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五章 兄と妹と真実
小さな頃。まだ佳乃が本当に舌ったらずな話し方をする年齢で、まだ孝己がとびきり可愛い笑顔を見せる年齢で、そんな二人を前に目いっぱいお兄ちゃんぶっていた頃。誰かに尋ねられたことがある。
もし、自分の目の前で、佳乃と孝己とが溺れていたら、どちらか一人しか助けられないとしたら、どうするか。
なんてひどい質問をするのだろうと思った。どちらかしか助けられないなんて、そんなの選べるわけがない。自分は兄貴分なのだから、何とかして二人とも助けるんだ。半泣き状態でそんな風に答えた気がする。
今ならわかる。世の中は、そんなに都合良くはできていないのだ。第三の道なんてそんな容易く存在しない。諦めなどという次元ではない。自分の無力さに打ちひしがれながら、なすすべもなく、ただ選ぶことしかできないことだって、あるのだ。




