アイソトープ
アイソトープとは同位体の別名です。
…というか題名と内容はあまり関係ないかもしれません。
また、作者はまだまだ初心者なので文章表現が拙いです。
それでもよいという方は是非読んでいってください♪
アイソトープ
「おい、波音」
「ん〜?」
心地よい眠りを誰かに邪魔されてわたしは不機嫌な声を出す。
「ん〜?、じゃなくて寝るならちゃんとベッドまで行けよ。風邪ひくぞ」
「…あぁ、海音か」
意識がはっきりしてくるとわかってくる。
…誰がわたしの安眠を邪魔したのかが!
まあソファーで爆睡していたわたしにも悪かった面はありますが!
先程名前が出ました海音というのはわたしの兄である。
ただ、普通の兄妹とはちょっと違う事情がありまして、わたしは兄を名前で呼ぶ。
『お兄ちゃん』だなんて死んでも呼ばない。
なぜなら、わたしたちは双子であり…
「琴音はどうした?」
おーい、わたしの解説の途中で会話を入れるな!
「もう寝ちゃったわ。だって海音、帰ってくるの遅いんだもん。もう午前2時よ?」
しかし、会話乱入に文句も言わずに受け答えしてあげるわたし。
なんて優しい妹なのかしら♪
「…何にやけてるんだ?」
「ううん、何でもない」
「そうか?まあいいや。とりあえず風呂入ってくる」
「うん、いってらっしゃい〜♪待ってるね♪」
突然ですが…わたしの母親とその弟(わたしの叔父)は双方向のブラコンである。
え?わたし?
うーん、まあある意味ブラコンかな?
海音のこと好きだし。
海音もきっとわたしのこと好きだし。
…ん?誰よ、今自信過剰だね、とか言った奴は!
これは自信じゃなくて確信なんだから!
だって海音はわたしに言ったのよ?
『おれ、波音のことが世界で1番好きだよ』って!
えぇ〜?小さい時の戯れ事を真に受けないほうがいい?
いや…まあ…たしかに最近は『好き』って言ってくれないなぁ。
でも代わりに……
いや、そんなことより、わたし、久しぶりに昔の夢を見たの。
そこでさっき言った母とその弟のブラコン性が関係してくるのよ。
とりあえず海音の奴がお風呂に入ってる間に語らせてよね★
「はーちゃん、あそぼ」
海音はわたしの物心がついた頃から常にわたしの側にいた。
(…当たり前か…だって兄妹だもん)
「え〜、はのん、お外行きたくないー」
「はーちゃんお絵かきしてばっかりじゃん!あきないの?」
あきない。幼稚園にはお絵かきの道具がたくさんあるから。
「しーくんこそお外でボール遊びばっかじゃん!」
はのんは言い返す。
「…うぅ」
しーくんとはのんはとてもよく似た容姿をしている。
焦げ茶色の髪と瞳。
くせのない柔らかな髪質。
透き通るような白い肌。
はのんがもうちょっと大きくなってから小学校の先生に聞く話だけど、しーくんとはのんはニランセイソーセージなんだって。
(※二卵性双生児のこと)
なんだか美味しそうな名称だよね!
