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レジ袋を両手に、馴染んだ道を歩く。違うことといえば、隣に並んでいるのが面識の少ない女の子だということ。
「すみません、結局私何も持たずに……」
しかも先ほどから恐縮しきりなので、両手の使えない俺はひたすら言葉を尽くすしかない。
「いや、いいよ。こういうのは俺の役だし、重くないし、むしろ女の子に持たせたら沽券に関わるっていうか。選んでくれて助かったし、このくらいは全然。むしろ礼を言うのは俺の方」
小首を傾げる彼女に、今まで会ったら言おうと思っていた言葉を差し出す。
「佳乃と、仲良くしてくれてありがとう。あいつあんなだから心配していたんだ。君が一緒にいてくれるから、佳乃はすごく楽しそうに過ごしているよ」
「お礼を言われることなんて何も。佳乃ちゃんすごく前向きで明るいから、一緒にいると元気になれるんです。部活もすごく頑張っていて、見習わなきゃって思っているくらい。私が彼女にお礼を言いたいくらいなんです」
「そっか」
心底安堵したせいか、少しだけ涙腺が緩みそうになった。佳乃に付き合ってくれているのではなく、ちゃんと佳乃と友達になってくれている子がここにいることが、こんなにも嬉しい。
「慧一先輩は佳乃ちゃんから聞いていた通りですね」
くすくすと笑いながら言う彼女に、今度はこちらが首をかしげた。
「『けーいちはかほごでしんぱいしょうなんだよぅ。でもやさしいからよしのはけーいちすき!』
って、いっつも言っています。先輩の話をしない日は一日だってないから、半分耳タコです」
「そ、それは……申し訳ないというかなんというか」
微妙に首の後ろがこそばゆい。知らない間に自分の名前が広まっていることにも、それに佳乃の「すき」が付随されていることにも、ちょっとどころではない気恥ずかしさを感じる。つーかこれ、どれだけの規模で広まっているのかたまらなく気になる。
「慧一先輩」
ふとゆうちゃんが足を止めたので、つられて留まる。
「私は佳乃ちゃんが好きです。傍にいると温かい気持ちになれる。多分、私だけじゃない。部活の先輩、クラスメイト、佳乃ちゃんの周りにはどんどん人が集まり始めている。絶賛人気上昇中です。普通なら変に思われても、佳乃ちゃんならって受容されることもある。いっそ不思議なくらいに」
ぱちりとした瞳が、深い色を帯びてこちらに向けられる。
「佳乃ちゃんはちぐはぐです。普段の言動は幼いのに、脳内に収められた知識と思考力はものすごく高い。今は高校ですが、大学生になって社会人になってもあのままだったら、きっといつか苦しむことになる。慧一先輩は、どう考えていますか。佳乃ちゃんのこれからを。未来を。……それに、どう自分が関わっていくべきかを」
思いがけず真摯で強い視線に、言葉に、胸がざわつく。答えなんて決まっている。願うのは、佳乃の幸せな未来。皆に囲まれていつまでも笑っていられる彼女の姿。そのためならば、自分はいくらでも心を砕くと、そう決めた。だって俺は、双子の兄貴分だから。彼女たちの母親に、きちんと頼まれたから。問われればいつだってそう答えてきた。なのに今、それを容易に口に出せない自分がいる。
「慧一先輩」
もう一度名前を呼ばれて、知らず外していた視線を彼女に戻し、続く言葉に息を呑む。
「佳乃ちゃんだけではありません。先輩は、孝己君のこれからを、未来を、どう考えていますか。それに、自分がどう関わっていくべきかを」
「な、んで」
ようやく出した声は、我ながらなんでか情けなかった。
「なんで、孝己のことまで」
「佳乃ちゃんが、最近孝己君のことを話さなくなってきたからです。入学したばかりのころはずっと孝己君と慧一先輩のことばかり話していたのに。でも、何かあったのってきいても不思議そうな顔で、なにもないよって。先輩、何か理由を知っていますか?」
そんなこと、知らない。気づかなかった。最近は佳乃より孝己と一緒にいることが多いけれど、彼からも何も聞いていない。孝己の仕事が忙しく、俺もそれに付き合っているから、佳乃が仲間外れにされたと勘違いして拗ねたのか。いや、でも今の佳乃はそういうことを素直に口に出す。単純に佳乃にも自分の新しい居場所が生まれたからだ、と信じたい。あの二人がいつまでも一緒にいるわけがないことはわかっているけれど、それは今ではないはずだ。
「今日佳乃ちゃんと、それから孝己君が帰ってきてからは孝己君とも、一緒に過ごしてみてわかりました。二人に一番影響を与えるのは慧一先輩だって。学校では口数の少ないあの孝己君が、先輩のことを聞いたらたくさん話してくれました。だから、こうして直接ゆっくり聞いてみたかったんです」
「そのために買い物に?」
「はい」
一つ頷いたゆうちゃんが、伺うようにこちらをみる。返答を求められている、そう思った。双子の未来。双子のこれから。俺は。
「俺は、何年経っても、あの二人がちょっと蹴躓いた時、支えてやれれば良いと思っているよ。愚痴を聞くでも相談に乗るでも良い、兄貴分として、背中を押してやれたらって」
一つ一つ、確かめるように。それが俺の役目だと、自分に言い聞かせるように。
その言葉、忘れちゃ駄目ですよ。隣で妹分の親友がそう言った。




