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「……最初からそのつもりで、佳乃に?」
困惑する頭で最初に思いついたことを尋ねると、彼女はゆっくりと頷いた。
「出席番号で前後になるよう工作させてもらいました。どのくらいの歪みなのか、どのくらい周りが影響を受けているのかを知るためには、佳乃ちゃんとの接触は不可欠でしたから」
慌てて後ろを振り向くと、佳乃の体制は先ほどから変わらない。正面に回って、表情を覗き込んで……呆れた。
「寝てる……」
「仕方ありません。疲れたでしょうから」
あどけない寝顔を見るうちに、たまらなくなった。
「もう少し、待ってくれないか。佳乃は今が一番幸せで、こんな穏やかな顔で眠っているなんてちょっと前まではありえなかったんだ。だから、目を覚まして、ゆうちゃんとちゃんと話をして、本人が記憶がないなりにも戻ることに対して前向きになってから歪みを正して欲しい」
わがままだ。どうしようもなく、これは自分のわがままだ。それでも俺は、今の佳乃を手放せなかった。拒絶反応を起こすことなく本に触れることができると、記憶が戻っても以前のようにはならないと、少しでもわかってから歪みを正して欲しかった。
しかし、その訴えをきいたゆうちゃんは、ひどく複雑な表情をした。何度か口を開け閉めして、やがて黙り込んでしまう。
「……ゆうちゃん?」
「……そういうことですか。そうですよね。やはり私は甘かったようです」
長い息をついてから、彼女はこちらをひたりと見据えた。
「慧一先輩。今回私が正しに来たのは、佳乃ちゃんではありません。彼女は歪みに近いけれど、そのものではない」
鼓動が跳ね上がった。
「この世界の歪みは、慧一先輩、あなたです」