で、普通はそのニランセイソーセージは似てないことが多々あるみたいだけど、しーくんとはのんはそっくりだ。
ただし……そのそっくりな容姿とは裏腹に性格や趣味はことごとく合わない。
この前の二人一組になってやる工作のときだって…。
「おれは青の色画用紙がいいの!」
「はのんは白のほうがいいの!」
と、画用紙選びの時点で喧嘩になり…
ママの夕飯メニューの時も…
「はのんはカレーが食べたいー」
「いやだ、おれはハンバーグが食べたいんだ!」
と、喧嘩し……夕飯はハンバーグカレーになった。
さすがはママ。
しーくんとはのんのツボをきちんとおさえたメニューだった。
と、このようにいつも意見が合わない。
そして、それは小学校にあがってからも変わらなかった。
「では、この時、少女はなぜ泣いてしまったのでしょうか?えーと、高瀬 海音くん、答えて」
「はい、けがをしてしまって悲しかったから泣いたんだと思います」
「先生それは違うと思います!」
はいはーい!とそこで手を挙げるのはわたしだ。
「じゃあ高瀬 波音ちゃん。あなたはどう思ったのかな?」
「けがをしたところを助けられてうれしかったから泣いたんだと思います」
「はー?波音バカじゃねーの?そんなわけないじゃんか!」
「しーくんこそ変だよ!」
「しーくんって呼ぶな!」
「海音のバカ!」
「なんだと!?」
と、このようにクラスメート全員に兄妹喧嘩を大公開☆
というのは高瀬兄妹の日常茶飯事である。
クラスメートからしてみたら『本日の授業も高瀬兄妹のせいでカオスだぜ★』という感じ。
しかし、入学当初は驚いていた彼らももうこの状況にすっかり慣れてしまっている。
先生でさえも。
登下校の時も…
「だいたいクラス分けが悪いんだよ。おれを波音と一緒にするから…」
「双子だもん、仕方ない」
「いや、喧嘩するのは目に見えてるんだから離せばいいんだよ。PTAもバカだなぁ」
「…クラス分けってPTAが決めるんじゃないと思うけど。というかそれは言っちゃダメだよしーくん」
「かかってこい、PTA!って波音またしーくんって言ったな!」
(保護者たちに喧嘩を売る小学生って…)
「くせなんだもん。仕方ない」
「『仕方ない』って波音の口癖だよなー。開き直らないでなおせよ」
「そういう海音だって普段悪いとこ直さないもん。お互いさまよ」
「生意気!妹のくせに!」
「同じ日に生まれたのに兄も妹もないもん!」
「いいや、1分だろうが1秒だろうが先に生まれたら兄なんだよ!」
と、結局最終的には喧嘩になり家に帰るたび『いい加減にしなさい!』とママに叱られる。
ママもたまにだったら優しく仲介してくれるのかもしれないが…こう毎日じゃ嫌になるよね。
と、こんな感じで小学生時代まではわたしにとって彼は『生意気なきょうだい』という認識しかしていなかった。
その認識が変わったのはわたしが中学生になってからだ。
やはり女の子と男の子では双子でも成長するスピードが違い、わたしは小学生の後半期に1番背が伸びた。
しかし、その時海音は小さいまま。
わたしはその時点では余裕で彼の身長を抜いてしまっていた。
しかし、中学にあがると奴はみるみるうちに成長し、あっという間にわたしを見下ろすようになった。
声変わりもして声が低くなったりもした。
「…おい波音、なにそっぽ向いてるんだ?」
「ううん、何でもないの」
「お前最近おかしいって。おれのこと避けてない?」
「だから何でもないってば!」
こうして可愛いげないことを言っては部屋に閉じこもるわたし。
「変なやつ」
ドアの外で海音はそう呟いた。
そうだ、今のわたしは変だ。
彼が急に知らない男の子に見える。
近づかれるとドキドキする。
…まさか…恋?
「そんなわけ…ないよね」
実の兄に恋なんて絶対ありえない。
だって、報われることのない恋だよ?
頭ではそうわかっていてもわたしの心はいうことを聞いてはくれなかった。
わたしはこのあとますますありじごくみたいな恋に一人、おちていった。
中学2年の夏。
海音に彼女ができた。
「波音、どうしたの?食欲がないようだけれど」
「あれ…どうしたんだろ…夏バテかな?」
心配そうに顔を覗き込んでくる母にわたしは曖昧に微笑む。
違う。本当は今、わたしの心がひとりで暴走して泣いてるの。
でも、本当のことを言ったらママも悲しくなっちゃうもんね。
悲しいのはわたしひとりで十分。
海音の彼女はみんな可愛い。
あ、みんなっていうのはあいつ、彼女を取っ替え引っ替えしてるから。
1ヶ月〜2ヶ月で恋人が入れ代わる。
今思えばやつは最低な男である。
それでその取っ替え引っ替えな彼女たちだけど、わたしとは完全に正反対なの。
わたしは料理とか裁縫とかが好きなインドア派なんだけどね、海音が選ぶ彼女たちはみんなキャピキャピしてて流行に敏感で。
中学生なのに化粧もバッチリ決めてたり。
そんな彼女たちを見てるとますます悲しくなるんだよね。
「わたしも彼氏…作ろうかな…」
とは言っても恋愛に疎いわたしはそういうのよくわかんないし、よく知らない人と付き合うのは気が引ける。
14年しか生きてないわたしが言うのはおかしいけど本当に『人生が嫌になった』というのがわたしの心境にぴったりはまった。
「ねえ、彼女を家に呼ぶのはいいけど、リビング散らかしたら片付けてよ!」
先に大人になっていっちゃう海音への悔しさもあったのかな?
