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つむろぐふたごのものがたり  作者: 燈真
序章 兄と双子
4/73

序ー4

 翌日佳乃と一緒に登校してきた孝己は、随分と顔色が良くなっていた。けれどそれに胸を撫で下ろしたのも束の間、最終下校の頃に校門を出てきた彼はまたぐったりと疲れた様子で足元も覚束ないくらいだった。電車に乗るなり眠りに落ち、下車駅が近づいても起きない。仕方なく背負って帰ると家の前にはおじさんがいて、俺たちを見るなり寄ってきて彼を引き受けた。

「すまない、慧一君。ありがとう」

 昨日と同じ言葉を、繰り返しながら。

似たようなことが一週間ほど続いた。孝己は最終的には俺に背負われて帰り、おじさんに引き受けられて家に入る。

「ごはんはね、ちゃんとおきてきてたべるよ。でも、たべておふろはいったらすぐねちゃうの」

哀しげにそう話す佳乃はずっと心配を顔に張り付けて、力なく揺れる弟の手を握っていた。


 それは、四時間目の授業が終わった時だった。教室の前後の扉が同時に開き、飛び込んできた生徒が同時に叫んだのだ。

「慧一先輩いますか!?」

 クラス中の視線が束となってこちらに向けられる。どちらに目を向けて良いやらわからず、とりあえず前の扉の女の子に向かって手を挙げた。途端に鬼気迫る表情で駆け寄られ、慄いて浮いた手を四本の手で掴まれる。こっちの男の子は知らないけれどこっちの女の子は多分ゆうちゃんだろうな、なんてぼんやり思ったのも一瞬のことで、次の台詞に俺は派手に椅子を鳴らして飛び出した。

「孝己が」「佳乃ちゃんが」「倒れて、保健室に……!」


 孝己が倒れたのは体育が終わった直後らしい。白いベッドの中、いつものように疲れた表情で泥のように眠っている。その隣には、全く同じ顔で、こちらは幾分穏やかに眠る姉の姿。

 心配げな男子と泣きそうなゆうちゃんをなだめ落ちつけ帰してから、二人のベッドの間に据えられた椅子に座る。同じ顔を交互に見ながら、自然とため息が漏れた。

「つーか、倒れたことを友達が俺に言いに来るって、お前ら普段どんな話聞かせているんだよ」

 お兄ちゃんに心配かけんじゃねぇよ。

 呟いても、返ってくるのは寝息ばかりだ。

 手持無沙汰になってしまいさ迷った目線が、ふと弟の方の鞄の上で止まる。正しくは、開いた鞄から覗く妙に古ぼけた本で。

 あれ、これ。

 一瞬見覚えのあるような気がした。だがこのタイプの本とは縁遠いので、単なる錯覚だろう。だが、それは孝己だって同じだ。こいつ、こんなもの持つようなやつだったか。そう思いながらパラパラとめくって、中ほどまで来たところで思わず首を傾げてしまった。

「……真っ白じゃん」

 本そのものはものすごく古い。にもかかわらず、中は何も、絵すら描かれていない真っ白な紙の束だった。

 変な本。何でこんなものが、彼の鞄の中に。疑問符をいくつもつけながら本を閉じると、表紙にミミズがのたうったような字……もとい、素晴らしい達筆が現れた。

「えぇっと……こ……なんだこれ、良いや、えー……百人……百人一首!?」

 その本を取り落とさなかったのは奇跡に近い。愕然としたまま、改めて二人の顔を見つめた。

『百人一首』。その言葉を、ほんのついさっき聞いたばかりだった。

『国語の時間中だったんです』

 佳乃が倒れた時の状況は、ゆうちゃんが教えてくれた。

『佳乃ちゃん、いつも国語の時間は寝ているんですけど、今日は珍しく起きてぼんやりしていて。でも先生が話している最中突然怖い顔で立ち上がって、そのまま机の間に倒れ込んでしまったんです』

 佳乃が国語の授業で寝てしまうのは仕方のないことだ。おばさんがいなくなってから、彼女はなぜか本が全く読めなくなってしまった。特に古典には強い拒絶反応を示す。学校にはそのことは既に伝わっているはずだから、先生がそこで彼女をどうしたということはないだろう。

となると、問題は。

『その先生の話の内容は?』

『確か……「百人一首」でした』

 『百人一首』の話を聞いて倒れた佳乃。古ぼけた、けれど中身がない『百人一首』を持っていた孝己。これは、果たして偶然なのか。

「孝己、佳乃。お前ら、何抱えているんだよ……」

 握った右手と左手は、どちらも冷たい。

俺を兄だと言うなら。兄だと慕うなら。

 頼むから、頼ってくれ。


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