第七章「決闘の街」(9)
「よく考えたら火攻火守が最強じゃないのか?」
ユマが思い付きを口にしてみる。
確かに彼の言う通りである。火風を取れる駒は火風しかない都合、最強の駒で主駒(王)を守ればまず負けることはないだろう。
「そうでもない。四風は全て同じ法則に支配されている。試しに火風を動かしてみろ」
言われるままに火風を一マス前進させてみると、最も近い源風を中心に盤が赤く光り出した。
「四風を活躍させるには、いわば司令塔が要る。それは主駒以外の源風で、司令塔となった源風は火源風とか金源風とか呼ばれるようになる」
ルガの説明はわかり辛いが、ユマが理解するにこういうことだろう。
まず、全ての四風は単独で能力を発揮できず、必ず源風の支配下に置かれる。平たく言えば、源風を中心に陣を組むのである。それぞれ源風からの距離によって能力が変動する。火風は源風から二マス以内の距離にある時に最も強く、一マス離れるにつれて、一つ下の四風の強さと同等に下がる。それぞれ金風は三マス、雷風は四マス、土風は五マスが自分の力を発揮できる範囲である。つまり、司令塔となる源風から四マス離れた火風は、雷風相当の強さしか持たないということになる。ただし、源風の一マス以内にある雷風が火風と同等の強さになるということはなく、離れすぎた駒は風風より弱くはならない。また、一つの源風に従う四風の数に上限はなく、主駒を司令塔とすることは出来ない。弱い風風が主駒の守備に用いられるのはそういうことなのだろう。
「司令塔が取られた場合、従っていた四風は新たな源風に属すまでの間、二手に一回しか動けなくなる」
「それだと司令塔となった源風の方が主駒より強い」
「将棋とはそういうものだろう。四風将棋は、攻撃の前にまず陣立てをするところから始まる。自由に編成してみろ」
こう言われて初めて、ユマはまだゲームそのものが始まっていないことを知った。
とはいえユマは「陣立て」の定石を知らない。自然、ルガの見よう見まねになるところだが、それにしては四風が少ないために難儀した。
「練習なのだから自由になさればよろしいのです」
と、パソォ。
「陣立てというなら、有利不利があるだろうに。後に陣立てした方が有利じゃないか?」
「本来は隠すのだが、最初だから見せている。さあ早く並べてみろ」
ルガに急かされながら適当に駒を並べ終わったところでようやく試合開始となった。
「まあ、とりあえず攻めてみろ」
言われるがままに源風に火風と金風を配した陣を進める。その間、ルガは適当に駒を動かして迎撃の仁を布く。
「ほう、風風も連れてくるか」
「四風が少ないとこれしかないんじゃないか?」
ユマが進めている陣は二つの火風を先頭に、金風と風風で源風を守っている。やがてそれは、恐らくルガがわざと弱く編成した雷風と土風の陣に接触した。
数手使って、ユマはルガに言われる通りにそれらを駆逐した。
「見ろ、ユーユ。火風が源風から離れすぎている」
そう言って、ルガは近くの陣にあった金風でユマの火風を取ってしまった。
「あ、そうなるのか」
「火風は最強だが、使いようを誤ればこうなる。火攻風守の難しさはここにある」
その後もルガは適度に負け続け、やがてユマの火金陣――火風と金風を主に編成しているからこう呼ばれるらしい――はルガの主駒に近づいた。
主駒の周りは半円が描かれていて、ルガの説明だと主駒はここから外に出ることは出来ないらしい。
「ふむ、そろそろ風風で成ってみろ」
「成る」という言葉は、すぐにユマの頭の中で諒解された。ユマは半円の中に入った風風を自らの源風に隣接させた。すると、源風から二マスの位置にある火風が淡く光った。
ユマがルガの導くままに念じて見せると、風風の駒は赤い光とともに形を変え、火風となった。
そのまま攻め進み、ユマがルガの主駒を取ると、主駒を囲っていた半円が消え、今度は最も近くにあったルガの源駒が光り、主駒となった。同時にその駒の周りに円が描かれた。
「この円は?」
「主駒が移動可能な範囲だ。まあ本陣のようなものだな」
「なるほどねぇ……」
「さて、これくらいにして、次は本番と行こう」