わたしはついつい彼にあたってしまう。
「なに?自分が彼氏できないからって妬んでる?」
「くだらないこと言ってないで片付けて。掃除機かけられないじゃん」
「はいはい」
海音はめんどくさそうに立ち上がる。
わたしの家は両親が共働きをしていたので家事はわたしがやることが多かったのだ。
「まー、波音ってあんまりモテないもんなー」
…くっ、こいつ、まだ言うか!
「そんなことないもん。この前3年生の先輩に告白されたし」
「へ〜……って、ええぇ!?」
海音が素っ頓狂な声をあげる。
なによ、そんなに驚かなくたっていいじゃない。
そりゃ、あんまりモテないけどさ、告白されたのは事実だし。
「で?返事は?」
「べつに海音には関係ないし」
「…………ああ、そうだな」
しばらく何か言いたげだったが一言そう言うと彼は部屋に戻ってしまった。
「なんなのよ……っていうかまだ片付け終わってないじゃない、海音のバカヤロー!!」
それからしばらく経ったある日。
わたしが家に帰ると玄関に海音の靴と知らない女の子の靴がある。
「あー、また彼女さんを連れ込んでるわね?」
わたしは小声で呟いて靴を揃える。
勉強しないであいつはテスト、大丈夫かしら?と思わないでもないが…
女の子と遊んでるあいつの自業自得だ、と思い知らんぷりで部屋の前を通りすぎた。
しかし、その時海音の部屋のドアがちょっとだけ開いていたのね。
だから、見ちゃったの。
海音と彼女さんがキスしてるところ。
…そりゃあ奴がいろんな女の子と遊びまくってるのは知ってたけどね?
でも実際に現場を目撃しちゃうと…こう、生々しさ?が違うのよ。
一気にその事実がわたしにのしかかってくるような感じ?
わたしは逃げるように自室に閉じこもりこっそり泣いた。
隣の部屋からは仲よさ気な一組の男女の話し声が聞こえてくる。
わたしは声を押し殺してこっそり泣いていた。
どれくらい泣いていたかはわからない。
ただ、いつの間にか眠ってしまっていた。
「波音、起きろよ」
身体を揺さぶられて意識を浮上させる。
「うぅ……」
「もう7時だぜ?夕飯食べよう」
「え…パパとママは?」
「うーん、なんか遅くなるって電話がきた」
「…そう」
「どうしたんだよ、声、変だぞ?目もはれてるし」
そう言われた途端さっき見てしまった場面がフラッシュバックする。
「やっ……!」
わたしは自分でもわからないままこっちにのばそうとしていた海音の手を振り払う。
「なっ……急に何なんだよ!」
いや、あの子に触った手でわたしに触れないで。
汚い……キタナイ!!
「出てって!」
気づいたらそう叫んでいる。
「…夕飯はどうするんだよ…」
海音は困った顔で突っ立っている。
当たり前の反応だろう。
これは単なる八つ当たり。
彼からしたらわたしの行動は本当にわけのわからないものなはずだもの。
「いらない!出てけ!!」
わたしはそこら辺に転がっているぬいぐるみや枕を彼に投げ付けた。
「わ、わかったよ」
とりあえず、彼は途方に暮れたような顔をしながら退散した。
いつもみたいに『なんだと!?』って怒らなかったのはわたしが泣いていたからかもしれない。
それからしばらくしてパパとママが帰ってきて、わたしはしぶしぶご飯を食べた。
リビングにいる間、海音はずっと無言だった。
そして夜中。
パパとママが寝静まり、わたしもベットの電気スタンドをつけて本を読みそろそろ寝ようと思っていたとき…
音も立てずに海音が部屋にやってきた。
「なっ…なに!?」
わたしは驚いて声をあげる。
もうちょっとドアをノックするとか入室の仕方があるでしょう!?
なぜ入り口で亡霊みたいに突っ立ってるのよ!
「波音、変だよ」
いや…夜中に人の部屋にひっそりとやってくるあんたのほうがおかしいわよ。
「…変って?」
「なんとなく…だけど……。もしかして先輩にふられた?」
「はっ?」
先輩……ってなに?
「ほら、前に告られたとか言ってたじゃん」
あー、たしかに言いましたけれども!
あれは丁重にお断り申し上げたわよ。
だってわたしはその先輩に興味なかったもん。
「…違うし」
「じゃあなんで泣いてた?」
「だーかーらー、海音には関係ないの!」
いえ、実はありまくり!
