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序章

たまごと魔女の半人前物語



 序章


 はあぁぁ~……、と深い深いため息が聞こえた。

 背後、すぐそばから聞こえたと思ったのに、振り返ってみても誰もいない。

「まさかこんな小娘に拾われてしまうとは……。われとしたことが、なんたる不覚」

 ぶつぶつと声はまだ聞こえている。

 ――魔物の多い森の中だった。

 魔力に満ちたこの森では、石などの無機物に力が溜まっていく。

 力を持った石は魔道具として利用できるためここを訪れる者は多いが、この森の力は魔物をも引き付けるので、訪れる者のほとんどは魔物を撃退する力を持つ――魔法使いたちだった。

 イリーナ・ティウンもその一人である。

 ――ただし、見習いの。

 ティウンというのはたまごという意味だ。

 雛をマラン、親鳥はローネインと言い、すなわち魔法使いとしての位を指す。

 訪れる者が多いとはいえ、森は広い。誰か他人と鉢合わせることは滅多になく――出会うとしたら魔物とだ。

 人語を解す魔物は大抵かなり高位の力を持っているが、そんな魔物と渡り合うには、魔法を学び始めて一年目のイリーナには荷が重すぎた。

「誰なの?」

 イリーナはどきどきしながら思いきって尋ねてみる。

 尋ねると、声はぴたりと止まった。

 それほど大きな声を出したわけではない。――近くいるらしい。

 イリーナは不安な内心を隠しつつ、毅然とした声を作って言う。

「出て来なさい」

 五秒、十秒……。返事はない。

 イリーナは背負っている荷物から杖を取り出し――。

「痛てっ」

 ……構えようとする前に、背後から、その声は聞こえた。

 驚き、振り返る。

 しかしやはり誰もいない。

「気を付けよ! われを殺す気かっ」

 また後ろから。

「ま、まだ何もしてないじゃない」

 きょろきょろと辺りを見回して言い返すイリーナに、声は言う。

「何を言う。今、われに、お主の持つ鈍器が直撃したというのに。……お主、わが正体に気付いていないのか?」

「鈍器って……」

 イリーナは手にした杖を見下ろしてから、ふと思い至って、背の荷を降ろした。

 魔物ならば、そこに隠れられると思って。

 荷を紐解くと――。

「ぷはっ」

 ……果たしてその主は飛び出してきた。

「えっ……、ええっ?」

 声の主は思ったよりも大きかった。

 イリーナが背負う荷には到底入りきらないほどの大きさで、それはちょうど、イリーナよりも五歳かそこら年下くらいの――。

 ――少年だった。

 魔物には見えない。

「やれやれ、狭かった」

 声の主の少年は言う。

「お主、わが声を聞き分けていたようだな? 何者だ。魔法使いか?」

「……見れば分かるでしょう?」

 イリーナは慎重に答える。

 いくら少年の姿をしているとはいえ、相手は魔物なのだ。魔物に名を掴まれると呪いをかけられたりすると言われているから、うかつに名を漏らすわけにはいかない。

 少年はイリーナの顔をじっと見て、呆れたようなため息をついた。

「安心するがいい。われはお主のような小娘ごときに下衆な呪いなどかけたりはせぬ」

 完全に読まれていた。

 名乗るがいい、と少年に促されて、渋々とイリーナは名を名乗る。

「……イリーナ・ティウン」

 少年は目を見開く。

「は……っ」 

 それから、笑み。

「はははっ、『たまご』とはな! 面白い偶然もあるものだ」

 少年はふわっと一歩下がり、イリーナの荷物から何かを取り出す。

 ……先ほどイリーナが拾い集めた石のうちの、一つだ。

「わが正体も明かしてやろう。――わが名はルーク。われはこの石の『中身』だ」

 少年は言う。

「イリーナ・ティウン、魔女のたまごよ、お主が拾ったこの石は、たまごだ。われはドラゴンのたまごである」

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