終-2
それからのこと。
おばさんに連れられて“つむろぎ”の協会に行った佳乃はこってりと叱られ、反省文やら罰則―孝己いわく、「“護り葉”を剥奪された上に、本に指一つ触れられない環境で延々と座学と運動を繰り返しながら自炊もしなくちゃいけない超面倒くさいやつ」だそうだ―やらで家族から離れていた。孝己はその間変わらずに学校生活を送っているが、図書館に行く習慣は消えていないらしい。一度追いかけて尋ねてみると、散々渋った挙句、鞄から一冊の本を取り出した。
「これ、まだ完全じゃないから」
古びた本。表紙に書かれたミミズ文字は、すっかり目に馴染んだものだ。
『小倉百人一首』。今回の事件の、はじまりの本。
孝己がパラパラと頁をめくってみせると、これまでにつむろいだ歌以外は、確かに真っ白ではないものの、ところどころ文字が消えて読めなくなっているものが多い。
「佳乃が招いたことだから、佳乃にさせればいいっていう意見もあるんだけど、俺や母さんはあんまり積極的じゃなくて。姉の奇行を予防できなかった俺の責任でって言って、引き受けた」
姉って言っても、もう俺のが二歳上だけど。そう言って小さく笑う孝己の頭をかいぐってやると、思い切り迷惑そうな顔をされた。なんだよ。
「それ、孝己が一人でやっているんだよな」
「定家いないし、母さんが手伝うほどでもないし」
「定家いなくなって寂しくないか」
「冗談。せいせいしてるくらい」
つん、と澄ましているけれど、時々誰もいない空間に呼びかけようとして止まる光景を見ている俺からしてみればただの強がりにしか思えない。
「ちゃんと別れの挨拶したのか」
「ん」
あの強烈な男は、確かに孝己の良き相棒だった。
しょーがないなー、と伸びをすると、ギョッとしたように身を引かれる。
「孝己一人じゃ心細いだろうし、俺が手伝ってやろう」
「は? それこそ冗談」
「いいだろ、乗りかかった舟ってやつだ」
先ほど以上に渋る孝己を兄貴分権限で説き伏せる。
見届けよう、最後まで。それが俺の役目だ。