「関係なくても気になるし!なんていうか、最近ずっと無視されてて…淋しいっていうか……ほら、おれってシスコンじゃん?」
知らないわよ…。
しかも自分のことシスコンって言い張る人初めて見たわ。
「海音には彼女さんがいるから淋しくなんてないでしょ」
「恋人と妹は違うだろ。おれたち家族だし」
妹。
その単語にまたチクリとわたしの心は痛みだす。
「海音はわかってない」
「ああ、言ってくれないとわからないね!おれは超能力者じゃないんだから。なに悩んでるんだよ」
「…シスコン海音に言っても何にも解決しないもん」
「シスコンは関係ないだろ!」
「……わたし、海音が好きなんだ」
「……え?」
気づいたら口からポロッとこぼれた。
ついでに涙腺まで再び緩んできた。
海音は目を丸くしたまま固まっている。
「ほら、困るでしょ?」
「おれも波音が好きだよ。まあシスコンだし」
その言葉を聞いてわたしの中の謎の導火線に火がついた。
「違う!兄として好きなんじゃない!わたしは海音をひとりの男の子として好きなの!!」
「………………」
彼は再び固まる。
そしてみるみるうちに茹蛸みたいに真っ赤になった。
「え……ちょっと……え??」
その後に続く言葉はどうせ『おれはそんな風に思ったことなかった』でしょ?
「ちょっ…頭を整理しないと何が何だかわからない!」
海音はそういうと慌てて自分の部屋に戻ってしまった。
…実の妹に告白されたら…困るのは目に見えてたのに…。
わたし、海音を困らせた…。
波音はまたしても泣きながらうずくまった。
それからまた、今度は違う意味でわたしと海音はぎくしゃくしていた。
主に海音のほうがおかしい感じだ。
常に目が泳いでいて、わたしと目が合うと逃げ出す。
「海音が最近おかしいな。頭のネジをどこかに落としてきたんじゃないだろうな?」
と、パパ。
「きっと恋煩いよ」
と、ママ。
いやいや、恋煩いはありえない。
あいつはわたしの告白を聞いて怖くなったのよ。
妹に男として見られてるっていうこの現実が。
まあわたしのほうはもう悲しくなくなってきた。
心が麻痺してきたっていうのもあるかもしれないけどあそこまであからさまに拒絶されたら、ね。
さすがのわたしにも諦めという気持ちが沸いて来るわけよ。
ただ、最近、海音から女の子の影が消えた。
もしかしたらわたしのせいで女の子全部が怖くなっちゃったのかも。
いわゆる女性恐怖症?
だとしたら悪いことしちゃったなー、と思う。
わたしの心のゴタゴタに彼まで巻き込んじゃったんだもん。
「はい、洗濯物」
「わっ!?」
わたしが奴の部屋に畳んだ洗濯物を運ぶと奴はベットの上で読んでいた漫画と一緒にひっくり返った。
「なっ……突然現れるなよ!ノックしろ、ノック!!」
「洗濯物で手が塞がってたの」
…というかあんただっていつも人の部屋にずかずか入り込んでくるじゃないの。
「…心臓が止まるかと思った…」
なによ、人を化け物扱いして!
「ふーん?エロ本でも読んでたわけ?」
「ちげーよ」
「あのさぁ……べつに気にしなくていいから」
「え?」
「あの時のこと。忘れていいから」
「…無理」
「忘れられないくらいわたしのこと好きになっちゃった?」
と、ふざけ半分で言ったのに海音の顔は真っ赤になった。
え…まさか…図星?
いや、まさか…ねえ。
「いや……だから…その、おれたち双子じゃん?」
「うん、だから忘れて」
と、部屋を出ようとしたその時だ。
後ろから突然抱きしめ…いや、羽交い締めにされた。
「な、なにす…」
「だから…双子だと結婚も子供も無理なんだぞ!」
「…知ってるってば!そんなことより離して!」
なによ、説得する気?
「…波音は…それでもいいの、か?」
「え?」
「おれと恋愛するにはさー、…結婚とかそういうの、全部捨てなくちゃならない。それでいいのか?」
え…なに、どういうこと?
「ほら、おれは女じゃないからわからないけど、女にとっては子供産むことに夢見てる人とかいるじゃん」
「つまり…わたしが良ければ海音はいいの?」
わたしは信じられない気持ちで尋ねる。
「うん……だっておれ、波音が好きだし」
「はあぁ〜?」
ほんの数ヶ月前まで彼女を取っ替え引っ替えしていた奴が何を言う!
