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理想の毒  作者: 彩暁―
4/5

私にとっての奏3

 刻が経っても眠れない。奏を愛しているのに、これ以上近づけないと思うと、心臓が万力で締め付けられる気分になった。

 それに、奏の症状は一向に快復しない。医者も役立たずだ。彼女に触ろうとしても、痛がってしまい、まともに触れられない。苦しんでいる彼女が不憫(ふびん)でならない。

 真っ暗な自室で悶々と、どうすれば良いのか思案し続けた。やっぱりもっと触れたい。殺してしまえば良かったのだろうか。奏が死んでいれば、私がどんな事をしても彼女は嫌な顔をしない。好きなところを好きなだけ触れられる。でも、もし殺したら、彼女は私を恨むだろうか。頸動脈を噛み切られるとかなり痛いだろう。奏が息絶えて、瞳孔が目一杯に開く様子を想像すると、急に鳥肌が立ってしまった。

 それに奏が死んだら、彼女の温もりは感じられなくなる。彼女は二度と、私の学校で帰りを待ってくれなくなる。一緒に買い物に行く事もできない。肉体は灰になって埋められ、彼女が存在した証も失われていくだろう。

 脱衣所で手に入れた新しいお守りを握りながら、残った奏の温もりを確かめた。深く愛せないやるせなさを奏の感触で上書きしようとすると、拒否された事を思い返してしまう。『これ以上はダメ』と奏は何度も繰り返していた。何度も頭を掻き、ベッドの上で寝返りをうった。

 握るだけでは駄目だ。どうせなら奏をもっと身近に、そう、風呂場のキスよりも深く感じられる手段がある。私は布団の中に潜り込み、下のパジャマを下着とともに脱いだ。右手にあるお守りを広げ、それを両脚にゆっくりと通していった。

 今、私は奏の下着を履いているんだ。ついさっきまで奏が履いていた下着だ。直接的なキスよりも深く、間接的に奏と繋がっているんだ。今までよりもはっきりと、目の前に奏の像が浮かび上がった。

 そっと、奏へと手を伸ばし、背筋から脚までを撫でた。そして、彼女の唇を求めようとした。

『お姉ちゃんはお姉ちゃんのままでいて』

 何故、何故拒否するのか。ここまできたのにどうして私を避けるのか。どうせ子供ができる訳ではない。同性の近親相姦くらい構わないじゃないか。

 沸き立つ満足感は一瞬で冷却した。頭の中で何度も奏を創り上げようとも、彼女は私を拒み続けた。身につけたお守りが異物のように感じられた。

「繋がれないなら、どうすればいいの?」

 奏は生きるべきか、それとも今後の事を考えて殺すべきか。どちらが幸せなのか。その答え探しとともに頭の中は混乱していった。

 ふと私は、今朝投かんされたチラシを思い出した。何かの悪戯だと思って捨てた、変な内容が書かれたチラシ。私はゴミ箱を漁り、くしゃくしゃに丸まっていた白い紙を拾い上げた。そこには地味なフォントで、文字だけが書き連ねられていた。


【理想の毒】

 青酸カリは手に入らない。

 最近の睡眠薬ではなかなか死ねない。

 電車への飛び込みは周囲に迷惑がかかる。

 首つりもリストカットもする勇気がない。

 思い通りの毒が欲しいですか?

 この毒は、あなたの理想に合った効果をもたらしてくれます。


 私の理想は一体何だろうか。奏と繋がる事。しかし、それが無理だから、安らかな死を望んでいる。どうせ悪戯だろうけど、駄目でもともと。試してみるのも良いかもしれない。あの毒が本物なら、私の理想が叶う。

 チラシの一番下に、連絡先が記されている。明日、ここに電話してみよう。


***


 電話からの注文はとても簡単に済ませられた。チラシを見て理想の毒が欲しいと言うと、電話の相手は振り込み用の口座を教えてくれ、代わりに住所を聞かれた。言われた通りに家の住所を伝え、銀行に代金を振り込んだところ、振り込みから数日後、郵便受けに巨大な茶封筒が入れられた。『精密機器』が入っているとされる封筒は、真ん中が異様に膨らんでいる。この中に理想の毒が入っているのだろうか。

 家の中に入り、封筒を開けると、泡状の緩衝材に包まれた、褐色の小瓶が入っていた。親指より一回り程大きな小瓶にラベルが貼られているものだ。案の定、そこには『理想の毒』と記されていた。

『この毒は、あなたの理想に合った効果をもたらしてくれます。』

 小瓶の他に、一枚の紙切れが入っていた。チラシに書いてあった通りの文章がそこに記されていた。

『無味無臭ですので、そのまま飲んでいただいても構いません。何かしらの飲食物に混ぜてみるのも良いでしょう。』

 なかなか親切だ。しかし、これは本物なのだろうか。半信半疑になりながら、奏にどう飲ませようか考えた。

 親は奏に「仮病なんだろう」と詰めてかかってきてうるさい。女同士、しかも姉妹だから、二人で愛し合う未来が見えない。私の愛で、痛みと偏見で生き辛い世界からさっさと解放しなくては。

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