1 守護神だそうです。
私宛に宅急便の段ボールが届いた。その中にはなんと、私と全く同じ女が入っていた。
リビングに行くと段ボールが倒れていた。
段ボールの中には相変わらず、私と同じ顔の女がいる。
母親に見せたら失神してしまうだろう。かといってどうする訳にもいかず、一旦は自分の部屋に持って行くことにした。
「押入れの中に入れておこう」
私の部屋の押入れは家族も自分も滅多に開ける事がないから見つかりにくい。
そこで、お昼ご飯をまだ食べていなかったことを思い出した。
リビングに戻ってお昼ご飯を食べていると声がした。
「おい、押入れに閉じ込めるとか酷いぞ。悪いことした子どもじゃないんだから」
顔を上げると目の前の席に段ボールに入っている筈のヤツがいた。
「キャー!」
「そんなに大声出すなよ。それに、そんなにビックリすることか? 同じ顔だからって……。双子だと思えばいいだろ」
混乱状態の中、よくみると外見は全く同じだが、声色で男だと判断できた。
「あなた、どうやって?」
「普通に抜け出してきた。段ボールの蓋の部分が開いていたから」
「あぁ、そう」
「何、そのリアクション。お前が聞いたんだろ?」
私は大事なことを聞いた。もう大分落ち着いていた。
「なんであなた、私と全く同じなのよ?」
「それは、お前の魂だから」
私はきっかり三十秒経ってから、
「は?」
理解不能です。
「ん、どういうこと? 私、まだ死んでないけど」
私は再び食べることを忘れた。
「だから、俺とお前は生まれた時から連動しているの。アバターみたいなものだよ。だから何もかも同じなんだ。でも、違うところもある」
「どこ?」
「お前は、運動神経が悪いだろ」
失礼ね! と言いたいところだが、本当のことだ。渋々頷く。
「俺は運動神経がいい」
「自慢ですか?」
滅多に怒らない私が、久しぶりに怒りそうです。
「違うよ。だから中身が違うってことを言いたいの」
「何で違うの?」
「守る側が役に立たなかったら意味が無いだろ?」
「え、守ってくれるの?」
逆をいえば狙われていることになる。つまり守られることと狙われていることはイコールで結ばれていることになるのだ。
「うん」
「何から?」
「外敵から」
「外敵って蜂とか?」
「そんなもの、お前で対処しろよ。俺はそんなにお人好しじゃないね」
「じゃあ、何から私を守ってくれるっていうのよ?」
外敵って言ったら、それくらいしか無いけど……。
「人間とか?」
「チャンバラごっこに巻き込むつもりなら、丁重にお断りします」
「違うって。お前、何か勘違いしてないか?
真面目な話なんだからちゃんと聞けよ」
真面目っていうことは本当に狙われるんじゃないの? いや、困るんですけど。
「なんで私が狙われなきゃいけないの? 親戚以外の人間に迷惑かけてないわ」
「厳密にいうと、狙われているのは左腕だ」
それこそ何故! 私の左腕に、懸賞金でも賭けられているのかしら?
「お前の左腕に楕円形の跡があるだろ?」
確かに物心ついた時には左腕の跡は既についていた。幼少期はいずれ消えるだろうと、思っていたのだが何年経っても消えないので生まれつきものだと認識した。
「左腕の跡に強力な力が宿っていて、それを狙いに来るんだ」
何、そのメルヘン満載な話。まぁ、メルヘン満載な話は宅急便さんが来てからもう始まっていたけどね。さらにメルヘンが吹き込まれたよね。
「大変じゃない」
「だから俺がいるんだろ?」
「あ、そうか。じゃ、空手とかできるの?」
「空手でなんて倒せるか」
じゃあ、どうやって倒すのよ?
「特殊能力で倒すんだ」
出ました、メルヘン! 本日二回目の登場です!
「能力ってテレパシーとか?」
「それもあるけど、俺は何でもなおせる能力もあるんだ」
「何でもって、傷も?」
「そう。見てろよ」
男は戸棚からカッターを持って来て、自分の指を切った。
「ちょっ! バカなの?」
「大丈夫だって」
そのあと、男は右手を指にかざした。すると、傷がみるみるうちに消えていき、ついには傷跡もなくなった。
「わあ、すごい!」
「だろ? でも携帯電話と同じように、能力にも限度があるから、あまり使わせんなよ」
私はもう一つ聞きたいことがあった。
「そういえば、なんで突然私の前にあらわれたの?」
「そりゃ、報告が来たからだよ」
「報告? どこから?」
「警察みたいなところからだよ。あなたのアバターのところに危険人物が出てくる可能性があるので、守ってくださいって報告が来るんだ」
ん? 今なんか違和感を覚えたぞ。ま、いいか。
「ただでさえ、物騒な事件が絶えないっていうのに、狙われなんてしたら身体が持たないよ」
私はあることに疑問を抱いた。
「あれ? でも今、何でもなおせる能力って言ってなかった? だったら戦えないんじゃないの?」
「別にその能力専門って訳じゃない。戦闘能力も備わっているよ」
そりゃすごい。
「そうだ、お前も護身用に教えてやるよ」
「簡単?」
「うん。まず、欠伸するみたいに口を両手で覆って、その手に息を吹きかける。次にその息をつぶすように合掌して、最後にハイタッチするように思いきり腕を伸ばして両手を前に出す」
言われた通り、実践してみると、確かに簡単に出来た。
「でもこれで相手を倒すことなんて本当に出来るの?」
「言っただろ。お前の左腕の跡には強力な力があるから、いざとなったらその跡がお前を手助けしてくれるんだ」
だったらあなた要らないんじゃ……と私が思ったのは男には秘密である。
「だから、今教えた能力もいざとなったら、跡が能力を引き出してくれる」
わーお、嬉しいくらい便利じゃん。
「あれ、でも待って。警察みたいなところって、つまりは警察じゃないの?」
「お前の世界とは違うから。でも、治安を維持させるっていうことは同じだ」
ちょっと待った。何、その異世界から来ました臭プンプンさせた感じの言葉。
「異世界から来たよ」
うわ、心読まれた!
「テレパシーも使えるからな」
そーいや、そんなことも言っていたような……って、ん!?
「異世界からって……どこから?」
「神界」
どうしよう、ツッコミどころが多すぎる。全部ツッコんでいたら過労死するから、スルーしちまおう。
「あぁ、神様なんだ」
「だから何で、そんなにリアクションが薄いんだよ。そっちが聞いたんだろ?」
小さいことを気にしていたら、ストレス溜まって死ぬぞ。
「神様にも役職ってあるんでしょ? あなたはSP的存在だから……守護神か!」
「うん」
すげー心強いです。