「おれ、波音しか好きになったことないけど?」
「この大嘘つき!」
「嘘じゃない」
「いいえ、嘘よ!」
「信じろって!!」
「じゃあ彼女がいたことに関してはどう説明する気かしら?」
「それは………波音は知らなくていいんだよ」
と、目を逸らす。
「怪しい…」
「波音だって先輩と…」
「付き合ってないし!告白されただけだし!」
「うぅ……じゃあさ、…お前、バージンなわけ?」
「な、ななな…何を言うの!?デリカシーのないやつ!!そんなことよりあんたの過去については!?どう説明するのかしら?」
「それは………てほしかったから」
「何?聞こえない」
海音はまたしても真っ赤なポスト状態に。
こいつ女慣れしてるんだかしてないんだか…。
まるで初な女の子みたいじゃない…。
「波音に嫉妬…してほしかったから…?」
今度は疑問形だ。
いつもはふてぶてしいのにどうして急に覇気のない男になるのかしら?
それに嫉妬してほしかった、ですって?
「バカじゃないの!」
「…いや、理由はそれだけじゃなくて……他の女子と付き合えばお前を諦められるかなって…思ったんだよ」
「へー、それで清くない不潔なお付き合いを繰り返した、と?」
「………それは若気の至りデス」
ふっふーん。
たまには海音のやつを言い負かすのも気分いいかも♪
「それで?」
「結局諦められなかった……というか波音が好きとか突然言い出すから変に意識したじゃんか!」
「わたしのせいにしないで。わたし、女の子をたぶらかす海音みたいな男、大嫌いなの」
「…え、嫌…い?」
本当に絶望したみたいな顔をするから面白い。
まさか自分の兄がこんなに面白い人だったとは…。
今日だけでいろいろな海音を発見した気分♪
「波音さん。おれがバカで最低だって素直に認めるのでお付き合いしてください」
もちろん、波音がほんとにいいなら…だけど、とやつは付け足した。
わたしは思わず彼に飛びついた。
「おれ、波音のことが世界で1番好きだよ」
彼はわたしを受け止めながら小さく呟いた。
しかし、これでめでたしめでたしと、お伽話のシンデレラストーリーみたくはいきません。
だってわたしたちは双子です。
そんな秘密の恋人同士になった双子は高校生になりました。
「なー、おまえらって仲良すぎじゃね?たまには自立したら?」
クラスメートや友人にそう言われる場面が増えてきました。
「双子が仲良くしちゃいけない規則でもあるのかよ」
「いや、ねーけど……いわゆる男女の仲を疑われるぞ?」
「はあぁ?」
「睨むなよ、冗談だって!それにさ、俺が波音の彼氏に立候補したいって理由もある。海音、お前邪魔だって」
「…光輝、もう1度…言ってみろよ?あぁ?」
「もう、海音もこうくんも喧嘩しないで!」
「だってこいつが…」
「こうくん、ごめん、お断りさせていただきます」
「波音、何気にひでーよ〜」
「ざまあみろ♪」
と、こんな場面が多々ある。
まあ実際に男女の仲とやらになってるのではっきりとは否定できない。
ただ、こういう友達やクラスメートはふざけ半分に言ってるだけだから心配ない。
そう、それだけならよかったんだけど…。
「ねえ、高瀬さん?」
「あ…」
となりのクラスの美麗さんがやってくる。
野沢 美麗。
学年一美人とかいうので有名だ。
男子たちにすごくモテてるらしい。
で、でも、そんなひとが一般人のわたしになななんの用でしょうか…?
「ちょっとお話しない?」
「は…はい?」
わたし、この人とあんまり話したことないんだけど…。
「あなたのお兄様のことで相談があるの」
海音の?
…ああ、なるほど。
海音ってさ、結構モテるんだよねー。
スポーツ万能だからかな?
(勉強はよろしくないけど)
でも、こんな美人さんが海音を!?
わたしの兄(彼氏)ってそんなに大層な人だったっけ?
「私、高瀬くんが好きなの」
ええ、そんなことかと思いました。
「はぁ……」
「それでね、高瀬くんにあなたからそのことを伝えて欲しいの」
…なぜに?
