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つむろぐふたごのものがたり  作者: 燈真
第二章 兄と歌人と忍ぶ恋
19/73

2-4

 その後最終下校まで待って双子と合流し帰宅した俺は、そこには昨日までなかった光景に呆気にとられることとなった。

「パパただいま~!」

 いつものように駆け寄った佳乃が抱きついたのは、長身のすらりとした男性ではなく。

「佳乃、そういつもいつも飛びつくでないと、何度言えばわかる」

 しかめ面をした平安貴族風の男だった。しかし佳乃は聞こえているのかいないのか、一向に離れようとしない。そのまま今日の出来事を早速報告し始めた。あまりに違和感があり過ぎて言葉を失った俺に、孝己がこそりと耳打ちをした。

「ずっとこの光景を見てきた俺の気持ち、わかった?」

 声もなくただ頷く。姉が父親でないものを父親として認識し、何の疑いもなく抱きついて甘える。これは確かに……反発したくもなる。その時半眼で見つめるこちらに気づいた定家が、ほう、とばかりに片眉をあげた。その口からよりにもよって、こんな言葉が飛び出す。

「今日は己の足で帰ってこられたか、孝己」

 隣で空気が凍ったのがわかった。あのクソジジイ、と低い呻き声が吐き出されたのを耳が拾う。今までも度々その言葉を聞いてきたが、今日は一段と重みが増している。まぁ、致し方ない。同情している間に孝己は例によって佳乃の首をひっつかみ、こちらに手を振りながら男に一睨み利かせるという器用なことをやってのけて家へと入っていった。取り残されたこちらは微妙に気まずい。とりあえず近寄って声をかけた。

「先ほどは、どうも」

「うむ」

「まさか、あのあと電車に乗って帰って来たのか」

「左様」

「……乗り方、覚えたのか」

 自分の知らない未来で突如生活することになった彼は、さぞ大変な思いをしただろう。しかも周りから見れば現代人のいい大人が右往左往していることになるのだから、よほど奇怪なものを見るような目を向けられたに違いない。そういえばこの人仕事はどうしているのだろう。世間一般では双子の父親は存在していることになっている。会社だって休んでいないはずだ。普段どうやって乗り切っているのか気になった。

 彼を待ち受けたであろう数々の苦難を想像しながらの問いに対し、しかし彼の答えはあっさりしていた。

「否。この依代に問うた」

「……は?」

「ここに行きたいと我が願えば、脳内にその手段が浮かんでくる。こやつのなすべきことについても同様、手足の赴くに従えば最低限の不自由はせぬ」

 便利なものよ、と自分の両手を見ながらうっすら笑う定家をただただ見つめる。驚きと同時に、寒気を感じていた。全く別人として生き動くことを便利と言い切った定家にも、誰にも入れ替わりを気づかせまいとする仕組みそのものにも。


 そして翌日の放課後。再び司書室に集まった図書室にて、俺は初めてこの男が渋面をつくるところを見た。

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