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レンタル・マギカ  作者: ひこうき
テーマ:恋愛
9/9

恋愛1:終章

「それで、どうだったリチャード」

「ええ、たんまり頂いてきましたよ」

 ソファに深く腰掛けたクロは、穏やかな物腰で佇むリチャードを前に太い笑みをこぼした。

「今回はどれくらい搾取できた?」

「ノルマの倍はあるかと。よほど彼《神谷陽》の記憶には、私が印象的に残ったのでしょうね」

 全盲の魔法使いは、クロを前に同様の笑みを浮かべる。

「おいしい仕事でしたよ、たった4回の通常魔法行使でこれだけの《記憶》を手に入れることができたのですから」

「その件に関してなんだけどな」

 クロは先ほどまでの笑みを消すと、鋭い視線でリチャードを射抜く。

「魔法の馬車も問題ねぇし、クライアントとどれだけ念話を使って貰っても構わねぇ。それは《手段の手段》の域を出てねぇからな」

 けどな、とクロは声を潜める。

「いくらクライアントの告白大作戦を成功させたいからってよぉ。あのにーちゃんに《聴力》と《言葉》を与えた件、それから魔法で警備員2人を昏睡させた件についちゃあ、ちとヤリ過ぎじゃねぇのか? ん?」

 クロはガシガシと乱暴に頭を掻く。

「それからお前、あの《宮谷志穂》ってねーちゃんにも魔法かけただろ。にーちゃんが告白する瞬間に、ねーちゃんにも数秒だけ《聴力》を与えただろ」

「ええ、与えましたが?」

「何が通常魔法だ、立派な大魔法じゃねぇか。クライアントを含めた2人に《聴力》を与えた件、それから警備員の件は明らかに《手段の手段》を逸脱してる。あれじゃ立派な《手段》だ」

 リチャードはクロの言葉を前にして、黙って穏やかな笑顔を浮かべているだけだ。

 その両者のやり取りに、傍から眺めていたシロが介入する。

「私たち魔法使い派遣会社コマーシムは慈善企業じゃないんだよ。クライアントに魔法の力を貸す代わりに、私たちは代価としてクライアントから《魔法使いと過ごした記憶》を貰う。いわば立派なビジネスなの」

「なぁリチャードさんよぉ、アンタは優秀な魔法使いだ。俺たちが直々に育てただけのことはある。けどよぉ……」

 クロは目を細め、ドス黒く言葉を響かせる。

「こういったビジネスに私情を持ち込むのはいかがなもんかなぁ? 同じ身体障害者同士で情が移りやすいのも分かるけどよぉ?」

「……」

 沈黙が3者を取り巻いた。時間にしておよそ数秒くらいだが、その沈黙はあまりに深い。

 その重たい空気を作り出した張本人であるクロは、誰より早くニカッと元気な笑みに切り替えた。

「まぁいーや。お代はたんまりゲットできたみたいだしな、お前を召喚しちまった俺の責任もある。よってこの件は不問だ、以上、帰って良し」

「でもリチャード、ゆめ忘れないでよ。私たち魔法使いが欲しいのは、クライアントの《魔法使いと過ごした記憶》。それから会社のモットーとして、あくまで魔法は《手段の手段》だってこと」

「はい、以後気を付けます」

 リチャードはその場で深く、深くお辞儀をすると、虚空へと姿を消した。

 二人だけとなった事務所に、穏やかな少女の声が響く。

「リチャードさんもお人良しだよね、任務を完了した時点でさっさと《記憶》を奪っちゃえばいいのに、クライアントのワガママに付き合って《記憶》を貰うのを一日遅らせるなんて」

 ちっ、とクロが短い舌打ちをする。

「あのにーちゃん、『明日の朝のHRが終わるまで、記憶を奪うのは待ってほしい』とかほざいてたか? 冗談じゃねぇ、こちとら商売で魔法使いをレンタルしてるんだ。空港までにーちゃんを送り届けた時点で記憶を奪ってりゃ、ノルマの3倍は手に入ったぜ。一日も経てば、魔法使いとの記憶は十二分に薄れちまう。実際にノルマの2倍程度にまで落ちぶれちまった」

「でも、リチャードはその申し出を快諾しちゃったけどね」

「やっぱアイツを召喚すべきじゃなかったかもな。客との相性が悪い意味で良すぎた」

「流石クロくん。毎回クライアントにピッタリな魔法使いを用意するね」

「うるせー」

 

 コンコン、コンコン。

 

 事務所のドアが、新たなクライアントの訪れを響かせる。


 *


『魔法の力、お貸しします』


 この世の中には困難が満ちています。

 それは恋愛だとか、家族だとか、友情だとか、とにかくいろんなことに言えることで。 目標があって頑張ってても、その困難が立ちはだかって諦めてしまいそうになる。


 そんな時は私たち、魔法使い派遣会社≪コマーシム≫をお尋ねください。


 きっと、あなたのお力になりますから。


 え? お代?


 いえいえ、お金なんて取りませんよ。そんな紙切れ、私たち魔法使いからしてみれば何の価値もありませんから。


 私どもは魔法をお貸しする代わりに、クライアント様から《記憶》をいただきます。

 

 魔法使いと過ごした《記憶》であります。


 妖怪が人間の《存在するという記憶》から生み出されるように、私たち魔法使いはアナタ方人間の《記憶》が無ければ存在を維持できない難儀な生き物なのです。


 どうです、魔法の対価としては、お安い物でしょう?

≪恋愛1≫、終了です。いかがでしたでしょうか。

次のテーマは≪家族≫です。

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