わたしは高瀬 海音の伝書鳩ではございません。
「…あの、そういうのは自分で伝えたほうがいいのでは…?」
とか言いつつも、こんな美人に告白されたらわたしなんて捨てられるかも、と不安…。
「だって、彼は取り合ってくれないんだもの。そうよ、貴女のせいで」
「……わたしの?」
「高瀬くんって、シスコンでしょう?それに貴女もブラコンよね。そういうのムカつくのよ。絶対不滅のきょうだい愛みたいな?」
「……………」
この人、完全にキャラが変わってらっしゃる…。
被っていた猫が取れたのね。
美人っていうのも大変だなぁ……。
「そういうのって恋する人たちにとってすごく邪魔。もちろん貴女だけじゃないわ。貴女が好きな男子からしたら高瀬くんは邪魔なのよ。だからさっさと離れなさいよ!!」
そんなこと言われましても…。
『わたしたち実は恋人でーす☆』とは言えない…。
ここでカミングアウトするとかどんな勇者よ。
「大事な家族だから無理です」
あ、わたしの口が勝手に……や、やばい…。
「そういうのをウザイって言ってるのよ!いいわ、やって!!」
彼女の掛け声とともに男子生徒たちがやってくる。
…なんでしょう、この漫画みたいなシチュエーションは!?
あ、そういえばこの人ってどっかの令嬢だっけ??
つまり…この男子たちって雇われてたりする!?
「私の警告を聞かないのがいけないのよ。大体、神経図太すぎない?」
いえ、あなたには言われたくないです…。
「靴がなくなっても教科書がなくなっても気にしないだなんて」
…あれ、あんたの仕業だったのか!!
そういえば最近、よくわたしの物がなくなると思ってたのよねー。
靴の時は学校にスリッパを借りたし、教科書の時は海音に見せてもらった。
でもでも『人の物を盗ってはいけません』って幼稚園で習わなかったの?
そういうのって犯罪なんだから!!
って…
「ひゃああぁ!?」
知らない男子たちに身体中撫で回されてわたしは悲鳴をあげる。
き、気持ち悪い。
「めちゃくちゃにしちゃっていいわよ。そんなあんたの姿を見て悲しむ高瀬くんは私が慰めてあげるから」
はあ?ふざけるなよ?
何様だかお嬢様だか美麗様だか知らないけど?
「う゛っ」
わたしは思い切り目の前にいる男子の…その…急所を蹴った。
ただ、何人もいるから…圧倒的にわたしが負けてるけど。
でもわたしって大人しい女じゃないからね?
「痛っ」
「うわっ」
その後も相手の手に噛み付いたり、顔を引っ掻いたりを繰り返す。
ほら、ここが不良校でヤンキーたちのたまり場だったら違ったかもしれないけど、
わたしの通う学校は結構な進学校だから男子と言ってもそういう人たちはいないの。
そんなにすぐにやられたりしない。
しかも………
「ふーん、そういうことか」
と、教室の入り口にもたれかかって暢気に観察している…海音…だと!?
ちょっと、そこは助けなさいよ!!
あ、言い忘れてたけど、ここは空き教室だからね!
「し、海音様!?」
という野沢 美麗の驚いた声。
海音様って誰よそれ?
どっかの御曹司なわけ?
そしてシスコンだから…じゃなくて彼女が辱められそうになってるから今にも暴れ出しそうなオーラを纏っている奴。
「ねー、ミレイさん。これ、職員室に提出したらどうなるか面白そうじゃない?」
と、彼が取り出したのは携帯…。
なんとさっきまでの別人美麗の声が録音されていた。
たまにはやるじゃん、海音。
「な、なんで……」
「「やべっ」」
男子生徒たちはそれを見て慌てて逃げ出す。
逃げ遅れた最後のひとりには海音が後ろから蹴りを入れていた。
「なんで?そんなのあんたが1番わかってるだろ。お嬢様の皮を被った悪魔さん?」
「え…」
彼女は今にも泣き出しそうだ。
…泣いたら何でも許されるわけじゃないけどね。
でも好きな人にこんなこと言われたら泣きたくなる気持ちはわからなくもない。
わたしだったらわんわん泣き叫ぶね。
「最近波音の持ち物がなくなるんだよねー。で、おれはあんたがものを隠すところをこの目で見たわけ」
え、マジ!?
なんで教えてくれなかったのよー。
「でもあんたの性格からして証拠がなければしらばっくれるだろ?だから証拠を採取したわけ」
「……………」
お嬢様は青ざめた顔をしている。
…海音って普段バカそうだけど案外すごい奴?
とりあえず敵には回したくないわね。
「次波音に何かしたらこれ提出するから。さ、行こう」
と、わたしは連れ出される。
ちらっと後ろを見るとちょうど彼女が床に崩れ落ちたところだった。
その騒動(?)からとりあえず陰湿なイジメ行為はなくなったんだけど…。
大変なことになったのですよ、はい。
わたしにとっては人生最大のハプニング!!!
