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つむろぐふたごのものがたり  作者: 燈真
第六章 兄と家族と院と歌人、その再会
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59/73

6-4

足を止めて息を整える。何度か、とおばさんは言ったが、実際に来たのは二回だけで季節も違うのだから正直地理が怪しかったが、記憶に縋れば案外どうにかなるらしい。目の前には後鳥羽院の屋敷の門が、入れるものなら入ってみろとばかりに、口を開けていた。前には門番らしき武士が二人。どちらも厳めしい顔で立っていて、この寒い中で足を止めた俺を怪訝そうに見ている。そうだ、いつもならここで定家が前に出ていたのだ。名乗ればすぐ通してくれたから、従者顔をして後にくっついていけば何の危険もなかった。では定家がいない今、俺はどうしたら良い?

 いい加減立ち尽くしている俺を本気で怪しみ始めたのか、門番二人が視線を交わす。あ、やばい。何でもない、ただの休憩を装って右を向き、不自然に見えないように気をつけながら歩く。駄目だ、正面突破できる自信がない。とりあえず壁沿いに歩いてみて、別の出入り口があれば今度こそどうにかして入らせてもらおう。そうやって注意深く探して探して、ようやく見つけたのは、生垣に沿って生える巨木。その枝が何本も、敷地内まで張り出していた。この時代の人間は総じて背が低く、多分一番低い枝にも台がなければ届かない。けれど、幸いにして俺の身長はクラスでも高い方だ。周囲を確認して、少し下がり助走をつけて、思い切り飛びあがり右手を伸ばすと、薄く積もった雪の奥にしっかりした樹皮の手ごたえ。両手で掴み直して勢いをつけ、逆上がりの要領で枝の上に身体を持ち上げた。多少揺れたが葉がないので大した音も出ない。代わりに雪がドサッと落ちたがやむを得ない。その代わり隠してくれる存在もないから本当に急がないとすぐ見とがめられてしまう。何本かの枝を足場に登りながら反対側に回り、生垣の上辺りで幹にしがみつきながら腰をかがめて、屋敷の中をうかがった。これでたまたま後鳥羽院と出くわしたらジ・エンドだ。逆に佳乃と出会ったらこれほどありがたいことはない。が、幸か不幸か上から屋内の奥の方は当然見られるわけがなく。話声も何も聞こえないので、意を決して不法侵入することにした。冷たさに耐えながらそろそろと腹ばいになって枝を伝い生垣を越え、一応すぐに身を隠せそうな場所にも見当をつけて、思い切って身体を落とす。雪が一気に落ちて音を立て、焦りながらも両手を離し、着地するなりそばの茂みに飛び込んだ。顔や服についた雪を払っていると、バタバタと足音が聞こえてきた。

「何? 誰かいるの?」

 扇越しに半分くらい顔を覗かせたその女性は残念ながら佳乃ではなかった。俺より少しだけ年上だろうか。濃い緑色の扇がこの季節に映える。ばれちゃまずい、いやでも、ここからどうやって動こうかなんて全く考えていない。ここでこの人が大声を張り上げて色々な人が出てきてしまっても困る。でもこのままやりすごしたところで、

「そこの茂みに隠れている紺の袖の方は誰です? 大人しく出ていらっしゃい」

 庭が白いせいで服の色までよく映える。危機。

「出てこなければ……人を呼びますよ」

「すみませんごめんなさいそれだけは許して下さい!!」

 両手を方より上に上げて大人しく投降する。招くのにしたがって近寄ると、項垂れた頭の上から「おや」と声が降ってきた。

「ずいぶんと背の高い猫だこと。おまけにずいぶん若いのではなくて?」

「……はぁ」

「それで? 院の御所にわざわざ不法に侵入してきたということは、よっぽどのお馬鹿さんかよっぽどの秘密裏かつ危急の事態ということなのだろうけれども、貴方はどちらかしら?」

 思わず見上げると、扇の奥の瞳が面白そうに揺れている。何だろうこの人。タダものじゃない気がする。ちょうど良い、というか他にどうしようもないので、正直に聞いてみる。

「あの、ここに、佳乃という名の女の子はいませんか。俺、その子を探してきたんです」

「……巫女様を?」

「……巫女様?」

「えぇ、巫女の、佳乃様でしょう?」

佳乃が、巫女? どういうことだ。詳しく聞こうとした直後、もう一つ爆弾を落とされた。

「三か月ほど前かしら、ひょっこり現れたのよね。常人ではあり得ない御技をお使いになったことで院に気に入られて。素性不明で家もないということだったから、父上のすすめで私が一緒の部屋でお世話しているわ」

 三カ月。こっちでは、たったそれだけの時間しか経っていないのか。膝から力が抜けていくようだった。あぁ、そうだ。そういえば、前に孝己が言っていたっけ。


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