方に問いを投げかけました。

「お前さん、この世で一番怖い言葉は何か知ってるかい?」

考え込む旅人に、賢者はにやにやと笑いながら言いました。

「時間切れ。答えはね、「当たり前」さ」

(とある童話より抜粋)




レヴィは、何でも器用にこなす青年であった。

彼が語る半生は聞く度に内容の変わるでまかせばかりではあったが、ホラ話だったとしても人を惹き込む巧みな弁舌だと評価している。


「おい! 楽器の手入れぐらいちゃんとしろ!」

「しろー!」

「してるっつの。めんどくせぇんだよこれ細かくて」

「スナルダさんに言いつけるぞ!」

「ぞー!」

「それは勘弁な! 後で菓子奢るから」

「約束な!!」

「やくそくー!」

「おう。俺が嘘ついたことあったか?」

「嘘しかつかないくせに」

「うん、だよな。俺も今そう思った」


旅芸人の子供たちと戯れている様は、賢者と呼ばれるほどの切れ者とは思えない。それどころか、如何にも庶民的な姿である。


「何してる」

「あー、ルイン? だったか。お前仕事は?」


ふらりと現れた癖毛の青年。ルインと呼ばれた彼は、仏頂面で子供たちとレヴィを見比べ、淡々と語る。


「ルマンダが大方やっていたから僕は暇だ。それよりチェロ、この前の続きが聞きたいか?」


真面目な顔で問うルインに、チェロと呼ばれた少年も興味津々といった様子で返す。


「聞きたい。とりあえず英雄と赤いドラゴンの戦いの続き!」

「よし、ならば聞かせよう。かの英雄は賢者から授かった秘宝の剣であたりの岩を砕き」

「待って、なんでドラゴンに向けないの」

「ドラゴンに当たって一本目は溶けていた」

「えっ、秘宝の剣2本あったの」

「違う。3本だ」

「多いね!?」


重ねて述べるが、ルイン本人は真面目な表情である。


「そして、砕いた岩から賢者の予言通り女神が現れ」

「待って!? 女神様なんでそんなとこいたの!?」

「悪さをして封印されていたらしい。何でもお菓子の食べすぎだとか」

「それで封印されちゃうんだ!?」


……信じられぬ話だが、ルインは至って真面目に語っている。

突っ込みを入れながらも楽しそうなチェロを横目で見ながら、レヴィも笑いを堪えるのに必死なのが見て取れる。


「……あ」

「ん? あー……」


足音が聞こえてくる。どうやら、何やら情勢に動きがあったらしい。

ルインは饒舌に語っていた口を閉じ、不穏な空気に怯えた子供たちは、レヴィの背後に隠れる。



何事か告げる兵士。場を震わせる声が響く。


「キサマら、それでも王に忠誠を誓った身か! 失態を晒しておいてそのように緩んだ態度とは……恥を知れ!!」


王の参謀、ルマンダの剣幕に思わず縮こまる子供たちを撫でながら、レヴィは平然と成り行きを見守る。


「申し訳ありません、けれど……」

「……弁解など無用」


その場が瞬時に凍てつく。ルマンダは、先天的に氷を操る魔術を身につけている青年であった。

……そして


「がっ、は……」


冷たい刃が、兵士の首元に深々と突き刺さる。鮮血を吹き出して倒れゆく兵士を、灰色の瞳が冷淡に見下ろす。


「その非礼、あの世で存分に悔いるがいい」


鮮血が廊下に流れ、庭に通じる石段も赤く染め上げられていく。見ていたルインは思わず眉をひそめ、小声で呟いた。


「……やりすぎだ」


その言葉を鼻で笑うかのように、ルマンダは告げた。


「この男は王に背く行為を過去に2度行っている。そして此度の失態……死をもって贖うのには充分というもの」

「……お前、最近カリカリしすぎだぜ。ちゃんと寝てんのか?」


レヴィをキッと睨みつけ、ルマンダは敵意を隠しもせずにカツカツと歩み寄る。


「私はキサマが気に食わん。どのような手口で取り入ったか知らぬが、その胡散臭い仮面、いずれ引き剥がしてくれよう」


まるで呪詛のように響き渡る言葉を残し、ルマンダは去っていく。

ガタガタと震える子供たちをよそに、賢者は独り言のように呟いた。


「……おもしれぇな、アイツ」


それを聞いたルインは、静かに呼応する。


「僕は……怖い」


沈んだ空気の色を、賢者の声がわずかに変える。


「なんで、世の中どこもこんな荒れてるか分かるか?」


思わず、注視したくなる声だった。向けられた視線に答えるよう、賢者は唇に弧を描いた。……深刻な様子など、欠片も見せない。


「面白くねぇからだよ。この、世界がな」


軽い口調で言い放つと兵士の死体のそばに屈み、見開かれた目を閉じさせる。そのまま指を鳴らして炎を生じさせ、凍えるような冷たさを、わずかに溶かした。


彼の、臆することなく気ままに振る舞う様子を、私は静かに見ていた。

この書き手の場合、「私」が誰のことなのか……。

まあ、答えはすぐにわかるだろう。次のページに進もう。

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