わたしたち双子が高校を卒業する春。
わたしに1ヶ月に1度やってきていたお客様がぱったりと訪問をやめてしまったのです。
…つまり…その…妊娠しました。
「…マジ?」
「うん、マジ」
「エープリルフールの冗談?」
「…ううん、ほんと」
しかもまだ3月だよ。
それにわたしって生理不順なことがたまにあり…。
だからセンターの時とかは『疲れすぎで遅れてるんだろうなぁ』とか気軽に考えすぎてたから…。
気づいたら3ヶ月。
はじめまして、コウノトリさんって感じ。
つまり……ラスボス(両親)と戦わなくてはいけません。
だって産むにしてもおろすにしても未成年者は両親の許可が必要だもん。
「…でも、おれらって双子だよな?」
「…妊娠ってやばいよね?」
「父さん、怒るかな…」
「ママ…泣くかも」
と、不安を抱えながらも赤ちゃんというのは成長が早いのですぐさま決戦に!
「あの、母さん……おれ、波音を妊娠させたっぽい…」
…うわ、海音冷や汗半端ない…ってわたしもか。
「…パパ、ママ、ごめんなさい」
「「え…」」
父も母も多分1分くらいは石像になっていたと思います。
そりゃあこんな告白、驚かない親なんていません。
「じゃあ結婚しなさい」
「「はい?」」
しばらくしてからパパが出した結論に今度は双子揃って固まります。
…パパ、今なんておっしゃいました?
「そうね、それがいいわー。そっかぁ、たしかに海音も波音も仲良しだものねー。でもママ、二人がそんな仲になってたなんて全然気づかなかったわ」
「海音、男の責任はちゃんと果たさないとだめだぞ」
……うちの両親って変!!
って今海音も思ってるはず!!
だって自分の子供たちがこんな状況なのに……その暢気なコメントはなんだ!?
そしてなんか産む方向にいってませんか?
わたしと海音は口をあんぐりと開ける。
『予想外』とはまさにこういう時に使うための言葉だ。
絶対に怒られるか歎かれるかと思っていたのに…。
というかちょっと待て。
問題はまだ全然解決してないんですけど!?
「父さん、おれたち双子だぞ!?結婚とか無理だろ!!」
「だからって逃げるのか?」
「はぁ?」
「どんな困難な状況でも立ち向かわなければ男じゃない。私は海音をそんな軟弱男に育てた覚えはないぞ」
…パパ、何なのその無茶ぶり…。
まさか身元を偽造しろとか言い出さないでしょうね?
「もう、パパったら。でもママも二人の結婚には大賛成!波音がどこかの家にお嫁に行っちゃうなんて淋しいもの。でも海音ならその心配がないわね」
…お母様…そういう問題ではないかと思われるのですが…。
もしかしてパパとママ…きょうだいは結婚不可という法律を…知らない?
とか思っていると…。
「じゃあわたしたちも二人に話さなくちゃいけないわね」
とママがため息をついた。
…この流れってもしかして…『わたしたち再婚なの。あなたたちは双子じゃなくてお互いの連れ子よ』とかいうパターン!?
って、だったらこんなに似てるわけないし!
どっからどう見ても『きょうだい!』って感じだし!!
「実はね、海音と波音は双子じゃないの」
出たーーーーー★
「ママ…もしかして…再婚?」
「えぇ!?まさか。パパはママにとって一生に一度の最愛の男性よ?」
…そうですね。
パパもママもこの年になってもラブ×2だからそれはわかる気がする。
「二人とも仏壇を見るんだ」
「「仏壇?」」
見ると、まあいつも通り死んだおじいちゃんと死んだ叔父さんの写真がある。
叔父さんと言うのはママの弟さんだ。
「一哉はね…あ、ママの弟だけど、今からだいたい18年くらい前かしら?交通事故で亡くなったの」
「そしてその一哉くんにはひとり息子がいたんだよ。まだ生まれたばかりだった」
………まさか。
「それっておれ?」
「そうだ、海音だ」
……なんだって?
つまり海音はこの家の子じゃない!?!!?
「あのね、一哉は筋金入りのシスコンだったの」
「いやいや、おまえだって相当ブラコンだった」
…ちょい待て、それって今の海音の話と何か関連性あるの?
「それでママそっくりのお嫁さんを見つけてきたのよ」
「あー…たしかに似てたな」
「その人、紗耶香さんって言うんだけどとっても優しくて、一哉がシスコンだと知っていながらあの子と結婚してくれたのよ」
「ああ、しかもおまえと紗耶香さんって本当の姉妹みたいに仲良かったな。外見も似てたし」
「そうそう。それでわたしと彼女、同時期に妊娠して陣痛も同じ日だったわ」
「あー、今でも覚えているぞ。一哉くん、紗耶香さんよりおまえの心配してパニクって、あの時は本当に大変だった」
……一哉叔父さん…会ったことないけど本当に恐ろしいほどのシスコンだったんだね…。
「で、紗耶香さんのほうが早く産んだのよ、海音を。で、その5時間後くらい?わたしから波音が生まれたわけ。それがたまたま同じ日だったの。奇跡的でしょ?」
「それから名前を付けるのも大変だったよなぁ」
「そうね。わたしたちの赤ちゃんは最初から『波音』って名前にすることが決まっていたのよ」
「そうしたら一哉くんがね、『姉さんのところとそっくりな名前がいい』って紗耶香さんに言い張って…」
「……だからおれと波音ってきょうだいじゃないのに名前が似てるのか…」
納得したように海音が言う。
それに、ママに似てる紗耶香さんから生まれてきたからわたしと海音は似てるんだ。
これこそ本当に『他人の空似』だ。
(※正確には他人ではなく親戚ですが)
…それに、紗耶香叔母さんご愁傷様…。
「で、そのすぐ後だよ。…海音はたまたまうちに預けられてたんだよな」
「そう。そして用事があって出かけていた一哉たちの車が…ね。二人とも即死だったそうよ」
「だから海音だけは助かって、それからおまえをうちの養子にした」
「じゃあ…父さんも母さんもおれの両親じゃない…のか。それに二人にとっておれって偽物の…」
「そんなことないわよ!だいたい、海音だってわたしの母乳で育てたんだから!」
「それに海音と波音は似てるからわたしたちだって海音が自分たちの子供じゃないなんてこと忘れてることのほうが多かったしな」
「つまり、まあきょうだいとして育ったけど二人は従兄妹なのよ。だから結婚できるわよ♪」
「海音が花婿になれば今までと変わらないしなあ」
と、パパとママはまた暢気に笑っていた。
「…海音、大丈夫?」
「へ?何が?」
「そのパパとママのこと…」
「…ああ、…まあ多少はショックだったけど……ああ言ってくれたし、それに波音と結婚できるってことのほうが嬉しいから大丈夫だ」
「本当?」
「いちいち疑うなよ。というか一緒に育ったんだからきょうだいテレパシーでわかれよ」
「え〜?それは無理」
「それより…波音こそ…ごめんな?」
「え……何が?」
「ほら、子供産むなら大学行けないじゃん」
「あ。忘れてた……ま、いっか☆」
「…軽い」
と、こんな感じにめでたく事件は解決したわけ。
それでかんのいい人ならもうわかってると思うけど、この小説の1番最初らへんに出てきた琴音っていうのがわたしと海音の赤ちゃんだよ♪
それにしてもあんな頃もあったのね。
そういえば中学の時の真っ赤になった海音は可愛かった。
そしてある意味ヘタレ…
「誰がへたれだって?」
「あ……もうお風呂からあがったの?」
「波音を待たせちゃ悪いと思ったんだよ」
あ、そういえば、海音はちゃんと大学を出て今では大企業に勤める社会人です★
それにやっぱり同居じゃないほうがいいと海音が言い出したので今はパパとママとは別々に暮らしてます。
っていうか…なんですか、その微笑みは…。
…なんか嫌な予感…。
「それに琴音はもう寝たんだろ?なら楽しいコトをしようか、波音」
「え、遠慮しておこうかしら?」
「二度と可愛いとかヘタレとか言えないようにたーくさん可愛がってあげるよ♪」
「あ、悪魔だあぁ〜!」
「失礼な。でも、愛してるよ、おれの姫」
「わわあああぁぁ、痒い、身体中痒いよー!!」
と、今でもラブ×2(?)な双子物語でした。
END
「そういえばさ、わたしが告白した時だけど…」
「うん…?」
「なんでシスコンだなんて言ったのよ!」
「…照れ隠しかな」
「目が泳いでる」
「だってそう言わないとあの時泣いてる波音が可愛すぎて襲い掛かりそうだったんだよ!」
「変態!」
「だがその変態はおまえの旦那だ、諦めろ」
「……変態は…否定しないんですか…」
こんな二人ですが、近所では有名なおしどり夫婦ですよ★